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SixTONES「マスカラ」
2021年8月11日リリース
SixTONESと言えば、名前を知らない人はいないだろう。ジャニーズの6人組のアイドルではあるのだが、彼らの存在は、これまでのアイドル像を大きく覆す力を持っている。ステージング、そこで見られるパフォーマンス、メンバー各々が持つディープなカルチャー感。あらゆる要素が複合的に混じり合うことで、SixTONESのクリエイションは実に多彩な様相を呈している。EYESCREAMを普段からご覧いただいている方であれば、常田大希(King Gnu、millennium parade)が「マスカラ」の楽曲提供を行ったというのはビッグニュースだったのではないだろうか。そして、それを自分流儀に歌い上げるSixTONESのオリジナリティあふれる姿に驚かされたのではないだろうか。実は、SixTONESはその側面から考えると、非常にサブカルチャー的な存在だと捉えることができる。そんな魅力を考察していきたい。
「SixTONESの新曲は常田大希提供のラブソング」。このニュースは、音楽ファンを驚かせた。なぜならまず、常田大希がこれまでアーティストへの楽曲提供をほとんど行っていなかったから。そんな彼が、ジャニーズの、しかもデビュー2年目のグループへ楽曲を提供した。当初は賛否を持って話題になったが、新曲「マスカラ」がテレビ初パフォーマンス(「THE MUSIC DAY 音楽は止まらない」 / 日本テレビ系)されると、驚きと共にその評価は一気に“賛”に傾いた。
King Gnuの「白日」や「飛行艇」をカラオケで歌ったことがある人などは痛感しているだろうが、クラシック音楽由来の常田が手がける楽曲は、独特なメロディラインと大胆な楽曲展開により、まず正確に歌いこなすのが難しい。「マスカラ」で言えばさらに、無機質でシンプルな令和的なビートに、アコースティックギターのアルペジオとカッティング、どことなく歌謡曲を思わせる歌詞とメロディが乗るという、常田らしいが感情の乗せどころの難しい楽曲。ベースは新井和輝(King Gnu)、鍵盤は江﨑文武(WONK、millennium parade)が担当しており、隅々まで“常田節”が光る1曲だ。
SixTONESはそんな難易度の高い「マスカラ」を、まさにSixTONESのものにしていた。それは表現者としての実力を持ち合わせているからというのはもちろん、彼らが音楽や芸術に対して高い感度を持っているからに他ならない。デビュー前からライブのステージに立っていただけでなく、ミュージカルなどでの演技経験も豊富な6人。伸びやかな歌声とネイティブな英語の発音でSixTONESのボーカルを牽引するジェシーは洋邦ジャンル問わず幅広く音楽を聴き、中でも玉置浩二や事務所内の先輩・堂本剛を敬愛しているというだけあって、歌心は群を抜く。美しいハイトーンで惹きつける京本大我は帝国劇場での『エリザベート』のルドルフ役を3度演じているほどの実力派。Mr.Childrenをはじめとするロックバンドが好きで、ギターも演奏する。ひときわ端正な顔立ちの松村北斗は映画『ライアー×ライアー』で主演を務めるなど演技派として知られる一方、読書やお笑い、映画鑑賞を好み、『東海ウォーカー』では美術愛を語る連載を持つ芸術肌。髙地優吾は一般的なジャニーズタレントとは違い、テレビ番組のオーディション(「『スクール革命!』3年J組!新入生オーディション」 / 日本テレビ)を勝ち抜き芸能界に入ったという異色の経歴の持ち主。バラエティ番組で自身の立ち振る舞いを学んでいく姿勢は、歌やダンスの向上心にも見られる。バラエティ番組で培ったバランス力が買われ、グループ最初のリーダーも務めている。最年少の森本慎太郎はジャスティン・ビーバーを好きなアーティストとして挙げるほか、海外のトロピカルハウスを好んで聴くなど、海外のトレンドを敏感にキャッチする。田中樹はラップを担当することが多く、自らラップ詞を手掛けた楽曲も存在する。彼のラップセンスはR-指定(Creepy Nuts)も認めるところであり、『SixTONESのオールナイトニッポンサタデースペシャル』にCreepy Nutsがゲスト出演した回では2人が田中のラップを大絶賛。その後、音楽特番『2021FNS歌謡祭夏』(フジテレビ系)でCreepy Nutsと田中がコラボパフォーマンスしたことは記憶に新しい。なお、その際のイントロは田中によるフリースタイルだったそう。
「マスカラ」という楽曲が持つ力は、SixTONESだからこそ発揮できるものであることも特筆しておきたい。どこか哀愁漂う短いイントロに続いて始まるのは<飾らない笑顔で / ありきたりなキスをして / 凡庸なラブストーリーが丁度いい>というフレーズ。SixTONESはバラエティ番組やラジオ番組で自然体な姿を見せる一方、アイドルとしてとびきりの笑顔やクールに決めた表情で雑誌や広告を飾るアイドルである。そんな彼らが“飾らない笑顔で、ありきたりなキス”をするような凡庸なラブストーリーを、しかも“丁度いい”と歌う。アイドルという肩書きを持つ彼らが歌うことでしか持ち得ない、説得力が生まれている。また6人グループであるからこそ生まれる歌割りやハモリの采配も、楽曲の世界観を描くのに最大限に生かされていることも追記しておく。さらにSixTONESはこの楽曲を踊りながら歌う。楽曲全体を覆うギターのカッティングの様子を採り入れた振り付けはキャッチーで印象的。それでいて、彼ら自身デビュー時にはすでに「振りを揃えるのを諦めた」と話していた通り、1人1人のリアルでノンフィクションな動きが、憂いと色気を増長させる。ちなみにYOSHIKIがプロデュースしたSixTONESのデビュー曲「Imitation Rain」にはピアノを弾く振り付けが採り入れられており、彼らのパフォーマンスには楽曲制作者へのリスペクトも感じられる。
ミュージックビデオも、楽曲の世界を作り上げる上で欠かせないコンテンツ。「それは“SixTONES”という、1人の男のお話」というコンセプトで制作された「マスカラ」のMVでは、6人で1人の男を演じるため映像がめまぐるしく移り変わる。メンバー自身も「SixTONESのこういうところを撮って欲しかった」と、その出来栄えには太鼓判(SixTONES公式YouTubeチャンネル「新曲『マスカラ』紹介ポップ大発表会」より)を押している。
歌、パフォーマンス、そのときどきで見せる表情。このMVを見ると、彼らが間違いなく“表現者”であることがわかる。もちろん、そこに彼らの圧倒的なビジュアルの良さも加味されているのはいうまでもなく。かと思えば、くじらが作詞作曲を手がけた「フィギュア」(「マスカラ」初回盤B、通常盤に収録)のMVは全編アニメーション。
彼らの豊かな表情どころか、ビジュアルの良さもスタイルの良さも観ることができない。彼らの作品は常に楽曲が最優先なのだ。ちなみに1stアルバム「1ST」通常盤収録「うやむや」のMVも全編アニメーションで、ダイスケリチャードのイラストレーションを使ったことでも話題を集めた。
彼らがここまで楽曲最優先、作品の世界を最優先で制作するのは、先述した通り、メンバー自身の音楽や芸術に対しての感度が高く、さまざまな音楽やそれに伴うクリエイティブに自ら触れてきているから。そして何よりも、彼ら自身が純粋に音楽を楽しんでいるからだ。例えば森本は幼い頃からサーフィンを嗜んでいたため、自然とサーフミュージックに触れているようで、海外のトレンドだけでなく、例えば平井大などのサーフミュージックも好む。京本は『SixTONESのオールナイトニッポンサタデースペシャル』のオリジナルジングルを作るコーナーでギターを弾きながらモノマネを披露することがあるのだが、その歌がものすごくうまいし、生放送の番組でも自身の高音パートを、ネタのように惜しみなく繰り出す。田中も同番組では幾度も自作のラップを披露している。今挙げたのは一例に過ぎないが、音楽で遊ぶことを知っている6人なのだ。今作に限らず、SixTONESが音楽性の面からも評価されるのは、何よりも、彼らが音楽を楽しみ、表現したいように作品を作り上げているからではないだろうか。そんな彼らが見せる“凡庸なラブストーリー”。異例の記録を作り続けてきた彼らが、デビュー2年目で“凡庸”という新境地に挑む。