ART 2023.05.31

Interview: GUCCIMAZE 個展“DEST”で提示する<不明確な目的地>の意図

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Photograph_Takao Ookubo, Edit&Text_Ryo Tajima[DMRT]

GUCCIMAZEによる3年ぶりの個展『DEST』が5月21日より、ギャラリー月極で開催されている。本展示では自身の原点回帰を1つのコンセプトに、「ここまで来て最近一度立ち止まって冷静になる機会が増え、自分の今後の目標とは一体何なんだろうと考えるようになった」というGUCCIMAZEが、新しい目的地を探し始めた自分自身を表現した内容になっている。中にはグラフィックのプリントだけではなく手描き作品も展示。その模様は下記のような感じだ。

『DEST』=DESTINATIONが開催された今、GUCCIMAZEは何を達成し、時代をどう捉え、次へ視点を向けているのか。この個展に際して、事前に行われたアンケートを踏まえながら、今考えていることを話してもらった。

適当に好きなものだけ作って生きています
という方が性に合っている

ー個展のタイトルを『DEST』にした理由として、自分の今後の目標とは一体何なんだろうと考えるようになったそうですが、そこには立ち止まるきっかけとなる出来事があったんですか?

GUCCIMAZE:何か明確な出来事があったわけじゃないんですけど、どんな業種の人であっても、何歳であっても、目指す目的みたいなものが何かしらあるじゃないですか。それが昨年の後半辺りから見えなくなってきて、今度どうしたらいいんだろうかと漠然と思うことがあったんですよ。そんな矢先に月極から個展をやらないかって話をもらったんです。

ー昨年の後半辺りというのは、自身のキャリア的に大きな仕事を成し遂げたとか。そういったことがあったんですか?

GUCCIMAZE:強いて言うならラフォーレ(※)は大きかったかもしれないですね。デザイナーだったら目指すべきものだと思いますし、自分にとっては大きな出来事だったので。

https://www.instagram.com/p/Cm1ZoubSVVx/

※…2022年の夏冬の2シーズンに渡って、LAFORET GRAND BAZARのビジュアルを担当した出来事。GUCCIMAZEが手掛けたグラフィックがラフォーレ 原宿に大きく掲示された。

ー仰る通り、誰から見ても非常に大きな仕事だと思います。そういったGUCCIMAZEさんのキャリアを考えると、まさにアーティスト! だと思うのですが、事前アンケートでは「自分のことをアーティストとは思っていない、あくまでもグラフィックデザイナーとしてやっているつもり」という回答がありました。そこに、こだわりも感じるのですが、何か理由があるんですか?

GUCCIMAZE:ひと言で言えば性格的なものだと思います。もともとデザイン会社で経験を積んできた背景があって、広告業界の成り立ちや流れは理解しているつもりなので、そのうえで作業をする方が慣れているんですよ。それに、自分で自分の肩書きを決めつけたくはないんです。基本的には自由でありたいんですよね。作家だから、デザイナーだから、というわけではなく、GUCCIMAZEというジャンルのように見てほしいと思っていて、作家的視点もデザイナーの視点も両方を持っておこうと考えているんです。

ー状況や内容、話す相手によって肩書きもグラフィックデザイナーであったりアーティストであったりするという?

GUCCIMAZE:そうですね。「どっちかハッキリした方がいいんじゃないか」ってアドバイスをもらうこともあるんですけど、まぁ、自分のことですから。そこはどっちでもいいんじゃないかなと思いますし、何かを決めなくちゃいけないとするシーンへの、静かなアンチテーゼ的マインドもあって、あえてハッキリさせないところはあるかもしれません。はじめましての人に「何をされているんですか?」って聞かれたときには、「なんか絵を描いています」って答えたり。適当に好きなものだけ作って生きていますってことしか言わないんですけど、そんな感じの方が、自分の根源的なスタンスに合っていて生きやすいんですよ。

息するようにデザインのことを脳内で考える

ーファッションや音楽、カルチャーのシーンを見渡したときに、GUCCIMAZEさんのグラフィックは現代のデザインのベースになっているように思います。実際に、多くのデザイナーやアーティストがGUCCIMAZEさんのスタイルに影響を受けていると思います。そこに対して思うことはありますか?

GUCCIMAZE:うーん、どうなんでしょうね。自分がきっかけで変わったのか、影響を与えたのかはわからないですけど、SNSの発展によってデザインの価値観が一気に変わったというのはありますね。ちょっと昔まで、デザインに対する固定概念やフォント使いに対する美学が決められていたように思いますけど、この10年で、いい意味で常識がぶっ壊されたと思うし、そこに少しだけでも自分が加担していたりするのかな? と、下の世代が発信しているグラフフィックを見て思ったりもします。

ー時代的にも過去と今では変わっていると思いますし、GUCCIMAZEさん起点で変わった、変えてしまった部分もあるんじゃないかと。

GUCCIMAZE:言い方が悪くなってしまいますけど、かつて自分がいたデザイン業界って、ルールやセオリーで縛られている部分も多くて、なかなかオリジナリティのあるデザインが生まれにくい環境でもあったんじゃないかと思うんです。それが、今はSNSという強いプラットフォームがあるから、自分が若い頃よりも、みんなすごくアウトプットしている。スキルやクオリティ云々ではなく、その機会があるのはうらやましいし、すごく面白い時代になってきたと思いますよ。ちょっとセンスはあるけどデザインのスキルがない非デザイナーの子がスマホのアプリ1つで、それっぽいものを作ることができたり。ある意味での危険性はありますし、SNSが狂わせたって解釈もできますけど、広く見れば、今後どんどん若いデザイナーが出てくると思うので、そこは楽しいですね。

ーそうですよね。一方で、今、ハマっていることと、そこから受ける影響は? という質問に対して「デザインをすることに1番ハマっている」と回答しています。これって、最近ハマっていること、四六時中デザインを考えること、という意味ですか?

GUCCIMAZE:いえ、これは一過性のものではなくて、会社員時代に意図的に身につけたんです。というのも、大学を卒業して、いざデザイン事務所に就職したとしても、いただいたお題に対応するデザインが自分の頭の中にないから作れないんですよね。例えば、レディースブランドのガーリーなデザインなんて自分の引き出しになかったわけです。

ーそりゃ、そうですよね。

GUCCIMAZE:では、どうすればいいのかと考えたときに、世の中に溢れかえっているデザインを、興味があろうがなかろうが徹底的に見てインプットしていくことにしたんです。目の前にある広告やSNSで流れてくるフライヤーを見て、その良さを考えたり、自分だったらどう作るかってことを頭に描いてみたり。そんな風に自分の中で対話するクセを身につけたんですよ。こうして誰かと話しているときも、頭の片隅で目の前にあるデザインのことを考えていたり。息するようにデザインのことを分析したり頭の中で組み立てたりしてしまう、それが自分にとってのインスパイアになります。デザインにハマり続けているっていうのは、そういうことなんです。

モノ作りの楽しさを再認識できた

ーなるほど。では、今回の個展にある作品もそうですが、グラフィックについて考え抜いて制作を進めていくという流れになるんですか?

GUCCIMAZE:そうですね。ポンと降りてくるようなことではなくて、24時間365日、脳内でずっと考えて組み立てながら、こうしたら新しいかもしれない、この歴史を引用して、こう表現したらカッコいいかも、とか。そんな風に日々、頭の中で肉付けを繰り返していって、その先に初めて手で描いて、ようやく出来ていくものなので。ちょっとしたきっかけはあるんですけどね。

ー最初の取っ掛かりになる、いわゆるスタート地点はあったりするんですか?

GUCCIMAZE:けっこう抽象的なものがきっかけになることがありますね。木目、コンクリートの質感、グラスの反射だとか。小さな点で見て、綺麗なものやカッコいいと感じるものから、どんどん膨らませて、どうなるのかを設計して肉付けしていくってことが多いかもしれないですね。そのときに、これまでにないアプローチや別角度の解釈を考えて、何か変なことが起こせるんじゃないかなって、なるべく多角的に脳を柔らかくしてアプローチすることを意識的にやっています。

ー今回の展示では手描きそのままの作品も展示されています。実際に制作されてみて、やはり面白く魅力的だと感じたんじゃないですか?

GUCCIMAZE:いや、どうだろう。もう幼少期からずっとやってきたことなんで当たり前のこと過ぎて、自分としては特別な価値は見出せなかったんです。

ーあら! そうでしたか。

GUCCIMAZE:でも、手描き作品を見たお客さんが、この筆跡がいいだとか、オンリーワンの良さがあるって言ってくれて、逆に目から鱗でした。手描きなんて下書きなんだからあげるよって感じだけど、そうじゃない価値観があるらしいって。これは、自分が世間知らずというか、アートシーンのことを知らな過ぎたかもなと。

ー今回の個展、そういった新たな気づきは他にもありましたか?

GUCCIMAZE:自分の場合、作っているプロセスが好きなだけで、完成したものを展示する個展というのは、そこまで興味があるものではなかったんですよね。もちろん、やると決めたらしっかり取り組むし、『DEST』も一生懸命考えて制作したんですけど、個展をたくさんしたいタイプではないんです。だから、3年ぶりの個展になったし、今回も集客を頑張らなくちゃって考えもしなかったんですけど、そんな自分の思いとは裏腹に、遠方からも多くの人が足を運んでくれて。そこにびっくりしています。

ーたしかに。そういう意味でいくと、たまたまGUCCIMAZEさん的には個展の話がきたのがタイミング的にちょうどよかったのかもしれないですね。

GUCCIMAZE:そうですね。一周して過渡期というか。どこに向かうのかって時期にお声がけいただいたからこそ、それをテーマに着地することができたので、すごくよかったと思っています。

ー『DEST』のタイトルにある新しい“不明確な目的地”について、現時点で感じるものはありますか? どんな変化がありそうでしょうか?

GUCCIMAZE:この会場に置いてあるものは、すべて自発的に作ったもので、クライアントワークじゃないんですよね。さっきもお話ししたんですけど、自分は作るプロセスが好きで、今回の制作はすごく楽しむことができました。作っていてアドレナリンが出てくるというか。熱中して作業していたら夜が明けていたってことが久々にあったんです。そこで、改めて自分がモノ作りが好きなんだなって再認識できました。個展が始まってからも、思わぬ形で手描きの作品を受け入れてくれたり、想像以上の人が来てくれたり。そんな風に『DEST』に来てくれた人からかけられたひと言が引っかかって、今後のクリエイティブに影響していくかもしれないですね。個展が終わる頃には、こういう路線で頑張ってみたいってことが明確になっている可能性もあります。少なくとも、立ち止まって考えるのに、よいきっかけをもらったと心から感じているので、絶対に何らかの影響が自分にあると思います。

GUCCIMAZEのルーツにあるサーフィンを形にしたコラボ作。日本を代表するサーフブランド『ジャスティスサーフボード』別注のオリジナルサーフボードだ。本作はGUCCIMAZE初のコラボレーションとなるのだが、武器を連想させるシルエットが度を超えたインパクトを放ちつつ、非常にGUCCIMAZEらしい意匠となっている。

INFORMATION

GUCCIMAZE Solo Exhibition “DEST”

会期:2023年5月21日(日)ー6月11日(日)※月火水休廊
開場時間:14:00〜20:00(木/金/土)13:00〜19:00(日)
入場料:無料

月極
東京都目黒区中央町1丁目3-2 B1
http://tsukigime.space
@tsukigime.space

GUCCIMAZE
https://www.instagram.com/guccimaze/

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