ART 2023.06.30

小松千倫による個展「Sucker」がThe 5th Floorで開催。苛烈な過去の声を吸い出し、逆流させる

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部

音楽家、美術家、DJと領域横断的に活動をつづける小松千倫の、自身7年ぶりとなる個展「Sucker」が根津のキュレイトリアル・スペースThe 5th Floorにおいて7月7日より開催される。

小松は1992年高知県生まれ、京都市在住。これまでに〈angoisse〉(バルセロナ)、〈BUS editions〉(ロンドン)、〈flau〉(東京)、〈Manila Institute〉(ニューヨーク)、〈psalmus diuersae〉(サンフランシスコ)、〈REST NOW!〉(ミラノ)など国内外のさまざまなレーベルより複数の名義で膨大な数の音源をリリース。また、情報環境下における情報とそれに隣した身体の関係、その記憶や伝承の方法について光や歌を用いて制作・研究している。

20 cassettes, 2014, Photo by Yusuke Kajitani


Painful (Horse Moon), 2022, Photo by Stefany Lazar

本展において小松は、「作品」もしくは「展覧会」の鑑賞体験を空間ではなく時間的体験の極致に振り切ることを試みる。空間の壁自体を音響装置とし、会期中すべての日程ごとに異なるサウンドを再生するというが、詳しくは本展キュレーターの髙木遊の言葉を読んで、そしてThe 5th Floorのある5階まで階段を上っていってほしい。

小松千倫は、見えていなかった、聞こえていなかったもの、忘れていたものを慈しみ、それらを嫌味なく、そして説教臭くなく、現前させてきた表現者だ。「作品」あるいは「展覧会」の規定する鑑賞体験は、時間的体験と空間的体験のパラメーターを揺れ動きつつも、その多くが空間的体験を基盤にしている。本展『Sucker』にて、小松千倫は、それらを時間的体験の極端へと振り切ろうとする。これは、彼の表現者としての絶妙な立ち位置を、いや、立ち位置ではない。彼の表現者としての運動を、「美術家」、「音楽家」、「DJ」あるいは「研究者」をケンケンパしてきた動向を示している。本展は、現実世界に起こる現象を捉え、切り取り、顕示せんとする潮流への逆行である。

本展タイトル『Sucker』は、「吸う、吸引する」を意味する「Suck」に、「する人」の意をもつ「er」が付加される。辞書通りならば「カモ、だまされやすくて、利用しやすい人」。しかし、小松的には、ストローの穴を通じてシェイクを吸い出すように、穴の向こう側から何かを吸い出す人、その行為と構造、そして吸い出されてくる何かを「Sucker」と定義する。そう、『Sucker』が穴を通じて吸い出すのはシェイクなどではなく、はるか遠く、現在では想像できないような苛烈な過去の声だ。

植民地時代の南洋で言語研究を行った海軍将校の松岡静雄。
関東大震災直後の喧騒の中で憲兵に殺害されたアナキストたち、伊藤野枝と大杉栄。
アナキストたち殺害の罪を被り、服役し、のちに満州国建国において暗躍した甘粕正彦。
詩に現実性と平易性を求め、発声を重視した民衆派の白鳥省吾。
占領下の中国で膨大な量のアヘンの取引に関与した里見甫。
三原山火口に身を投げた学生たち。
そして100年前の日本に存在したであろう声々。

『Sucker』では、空間の壁自体が音響装置となり、1時間のサウンドが1日に7回再生される。そのサウンドは会期中全ての日程ごとに異なる。その内容は、掩体(えんたい)、アヘン吸煙器具、井戸、胞衣穴(えなあな)、三原山火口といった筒/穴の形象について、そして、その穴の周囲に集う声たちだ。本展は、「声」と隣り合わせの主体性、不朽性を問いかけながら、「展覧会」という肥大化した視覚空間に対して、声を吸い出し、逆流させるのだ。

—髙木遊

INFORMATION

小松千倫「Sucker」

会期:2023年7月7日(金) – 7月30日(日)
会場:The 5th Floor(東京都台東区池之端3-3-9 花園アレイ5F)
開場時間:13:00 – 20:00 ※7月7日のみ19:00 – 20:00 / 閉場:月、火、水
再生時間:開場時間中、毎時00分より1時間再生、19:00が最終回
入場料:¥500
アーティスト:小松千倫
声:小松千倫、敷地理 、下村ひとみ、人工音声たち、早川葉南子
デザイン:原田光
施工:柏木崇吾
キュレーション:髙木遊
主催:The 5th Floor
賛助:D/C/F/A
問い合わせ:The 5th Floor / info@the5thfloor.org

POPULAR