ー最近、皆さんの身近なところで、人やお店など気になる動きってありますか?
笹嶋:「Dark Jinja」を主催している京都のsouj(ソウジュ)くんが打つイベントは大体面白いですね。あと、ペフの周りの画廊もめっちゃ回ってます。OギャラリーeyesとGALLERY wks.は、比較的若くて、いわゆる現代美術の展示をやっているところ。それぞれが美術組合みたいなものを持っているような、超老舗ギャラリーも2軒あるんですけど、そこもまた面白くて。基本的におじいちゃんおばあちゃんの作品の展示しかやってないんだけど、たまに「こんないい作品をつくるおばあちゃんがいるんや!」っていうような展示があったり。
川良:GALLERY wks.は僕も行ったことあるんですけど、好きですね。雑居ビルの中に入っているんだけど、京都にも昔はああいうギャラリーってあったなと。ちょっとした小部屋を割と無理やり白く塗ってホワイトキューブにしたみたいな、力技的な感じというか。京都は飲食店でいうと、壬生モクレン。空間現代が京都に引っ越してきて立ち上げたライブハウス、外もいいですよね。自分の店の営業時間と被ってるからなかなか行けないんですけど、気になるイベントばっかりしてる。
田窪:大衆食堂スタンドそのだや台風飯店をやっている、いわゆる「そのだグループ」(FER)も面白いですよね。週末にDJイベントをやったり、最近は月台っていうグッズやアパレルのお店を中崎町の方につくったり。伊達努さんやNONCHELEEEさんみたいなイラストレーターを起用していて。このペースで行くと、音楽やクリエイティブな方面にももっと展開が広がっていくんじゃないかな。
川良:園田崇匡さんっていう人がやっているんですけど、園田さんの影響はすごく大きいと思う。京都にも「絶対そのだに影響されてるな」っていう感じのお店ができてる(笑)。
笹嶋:あとは、もともと大阪にある文化も気になっています。ペフは老松町というエリアにあるんですけど、僕は今32歳で、同世代やさらに若い人ってそのエリアに来ることがほとんどなくて。裁判所の近くの本当に静かな街で、30〜40年続いてるような画廊ばっかりあって、すぐそばに北新地があるから、新地で遊び疲れた人が美術に触れあいに来るという。ミシュランに載っているようなお店もちらほらあって、お金が動くエリアですね。大阪のガヤガヤした雰囲気がまったくなくて、日曜日はこの世の終わりかと思うくらい静か。
田窪:裁判所も閉まってるしね。
笹嶋:それで、店の周辺をいろいろ歩いていて気づいたんですけど、公民館とかのイベントって本当、尖ってるなって。
一同:(笑)。
笹嶋:子供を対象にしたイベントだったりするから当たり前なんだけど、朝9時半集合、10時開演、30分で終わって11時には終了っていう、僕たちが遊びで行くようなイベントでは考えられないつくり方で。だけどターゲットを考えたら、その時間帯だからこそ確実に人が集まるし、これまで遊びといえば夜だと思ってたけど、それって別に全然普通じゃないなって。あとは、北新地で遊ぶ前に同伴で来てコーヒーを飲んでいくお客さんとかもいて、僕からしたら「奇妙な出来事やな」と思ってたけど、その人たちにはその人たちのルールがある。店やイベントをやる上で、何がベストなのかを考えるためにも、元からあるものや根付いた文化をちゃんと見て考えなきゃなと思って。今、普通になっている枠組みみたいなものも、元を辿れば「みんながやってるから」くらいの理由だったりするし。
ペフ笹嶋一馬私物。
それぞれに最近購入した気になるアイテムを持参してもらった。ペフのメンバーである小西彩水が「東南西北kiken」というレーベルから最近出版した漫画、沖真秀の彫刻、フランスのコミック雑誌『LAGON』。『LAGON』は4月にペフでの展示も行うとのこと。
VOU川良謙太私物。
昨年訪れたトロントで購入したという、イギリスを拠点とするアーティスト、ブロンディ・マッコイの作品集。
なかにはダミアン・ハーストとコラボした作品も収録されている。
Pulp田窪直樹私物。
昨年Pulpでも展示を行ったアーティスト、管弘志のZINE。すベて手描きで描かれ、漫画のスクリーントーンが貼られている。
Pulp田窪直樹私物。
一方こちらは、京都の古道具屋itouによるオリジナル(通称「ニョロニョロ棒」)。ディスプレイ素材としてつくられたが、どのように使ってもよいのだそう。
ー最後に、みなさんの今後の展望をお聞かせください。
川良:まずは移転が大きな動きになるので、さっきも言った通り、ギャラリーの空間を使った企画を集中してやっていきたいですね。最近ニューヨークに行って、ギャラリーを回りまくったんですけど、すごく面白かった。空間も作品もいいし、街自体にナチュラルにそれを受け入れる空気感みたいなものがあって、感動したし、 僕もそういう風にしていけたらなと思いました。自分の周りにいる作家さんたちもニューヨークのギャラリーの展示に引けを取らない作品を作ってると思うから、それをもっとよく見せられる場所を作れたらいいですね。
笹嶋:僕は今の場所を初めてから間もないこともあるので、まず今年は誰にでも挨拶することを徹底する。
一同:(笑)。
笹嶋:どんな人でも何かをやりたいと思うことがあると思うんですが、「この場所でなら実現できる」と思ってもらえるような場所にしたい。それはアート的なものだけじゃなくて、生活に近いことや趣味でもいいと思うんです。僕は、最終的には自分がやっていることが魅力的な街をつくることに繋がったらいいなと思うんですけど、まずは大阪の文化的なポテンシャルをもう少し高めたい。それぞれがやりたいことをやっている状態自体を素晴らしいとみんなが評価できるようになったら、その延長線上に美術や表現があると思うので、誰もがそういう風に利用してもらえる場所になりたいというのが今の目標です。
田窪:若くてもクオリティの高いものをつくる人が増えてきているから、そういう人たちをすくっていきたいですね。「育ててあげる」とまでいうのはおこがましいけど、将来的にはそうしたいし、すでに名前の知られた人たちとも同じようにフラットに扱えたらいいなと。自分の場所を核にするのはもちろんなんですけど、もしかしたらPulpとして、それ以外の場所で企画をやることももう少し増やしていかないといけないかなと思っています。それは絶対自分にも返ってくるから。