変わるもの、変わらないもの。時代の変遷に伴ってEYESCREAMはサブカルチャーを起点に”今”を見つめているが、現代ほど日々価値観が揺らぐ時代の少なかったのではないだろうか。昨日まで普通だったことが明日には非日常になっていくこともざらだ。
何か大きくうねりのように、全世界的に人の考え方が変わりゆく今、大人の趣味って何なんだ。嗜好品って僕らにとってどんな存在なんだろう。そんな、これまで当たり前だったことを止めどなく考えたりすることが、今は必要なんじゃないか。現代を模索しながら生きる人間として、今も昔も欠かせない素敵な趣味の話をしようじゃないか。
連載第六回目は俳優、笠松将。直近の出演作には4月からスタートするNHKテレビ小説『らんまん』に出演する。酒屋の舞台の上で蔵人の幸吉を演じている。俳優という仕事を起点に趣味への考え方から俳優という職業について。笠松の哲学を聞いた。
ただやり続けているということが大切
ー俳優業と趣味の関係性についてお伺いしても良いですか?
笠松将(以下、笠松):俳優は経験したものが何でも仕事になるんですよね。そういう意味では色々と経験を積ませていただいているんですけど、僕の場合はいわゆる趣味っぽいものがあまり好きになれなくて。間接的に仕事に関係しているような、ちょっと外れていることを趣味にしている感覚があります。
ーそれは、例えばどんなことでしょう?
笠松:筋トレや読書がそれですし音楽を聴くこともそうですね。
ーでは、1つずつ教えてください。筋トレをやってらっしゃることは有名な話でもありますよね。トレーニングメニューや頻度には徹底したこだわりがあるんですか?
笠松:いえ、正直言うと適当なところもあったりします。ジムへ行ってから調子がいい日なら5セットやるし身体が付いてこないようなら2セットで種目を変えたりもしますし。重量もそうですね、気分で変えていきます。決めないってことが僕の中で大事なことで、だからこそ長く好きでいられるんだと思います。なりたい身体が明確にあるわけじゃなくてジムへ行って動くという行為自体に意味があるんです。もちろん仕事のために身体を大きくするためにトレーニングする時期もありますけど、基本的にはただやり続けることを大切にしています。
ー嫌になってしまったら続けられないですもんね。同様に好きで続いていることはありますか?
笠松:そんなに語れるほどのものはないんですけどタバコは吸い続けていますね。ずっと同じ銘柄でセブンスターのメンソール。
ーセブンスターを選んだのはどういう理由があるんですか?
笠松:昔、焼肉屋でアルバイトしていたんですけど、そこの店長がちょっとスタイルのある人でセブンスターを愛煙していたんです。ある日、仕事後にもらって喫ってみたんですけど、何だか疲れた身体に沁みる感覚があって美味しく感じたんです。これが仕事終わりの味なのかなって。それからセブンスターを喫うようになりました。
ータバコは男のカッコいい嗜好品といった印象があるのですが、笠松さん的にはどうですか?
笠松:僕が思うに、その物自体がカッコいい・悪いというものは世の中に存在しないと思うんです。持っている人がどう扱うかによってカッコよくも悪くなると思うんですよ。だから、僕は昔からタバコを喫うときはしっかりとマナーを守って人に迷惑がかからないようにしていますね、当たり前ですけど。ポイ捨てだとか美しくない行為はしません。
ー笠松さんの場合、タバコを喫う役柄を多いように感じますし、特に喫煙シーンを求められることも多いと思うんですが、役によって喫い方を変えたりはしますか?
笠松:いや、僕は一切変えないですね。吸い方自体を変えるアプローチがあまり好きではないんですよ。というより意識していないのかもしれません。まったく同じ吸い方をしたとしても、役によって違う印象に見えるように役作りをしているんです。
人生における大先輩の考え方を本から学ぶ
ー嗜好品という意味ではお酒もそうですが、お好きですか?
笠松:僕は基本的に一滴もお酒を飲まないんです。だけど、誰かが本気で作ったお酒や、自分のために誰かがわざわざ持ってきてくれたものであれば口にするようにしていますね。
ーそれこそ、4月からのNHK連続テレビ小説『らんまん』では蔵人の幸吉役を演じられていますね。日本酒を作る役どころでもあります。
笠松:そうですね。そういう意味で言うと、きっと物語に登場する日本酒も、そんな風に誰かが本気で作ったお酒なんでしょうし、飲んでみたいと思いますね。佐久間由衣さん演じる槙野綾さんが作ったお酒を。
ーなるほど。では続いての趣味について。音楽は何が好きですか?
笠松:昔からHIPHOPが好きで色んなアーティストを聴いてきましたね。今はJoey Bada$$(ジョーイ・バッドアス)とか、国内だとSEEDAさんはもちろんですけどNORIKIYOさんとかの世代のラッパーはよく聴きます。あと、¥ellow BucksさんやBenjazzyさんはすごく好きで聴いていますね。
ー続いて、読書について。どんな本が好みですか?
笠松:孔子の論語とか孫子の兵法書、韓非子だとかが好きなんですよ。読みながら『これは意味がわかる、これはわからない』だとか、自分に当てはまる部分を探しながら読んでます。人生の大先輩方はどんな考え方をしていたのか、自分の人生に活かせるものがないかと考えながら読書しています。
ーいやぁ、本については意外な感じがしました。小説とかお好きなのかな? と思ったりしたんですけども。
笠松:小説における物語自体にあまり興味が持てないんですよね。どう切り取ってどう演じるかで変わってしまうと思うし、悪役として描かれている登場人物も視点を変えれば、すごく良いヤツになったりしますから。そういうことを考えたりするのであまり読まないですね。物語という意味では、そもそも台本に描かれているものを常日頃読んでいますし。
俳優の定義を考え続けるということも大人の嗜み
ーたしかに台本を読まれているわけですもんね。では、大人の男の趣味とはどういうことだと思いますか?
笠松:“大人の男の趣味”。ぱっと聞くと僕からはほど遠いことのように思えますが、僕が思うタダでできる1番の大人の趣味は考えること、自分を見つめ直すこと思います。なぜそうなんだろう? と疑いを持って考え続けること、それはとても大事なことだと思います。なぜダメなのか、なぜ良いのか、それが自分の中で理解できていれば狂わないですよね。だけど、自分の中で理解できていないことはできないし、わかるまでできない。
ー考えることが趣味というのは、すごく面白いと思います。例えば、考え続けるとはどういう思考の変遷になりますか?
笠松:例えば、俳優って何をもって俳優なんだろう? だとか。昔バイトをしているときは俳優業で食べていくことができれば自分は俳優なんだと思っていたんですよ。つまり収入的に俳優で得た金額がアルバイト代を上回るということですね。僕には特別なスキルとかは無いのに、何が自分を俳優たらしめるのだろうと思うんですよ。本当に知りたいですね、何をもって俳優なんだろうかと。そういうことを考え続けるのが大人の嗜みなんだと思います。
ーその自問を今後も繰り返し続けていくことになりますか?
笠松:そうですね。もちろん現状の答えはあるんですよ。これだ! っていうものが。でも常に変化していくものなので難しいんですよ。それは言葉にしてしまった瞬間に答えではなくなるものなので、あえて明言しないでおきます。今後、「これが俳優です」ということがわかったら、それを一生懸命に頑張り抜くと思います。誰にもわからないことですし答えられないことでしょうけど。まぁ、だからこそ俳優業は面白いんですけどね。結局、僕の好き嫌いでしかない、認めるか認めないかしかないんです、自分のことを。
レザージャケット¥621,500、シャツ¥116,600、パンツ¥88,000、タイ¥30,800、ベルト¥48,400/以上すべてdunhill(dunhill)
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