Diggin’ in the Culture – from New York –
Photography – Koki Sato, Report – Mimi Tamaoki
音楽、アート、ファッションと、新しいサブカルチャーが生まれるのは、いつもこの街、NY。そこではリアルタイムで何が起こっているのか。現地からレポートしていく連載”Diggin’ in the Culture”。写真はKoki Satoさん、レポーターはMimi Tamaokiさん。
現在のNYのシーンは、ローワーイーストサイドやブルックリンが中心になっているが、実はもっとディープで奥が深い、だから長年NYにいても、どんどんディグしたくなる。今回の連載第3回目は、ブロンクス発進のスケートブランド/チーム、Public Housing Skate Team(PHST)。
カメラマンのKokiからブランド名を聞いた時に真っ先に思い浮かんだのは、「どうしてこのネーミング?何か深い意味があるのかな?」という素朴な疑問だった。”Public Housing”とは、日本語で訳せば公共団地。そう『公共団地スケートチーム』だ。
L to R Ron, Vladdy
ある週末にブランドの創設者であるRonとVladdyに会いに、彼らの地元であるブロンクスへ。
待ち合わせ場所は2または5トレインでダウンタウンから1時間ほどのGun Hill Road駅。正直、すごい強そうな駅の名前だな?と思った。実はこのエリアは、アメリカ独立戦争時代は戦場だったそう。彼らのブランド拠点は、駅の目の前に6棟で成り立つGun Hill Housesのプロジェクトだ。
ブランドのロゴもこのプロジェクトのロゴをサンプリングしている。プロジェクトとは、NYに来たことや住んだことがある人なら気づいたかもしれないが、NYの各エリアに聳え立つ茶色の低所得者用の公共団地。薬物の売買、ギャングの争い、発砲、強盗などの犯罪の巣になっているものの、昔に比べれば危険度も減少している。しかし観光目的でプロジェクトに行くことはオススメしない。
ネガティブなイメージがあるが、実際プロジェクト出身のたくさんの成功者がいることも事実である。良い例がHIPHOP界の大御所JAY-Zである。ブルックリンのMarcy Projects出身のJAY-Zは初期のビデオ「99 Problems」(2004) を通して当時のプロジェクトの現実を映像化していた。
JAY-Z – 99 Problems
RonとVladdyも、洋服を通して自分たちの住んでいる環境やライフ、リアリティをテーマにし、他のスケートブランドとは少し違ったアプローチをしている。2人の出会いは、10歳の時の地元のバスケットボールチーム。「バスケと同時にスケボーをやっていたんだ。10歳の時にNBAのプロバスケットボールプレイヤーかスケーターになるか決めて、自分の目標に向けて頑張ろうと決意した結果、選んだのはスケボー。それは、スケボーは自由でクリエイティブなスポーツだから。当時のブロンクスは、スケボーやっている奴らを見かけることはほとんどなかった。母親が買ってくれたミニボードで坂道を滑る練習してて、通りすがりの人たちに笑われたり。俺がチェック柄のVANSを履いていたら、地元の年上のヤツに、「お前足の上でチェスでもプレイするのかよ!」とからかわれたこともあったな。それから数年後に同じヤツが俺と同じチェック柄のVANSを履いていたのは笑い話しだったけどね。そのぐらいスケボーがレアだった。でもRonがいつも俺がプロジェクトでスケボーしているのをよく見ていて、すごい褒めてくれたのを覚えてるよ」とVladdyが話してくれた。
そして、ちょうど高校から大学に入る時期に2人はまたハングアウトするようになり、ある日ベンチでゆっくり座って話すことに、その時に、Ronがこう言った。「一緒に何かスタートしようよ!スケボーとフッドをテーマにしたブランド!昔地元をレペゼンするバスケットボールチームに入っていた時みたいに、チームになって、フッドをレペゼンしていこうよ!」そして、ブランドは後少しで4年目に突入する。DNAはスケボーと公共団地。
「俺たちのブランドは、俺たちの環境をそのまま表現しているだけなんだ。プロジェクトでの生活、周りで実際起きていることなど、全てだ。プロジェクトのシンボルであるフェンスの金網やレーザー刃がイメージソースになったり。レーザー刃は、実際にジェイルでは、レーザー刃を舌の中に隠して生活してる。他のギャングから自分の身を守るためだ。ここに住んでいるヤツらが、みんなそうしているわけではない。でも、そういう事実があるのは確かだ。事実を美化するんじゃなくて、ただストレートに表現してるだけだ。HIPHOPやグラフィティのカルチャーでもそうだ。環境と生い立ちが彼らのムードボードになっている。HIPHOPに関して言えば、女、ドラッグ、高級車、高級ジュエリー、バイオレンス、ギャング、シングルマザーがトピックだろ」とRonが話す。
ブランドは、10代から20代の若者のファンが多く、若いスケーターをサポートし、コミニティを盛り上げている。Vladdyにとって「スケボーは自分の人生を切り拓くヘルプをしてくれた。スケボーを通して、俺は自分という人間を理解し、地元を滑りながら、たくさんのことを学んだ。自分の考え方をアップグレードすることで、いろんな環境に適応できる自分にしてくれたり、なによりクリエイティブな物の考え方ができるようになった。スケボー、フィルムや洋服を作っている時が一番自分がクリエイティブになれる時だ」。自分と同じ環境にいた若者をサポートしたいという気持ちが伝わってくる。
ダウンタウンでのスケートシーンは、90年代からずっと活気があるが、ブロンクスはまさにこれからだ!まだ開拓されていないスケボーのスポットがたくさんある。新しいスケートパークもオープンする予定だ。
しかし、近年のNYの社会問題となっているジェントリフィケーションはどんどん進み、彼らの将来への不安も絶えない。「ブロンクスも少しづつ進んでいる。突如コンドミニアムが建ち、違う階層の人たちが住み始め、そうすることによって、俺たちの住んでいる場所の家賃や物価が上がり、長年このエリアに住んでいる俺たちにとってみれば大迷惑だ」とRonがコメント。Vladdyも同じ気持ちで「違う人種をミックスすることはカルチャー的にいいことだが、実際は人種をミックスしているのではなく、階層をミックスしているから、結果としてカオス状態になる」。常に彼らたちは置かれている環境に敏感で、ちゃんと直視している。
今後はブランドが生まれたこのプロジェクト(公共団地)でPop UpショップをやりたいとRonが熱く語る。「オーセンティックだろ。DJいたりしてさ。HIPHOPが生まれたのはブロンクス。プロジェクトの前にDJブースだして、ブレイクダンスしてただろ。だからPop UPショップだってここでやればいいんだ。みんなダウンタウンに行くんだったら、アップタウンにだって情熱があれば来るだろ。インターネットだけではわからないリアリティがここにはあるんだ」。
現在は日本のProv Tokyoやnubianでブランドを取り扱っている。地元への敬意、そして地元のリアリティを服や映像を通して世界へ発進するPublic Housing Skate Team。これからの動きが楽しみなブランドの1つだ。
Five Questions For You
Vladdy
①NYを一言で表現すると?
リアル。タフな街だからタフでいないと生きていけない。
②NYのどこが好き?嫌い?
好き:人種のるつぼ。それぞれ個性を持った人種がこんなに混在しているのは、世界中のどこを探してもない、ニューヨークだけ。
嫌い:批判的な態度かな。イベント行って、今流行りのスニーカーを履いていたらクールだ、というレッテルを貼ったり。
俺たちのライフがインスタに影響され過ぎ。もっとチルしてほしいね。
③NYの好きな場所
ブロンクス・リバーかブロンクスのボタニカル・ガーデン。 鷹がリバーを飛んでフォーダム(西ブロンクス)へ飛んでいくのを眺めるのが好きだな。
④朝起きて一番初めにやることは?(平日&休日)
平日も休日も同じで、メディテーションが一日の始まり。自分のアイディアやプロジェクトにフォーカスしてるよ。曜日で自分のムードを分けるのが嫌いなんだ。毎日が日曜日のようにチルしたムードにしたいね。俺は学校(アートスクール)のプロジェクトがあるから、ストレスになったりするのが嫌いなんだ。いつでも自分のバランスを崩さないようにしたい。ホームワークがあっても、毎日俺がやっていることと何かしらリンクさせて少しづつやっていくんだ。
⑤もし大統領だったら、何をする?
まずは全ての警察官から拳銃を没収して政治的にシステムを変えていく。その次に移民と教育問題にフォーカスしたい。学校では先生が生徒の意見をもっと取り入れて、生徒が学びたいことに対しての道具や知識を提供し、生徒が困った時に導いてあげるような教育方針に変えていきたいね。あとは、アメリカの食生活を変えたいな。俺はビーガンだからこの国の不健康な食べ物を取り除いていきたい。まずはマクドナルドをなくすところからスタートだ。
Five Questions For You
Ron
①NYを一言で表現すると?
チャンスがある街。
②NYのどこが好き?嫌い?
好き:チャンスがどこでもたくさんある。限界がない。
嫌い:ジェントリフィケーション。長年住んでいる人たちが払えない家賃や物価になっていき、ホームレスが増えている。公立学校の教育システムが最低だ。学校で学ぶより外で学んだことの方が多い。
③NYの好きな場所
MOMA(ニューヨーク近代美術館)やギャラリー。
④朝起きて一番初めにやることは?(平日&休日)
平日も休日も同じ。リラックスして深呼吸。その日の気分によって、何かクリエイティブなことを考える。ペイント、スカルプチャー、デザイン、映像や写真など。
⑤もし大統領だったら、何をする?
貧しい人たちの住居問題を改善できるように努力したいね。食べ物、シェルター、教育の3つの分野に力を入れて人助けができる政策にフォーカスしたい。ここからスタートしていきたいけど、俺が大統領になるのは無理だね。俺は事実を隠したりすることができないから、誰かが俺を暗殺しようとしたり、俺の家族に脅迫状を送るだろうから、辞退するしかないよ。
INFORMATION
Public Housing Skate Team
https://www.publichousingskateteam.com/
https://www.instagram.com/publichousingskateteam/
Diggin’ in the Culture – from New York – #2: Nothin’ Special
Diggin’ in the Culture – from New York – #1: Dirty Tapes NYC