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音楽、アート、ファッションと、新しいサブカルチャーが生まれるのは、いつもこの街、NY。そこではリアルタイムで何が起こっているのか。現地からレポートしていく連載”Diggin’ in the Culture“。写真はKoki Satoさん、レポーターはMimi Tamaokiさん。※取材撮影はNYロックダウン前の3月上旬に行いました
今回連載第7回目でディグしたのは、バージニア州出身、ブルックリン在住のマルチクリエイターCam Hicks (キャム・ヒックス)。EYESCREAM本誌2018年11月発売号のNIKE AF1 Utilityエクスクルーシブストーリー『NY “Voices of youth”』にも登場してもらったことがある。今回はキャムがフィラデルフィア拠点のパブリッシャーParadigmから写真集『FOR THE PORCH』をリリースするということで、久しぶりにキャムとキャッチアップすることに。
待ち合わせ場所は、彼が住んでいるブルックリン地区ブッシュウィクにあるカフェ、そして彼の自宅を訪れることに。長身でモデル体型の彼は幼少時代をバスケ三昧で過ごしたそうだが、足元の’85年モデルのナイキエアジョーダン1が、彼のバスケ好きを象徴している。左手のひらの「FREE THE WORLD」のタトゥーが目立つ。
どんな意味を持っているのか聞いてみた。彼は当時バージニア州でお堅いIT企業の仕事をしていた時に、毎日の仕事で精神的に窮屈さを感じていたそうだ。NYに移って来た時、解放感そしてフリーダムを感じたキャムは、
「この街はパッションがあれば、それを実現させるチャンスがある。だから1つの狭い世界にとどまらず、みんなに羽ばたいてほしいし、オレ自身こうやってチャンスがあることに対して、いつでも謙虚で感謝する気持ちを忘れないようにという想いを込めたタトゥーなんだ!」
と語ってくれた。
右手の甲の「FOR THE PORCH」のタトゥーは、去年の夏にキャムが大好きなショップNepenthes NYで開催した写真個展のタイトルで、ちょうど個展が決まった時にゲットしたものだそう。なにより、同タイトルの写真集を制作することになったのは、この個展がきっかけだ。
キャムが写真家の夢と希望を抱えてNYに移ってきたのは2017年。写真を撮り続けながら、デザイン制作、モデルやスタイリストとしても活躍中。Off-White、North Face、Nike、Engineered Garments x New Balance、そしてLouis Vuittonのファッションショー等の撮影を手掛けてきた。
「Nepenthesで開催したショーは、まるで夢のようだった。確か2017年にリセールサイトGrailedのインタビューで、 “Nepenthesがオレの好きなショップ”だって回答したことがあってさ。それから2年後くらいにEngineered Garments x New Balanceのルック撮影を担当させてもらって、同年にショップで “FOR THE PORCH”の個展をやらせてもらうことになったんだ。 “Porch”はNYじゃ見かけることはないだろうけど、一軒家の玄関先にある屋根付きのスペースで、そこによくお年寄りが椅子に座って、昔の彼らの経験を語るんだよ」。
キャムの地元バージニアから始まり、NYでの経験、世界中を旅したこと、たくさんの素晴らしい思い出話しや失敗して学んだことをいつか故郷のポーチに座りながら語りたいという彼の想いが個展のコンセプトだったそう。それに感銘したパブリッシャーParadigmのセオフィロスが、キャムに同じコンセプトの写真集を一緒に作ることを提案。元々本のデザイン制作の経験を持つキャムは、キュレーションからほぼ全てのクリエイティブワークを担当し、5ヶ月という期間で制作を終えたそう。
「表紙はラグジュアリー感がありつつミステリアスに仕上げたかったから、グレーのレザーをセレクトして、厚めのクッション素材にしたんだ。文字タイトルはオレの大好きなターコイズカラー。よくみんな写真表紙で、裏表紙に文字のパターンが多いけど、オレはこの本を通して、ある意味オレという人間、そしてオレの経験を記録に残したかったんだ。写真集というより、フォトメモワール! パリの3シーズンのLouis Vuittonのショーや舞台裏を撮影した写真だけじゃなく、スタイリングワーク、モデルワーク、家族紹介、Virgilとのテキストメッセージのやりとり、旅記録、体験談などを綴った構成になっている。そして、裏表紙に玄関ポーチがある祖母の家の写真をセレクトしたんだ。ここがオレのルーツだからね」。
手元にある写真集を1ページづつめくりながら、キャムにとってスペシャルな写真はあるか聞いてみた。1番初めに話してくれたのは、ヴァージル・アブローがクリエイティブ・ディレクターとしてパリで発表したLouis Vuittonのデビューコレクションの日に撮影したもの。サテン素材の赤いジャケットに身を包んだヴァージルやカニエの親友Don Cの背後で、ヴァージルが硬い握手を交わしている。
「ヴァージルが敷居の高いパリのファッション界の壁を打ち破った瞬間だ。ブラックカルチャーにとっては偉大な瞬間であると共にカルチャーが1つになった瞬間!それによって、オレみたいな若い黒人クリエイターやジェネレーションが活躍できる場を作ってくれたんだよ」。
と熱く語ってくれた。キャムとヴァージルとの出会いは、インスタグラム。Off Whiteのカメラマンとして仕事をもらい、当時1年ほど撮影をしていたそう。ちょうどヴァージルがLVのクリエイティブ・ディレクターに就任した2018年に、パリのLVで何かポジションがないかテキストしたのが始まりだそう。ヴァージルからパリに来いよ、という誘いをもらい、速攻でパリ行きの航空券を購入しパリのLVへキャムは向かった。ヴァージルからは、自由にクリエイティブに何でもやっていいという指示をもらい、プロダクションからショールームの歴史に残る瞬間をひたすら撮影し、サンプルブックを制作。ヴァージルが気に入ってくれたことから、毎シーズンのショーの舞台裏からランウェイを撮影するチャンスをもらって今に至る。
2つめは、Converseプロジェクトで訪れたアイスランドで撮影した友人。
「撮影後広大なエリアを散策していたら湖をみつけて、友人がその湖に歩いていったその瞬間にシャッターを切ったんだ。地球は大きくて、たくさんの人間が住んでいるのに、自分という人間はこの世で一人しかいないという偉大さを改めて感じた瞬間」。
と話してくれた。
3つめは、キャムのお気に入りのショップNepenthesとの出会いから撮影依頼、個展開催に至るまでの経過を紹介した写真だ。
キャムにとっての写真の存在は「エモーショナル」だと話していた。
「この写真集に詰まった写真は、その時々のオレの感情をフルに表している。落ち込んでいる時、そういう時はパープルとかダークなトーンで、楽しい時はオレンジや明るいトーンに仕上がる。自分の真の感情を表現するのが写真の在り方だと思うんだ」。
キャムの生き様をこの写真集を通して垣間見ることができた。マルチアーティストであり、ストーリーテラーでもある。常に向上心を持ち、将来的にはディレクションにも挑戦したいと話していた。今後のキャムのクリエイションが楽しみだ!待望の写真集は、5月5日の午前11時(米東部時間)にDover Street Market New Yorkのオンラインでサイン入り限定25冊とエクスクルーシブTシャツが先行で販売され、翌日の6日の午後3時(米東部時間)にはパブリッシャーParadigmのサイトからもリリース予定なので、是非チェックしてもらいたい!
①NYを一言で表現すると?
Competitive。
いい意味で競争力があるっていうか。NYはスピード感があって忙しい街だから、生き残るためにはとにかく一生懸命働くしかないんだよ。オレはそんなNYが好きなんだ。もしそれができないなら、さっさとNYから引っ越すしかないしね。それに、同じ考えや興味を持っている人たちと出会うことができる。オレがいろんなクリエイションをしたいように、同じような夢と希望を持っている人たちが、ここにはたくさんいるんだ。そういう場所に自分を置けることは恵まれているよ。オレの出身のバージニアではめったにないことだし。俺はニューヨークと張り合うために来たんだ。インスパイアされて、ライクマインドなヤツらに囲まれて、自分自身にチャレンジするためにね。
②NYのどこが好き?嫌い?
好き:人の動きが激しくて忙しいところ。オレの故郷バージニアはのどかなスローライフだから。
嫌い:たぶん汚いところ。オレが我慢できる以上に汚いっていうか……。NYのグランジ感はまあまあ好きだけど、その範囲を越して衛生的に汚いのは嫌かな。
③NYの好きな場所
LESのピザ屋Scarr’s Pizza。アレンストリートにある隠れ家カフェRound K。友達が働いているソーホーのStussyショップ。ここでチルしたり、みんなとの待ち合わせ場所なんだ。この3つが行きつけかな。
④朝起きて一番初めにやることは?(平日&休日)
平日:紅茶を作るか水飲んで、シリアルを食べる。
休日:チルするか前日のパーティーでの二日酔いから回復(笑)。
⑤もし大統領だったら、何をする?
オレだったら、保険料と教育費を無料にするね。
ARCHIVES
Diggin’ in the Culture – from New York – #6: Shredmaster Keith
Diggin’ in the Culture – from New York – #5: Let’s Play House!!!
Diggin’ in the Culture – from New York – #4: Dizzy Magazine
Diggin’ in the Culture – from New York – #3: Public Housing Skate Team
Diggin’ in the Culture – from New York – #2: Nothin’ Special
Diggin’ in the Culture – from New York – #1: Dirty Tapes NYC
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