CULTURE 2017.11.08

~トランプ時代のアメリカ文学~アメリカ文学を 読むんじゃなく、抗うのなら。

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Contribution & Text—Hikaru Fujii / Illustration—Naomi Nemoto / Edit—Makoto Hongo / Edit Assistant—Shu Nissen, Mami Chino

前夜:2013年

~トランプ時代のアメリカ文学~

むかしむかし、2013年のこと、亜米利加(あめりか)のあるところに、えすえふ作家が住んでおりました。
山に芝刈りにも行かずにえすえふ小説を書いては、でき上がると町に売りに行っておりました。
活劇満載で面白いと言ってくれる人もおりまして、えすえふ作家はそのたびに誇らしく胸を張るのでした。
この作家には野望がありました。町のはるか向こうにある都で認められたかったのです。
都では年に一度の祭り※1が催され、その年一番のえすえふ作品が褒め称えてもらえるのです。
近所での評判からして、俺にもその日が来るはずだ。そう信じて、えすえふ作家は山に芝刈りにも行かずに小説を書きました。
しかし、都から声はかかりません。
これはおかしい。えすえふ作家はそう思いました。俺のような優れた作家が認められないなんて、何かがおかしい。祭りに呼ばれた小説を読んでみると、人種の問題や性を巡る〝てえま〞とやらが盛り込まれているのはわかるが、だから何なのだ。
これのどこが俺より上だというのか? 悩んだ作家は山での芝刈りに精を出すことにしました。

そんな彼が、ある日山に行ったときのこと。ふとひらめいたことがあります。そうか、あの祭りは女やら有色人種やら同性愛者に乗っ取られているのだ!
だからこの俺さまをのけ者にするのだ。わかったぞ。最初から不公平な祭りだったのだ。
左翼特権というやつだ※2。ちくしょうめ。えらそうな連中に、世の中で頑張っているのは白人男性の俺たちなのだとわからせてやる。
俺たち、その代表が俺だ。俺による、俺のための、俺の祭りにするのだ。それが民主主義だ!
めいく・あめりか・ぐれーと・あげいん!!

かくして、えすえふ作家は芝刈り仲間に話を持ちかけます。俺の書いた小説を祭りに呼ぶよう、都に手紙を書いてほしい。
手紙の数さえ集まれば、祭りに行くことができるからです※3。その年、手紙の数は足りませんでした。
作家はさらに芝刈りの範囲を広げました。都に呼ばれるべきと思う小説を自分で選んで、見せて回る日々が続きます※4。
2014年も祭りからお呼びがかからないと、作家は意地になっていきました。俺たちの数のほうが多いのだから、俺たちに賞を!
要するに俺に賞を!!
共鳴する仲間たちも続々と集結して※5、祭りを〝取り戻す〞のだと息巻きました。
2015年、ついにその運動が実を結びます。あらゆる山々から手紙が山ほど送られ、ついに祭りの候補が、〝俺さま〞軍団の推薦する作品で埋め尽くされたのです。あとは祭りの日に勝利を祝うのみ!
ところが、祭りの日には思わぬ展開が待っていました。五部門で、軍団推薦作品しか候補に残っていなかったにもかかわらず、投票結果を見てみれば、五部門すべてで〝受賞作品なし〞※6になったのです。

俺さまたちは荒れに荒れました。おまけに、『氷と炎の歌』の作者※7である超大物作家からは〝負け犬の遠吠え〞と評される始末。
それでも芝刈りを続ける俺さまたちは、女性を代表にすればもっと票を集められるかも、などといかにも男性の上から目線の工夫をこらしたりもしましたが、そのうち、祭りの仕組みが変わってしまい、軍団票はそもそも受け付けてもらえなくなりました。
行き場を失う自己満足欲求。少数派が世の中を支配していることに募る憎しみ※8。ええいこの恨み、晴らさずにおくものか……。
すると、まったく別のところから、その思いに応えてくれる人物が現れます。国一番と豪語する地主の男が、自分が都の主になると言い出したのです。
女性も少数派人種も知らん、大事なのは俺さまのえごだ!というその姿、何から何まで、えすえふ作家の心を代弁していました。
どなるど・とらんぷという名のその男が、ついに都を手に入れたのです。

Note.
※1 ヒューゴー賞のこと。
※2 日本での類似した例と同様、“**特権”はそれ自体が妄想の産物である。
※3 会員からの推薦数により、各カテゴリーの候補作が決まる。
※4 彼が立ち上げた運動は“SadPuppies”と命名された。自分の作品を含む“推薦すべき候補作リスト”を発表して集票に励むキャンペーンを続けた。
※5 “Rabid Puppies”と呼ばれる別運動と共闘する形になった。
※6 組織的な賞ジャックに対抗して、“受賞作品なし”に投票しようという対抗運動が繰り広げられていた。
※7 ジョージ・R・R・マーティン。『氷と炎の歌』はメガヒットTVシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』の原作である。
※8 くどいようだが、これは妄想でしかない。

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