CULTURE 2017.11.08

~トランプ時代のアメリカ文学~アメリカ文学を 読むんじゃなく、抗うのなら。

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Contribution & Text—Hikaru Fujii / Illustration—Naomi Nemoto / Edit—Makoto Hongo / Edit Assistant—Shu Nissen, Mami Chino

現代作家が“炎上”する時……

~ツイッター名言集~

作家といえば、かつては華やかな存在だった。文化的なアイコンに祭り上げられた(がゆえの重圧にも苦しんだ)アーネスト・ヘミングウェイのような、誰もが知っているあの顔という存在感のレベルにとどまらず、私生活でも派手な話題を振りまく作家たちには事欠かなかった。
若き詩人だった二十代のウィリアム・フォークナー。とはいえ、まずは手に仕事を、ということで就職した口はミシシッピ大学の郵便局長。そこで伝説のサボりぶりを披露する。まず、気分が乗らなければ郵便局を開けない。各教員のもとに届けるべき雑誌類を自分が先に読み、遅配するだけでなく勝手に捨てる。詩を書くのに夢中で郵便局に人が来ても応対しない、友人が訪ねてくれば勤務時間中でもゴルフに出かけてしまう。そんなところに監査が入ると知らされ、観念したフォークナーは、「資本主義社会で切手を売ることに疲れ」といった趣旨の辞職願をしたためて退場したのだった。

 『ラスベガスをやっつけろ』の原作者ハンター・S・トンプソン、映画俳優のジョニー・デップとジョン・キューザックがつるんでいたある夜のこと。今日は自分が持っているダッチワイフの誕生日だ!と言い出したトンプソン、二人を連れてロサンゼルスの夜の街に繰り出し、適当にバーに入ってはそこの客と記念撮影をして、『Happy birthday to you』を歌うという奇行を繰り広げた。その深夜、警察に通報が入る。サンセット大通りの交差点で、男がダッチワイフに殴る蹴るの暴行を加えているという。駆けつけた警察にトンプソンいわく、「本気で誕生日を祝ってやったのにまったく感謝してくれない」
 ヘミングウェイは自殺した。ハンター・S・トンプソンも自殺した。ジャック・ロンドンも、シルヴィア・プラスも、リチャード・ブローティガンも自ら命を絶った。その系譜は、21世紀ではデイヴィッド・フォスター・ウォレスの自死(2008年)まで紡がれてきている。

時は変わって2010年代。驚くほど、その手の話題は少ない。そもそもアメリカの作家といえば、NYに住み、近所の仲間同士でつるんであれこれ話し合う、という濃密な人間関係がなくなってきていることも、そこには影響している。多くの作家は全米各地に散らばり、大学で教えているため、勤め人としてそれなりの常識を要求される。そうでなくても、アルコールなり麻薬なりの中毒を抱えた作家も希少種になった。詩人がTEDでプレゼンをして、視聴者から高評価を受ける、それが2010年代のクリエイター事情である。もっとも、勤め先の大学院創作科で学生に手を出してクビになった作家もいるのだが……。
 作家は書くのが本業なのだから、それ以外であれこれ注目しないほうがいい、というのは、もちろん正論である。とはいえ、作品に加えて何かの話題を期待してしまうのも、まだまだ健在な読者心理である。ハチャメチャなプライベートをもう期待できないとすれば、今の作家は何をしているのか?

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