映像作家の世界 Vol.1

CREATOR’S TALK ~辻川幸一郎 × 山田智和~

Text_Asako Saimura

映像作家の世界 Vol.1

CREATOR’S TALK ~辻川幸一郎 × 山田智和~

Text_Asako Saimura

その人や音が持つ世界観から逃れることはできない。

山田:ちなみに、辻川さんが自分の作品の中で、好きなものをあげるとしたらどれですか?
辻川:salyu×salyuの『Sailing Days』はけっこう好きですね。小山田くんが作っている曲で、これも音像をなるべく再現しようとしているんだけど、Salyuの声をエディットして何層も重ねているから、カメラの移動とそこに映っている人のリップをちゃんと合わせるのにすごく苦労したんですよ。でもこれ、どうやって作ったから絶対わからないと思うんだよね。すごく魔術的というか。

salyu × salyu「Sailing Days」Music Video

山田:(映像を見ながら)これ、全くどうなっているか思いつかないですね。
辻川:変態的にリップを合わせるのが、すごく上手くやれたんですよ。さっき、リップや演奏以外で表現しているって話があったけど、これは異常なまでにリップシンクしてますね(笑)。
山田:映像をかじった今見た方がやばいですね、これ。
辻川:良かったです、伝わって(笑)。
山田:でもこれがすごいのは、作品としての世界観がちゃんとあって、めちゃくちゃすごいことしているのに、そこに目が行かず、単純に映像がスッと入ってくるところですよね。
辻川:映像は、仕掛けや仕組みが偉いわけじゃなくて、やっぱり世界観が全てだと思うんです。だから、マッピングとか技術的なことが先行しているものにも、必ず世界観は出る。そこからは逃れることができないんだよね。どんなにおもしろいことをやっても、結局は全て、世界観に内包されちゃうから。
山田:自分がバレてしまう……恥ずかしさもありますよね。
辻川:いやぁ、本当にそうなんですよ。だから僕も、「あー僕こんな感じなのかー」って、今でもすごく悩みますよ。
山田:辻川さんでも悩むんですか!?
辻川:いや、悩みますよ(笑)。僕なんかずっと、何も進化していないですからね。山田さんが、モンゴルまで行ってやっていることのスケールの大きさや、都市というものを範疇に入れたものづくりの仕方も、自分よりもずっと大きなスケール感があって尊敬します。自分も、このスケールの小ささみたいなものと、そろそろ向き合っていかないといけないんですけどね。

山田:遊んできた場所がここだったから当たり前の感覚としてあるんですけど、モンゴルに行っても、そこで東京的なことを探してしまっているというか、結局そこからは逃れられないんだっていうことを痛感しました。モンゴル人にはなれないんだなって、そこですごく挫折したというか。
辻川:でも、その都市というフィルターに呼応するって大事じゃないですか?それはたぶん山田さんの作風になっていて、少なくとも僕の世界観よりはすごく広いし、早くもそこから逃れられないってものを見つけているじゃないですか。そこへ行き着くのも早いから、今後も絶対、山田さんは作っていけると思いましたけどね。ちゃんと、確固たる世界観があるんですよね。

水曜日のカンパネラ『メロス』

二人の作家が、今、選択する価値観。

山田:ちなみに辻川さんにとって、一番のアイディアソースって何なんですか?作品を見ていると、リアルなものというか、身近なものがよく出てくると思うんですけど。
辻川:やっぱり、一番は日常ですよね。あとは、記憶ですかね。子供の頃の記憶や感覚って、鮮明じゃないですか。グッとくる瞬間みたいなものは、自分の生活の延長線上にあることが多いです。
山田:辻川さんの映像って、コマ撮りしてるし、合成してるし、一見すごくデジタルな要素が強いのに、それを全く感じさせない。なんでこんなにアナログな手触りやリアリティがあるんだろうっていつも思うんです。
辻川:うーん、なんですかね。でも、CGの技術があっても、デジタルだから嘘っぽくて冷めるよねとはあんまり思わないんですよ。例えばLEGOで飛行機を作ったとして、本物の飛行機じゃないからデジタルっぽくてつまんないとは思わないじゃないですか。むしろ、LEGOで作っているから良かったりすることもありますよね?そういうものに近い感覚で、技術を使っているからかもしれないですね。意識的にアナログ感をつけていることもあるし、けっこう手癖が入っているんですよね。
山田:そこがめちゃくちゃいいですよね。変な話、今はなんでも複製できてCGで作ることができるからこそ。
辻川:やっぱり、根本は世界観だと思うんです。CGだからどうということではなく、その人が持っている世界観やバックボーンのほうが大事かなと。あと、これはものの考え方なんですけど、技術やテクノロジーの進化の肝って、テクノロジーが進化した瞬間に、必要なくなったテクノロジーが出てくることだと思うんです。仮に、デジタルが進化してフィルムの必要性が無くなったとしますよね。でも、その時に初めて、“あえてフィルムを選ぶ”っていう価値が生まれるんだと思うんですよ。そういう意味で言うと、テクノロジーって逆説的に、“必要なくなったテクノロジーを敢えて選択する”という価値を生んでいる側面があるとは思います。

-先ほど、辻川さんが「MVはパーソナルに作ることができるもの」とおっしゃっていましたが、コーネリアスと辻川さん、水曜日のカンパネラと山田さんのように、普段から仲がいいという関係だから生まれていった表現もあると思います。どういうことを意識して、アーティストと意見交換や表現について議論したりしていますか?

辻川:うーん、僕はただ雑談しますね。最近どうなのかとか、なんかおもしろいのあった?とか。それはもう、MVを作り始める前から変わっていないですね。
山田:僕も、水曜日のカンパネラは制作以外で話したり遊んだりすることが多いアーティストなので、阿吽の呼吸でできることが他のアーティストより多いのかもしれないです。あと、コムアイという被写体とのマッチングも大きいかもしれないですね。もちろんそこに音は入ってくるんですけど、どういう環境に彼女を置いたらおもしろいかって考えるところはあるかもしれない。
辻川:それはおもしろいかもね。そういう風に思える人がいるのはいいなぁ。

山田:最後にすごくざっくりした質問なんですが、辻川さんが今、映像業界に対して思うことってありますか?
辻川:うーんどうだろう。ツイッター上で一瞬で流れて消え去るスピード感かなぁ。そういう刹那的なものを、よしとするかどうかっていうこと。まぁ、僕はよしとするんだけど(笑)。
山田:えっ、そうなんですか?
辻川:しょうがなくない?そういう時代なんだなぁとはもちろん思うんだけど、そんな中でもまだ映像を作りますか?っていう話ですよね。これだけたくさんの人が映像を作っていて、時間をかけて作った映像も一瞬で消費される。これから映像で食べていくには、ユーチューバー的な企画やパフォーマンス能力の方が必要かも。
山田:そうなんですよね。ネコちゃんたちの方が稼いでますからね。
辻川:そうだよね。こんなに苦労してモンゴル行ったり、沢山のスタッフを巻き込んで1本ビデオを作っても、視聴者数だけで言ったら、ユーチューバーには全然敵わない。そんな中でも作るってことは、さっきの話だけど、テクノロジーの価値観の中であえてフィルムを選ぶみたいなことと近いんだと思う。今こんな作り方をしていることに、今後どういう価値が出てくるのかっていうことでもあるんだよね。だから、僕たちは変態なんだよね、やっぱり。あえてそこに向かっていってるわけだから。それがやっぱり、変態として生きていくってことですよ。
山田:変態(笑)。いいまとめができましたね。
辻川:ありがとうございます。
山田:ありがとうございました(笑)。

INFORMATION

辻川幸一郎
http://tsujikawakoichiro.com/
Twitter : @k_tsujikawa

山田智和
http://tomokazuyamada.com/
Twitter : @tomoymd

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