CULTURE 2017.12.27

〜文学と映画〜アメリカ文学を読むんじゃなく、観るのなら。『プレシャス』

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Text—Kohei Aoki Photography—Nahoko Suzuki [Still] Edit—Hikaru Fujii, Makoto Hongo Edit Assistant—Shu Nissen, Mami Chino

EYESCREAM12月号、テン年代のアメリカ文学特集はもうご覧になっていただけましたか?
アメリカ文学を読むんじゃなく、観るのなら。ということで、
この年末年始中に、読んでおきたい、観ておきたい作品を本誌からピックアップ。
部屋でのんびり過ごす時間を、いっそう豊かにしてくれること必至です〜

詩人として活躍していたサファイアが初めて著した1996年の小説が原作。貧困層ハーレムに住む16歳の黒人少女プレシャスは、母親からは 生活保護のダシにされ、幼少期から父親から性的虐待を受けており、16歳までに子供を二人出産、その長女は先天的な障害を持ち、自身は 読み書きさえできないまま退学処分となる──

Photo/Lionsgate/Photofest/Getty Images

プレシャスを取り巻くあ まりにタフな日常は大きな話題を呼び、2009年公開の本作は2010 年のアカデミー賞で脚色賞と助演女優賞を獲得した。実を言えばこれ以降の2010年代、黒人による文学作品を原作とした映画で話題となったものはほとんどない。アカデミー賞を取った『ムーンライト』は映画 脚本であり、『それでも夜は明ける』は回想記がもとだ。2010年代の ブラックムービーはN.W.A、マイルス・デイヴィス、ジェームズ・ブ ラウン、ジャッキー・ロビンソン、そしてキング牧師といった黒人文化に多大な貢献を果たしてきた英雄・偉人たちの伝記映画が数多く撮られ た10年として、後年に記憶されることとなるだろう。これこそがアメリカにおける黒人の苦境を物語っている。広がるばかりの経済格差、国を分断するヘイトクライムの多発、オバマ大統領の退陣と人種差別主義者の勝利──映画はそのメディアの性質上、小説よりも“早く効く”。2010年代、黒人やマイノリティがスクリーンの上に求めたのは、悩めるフィクションの人物ではなく、白人に勝利した実在の英雄たちだった。もちろん2010年代を通して偉大なる黒人文学は多く生まれたが、それらが映画化されるのは──現状を顧みるに──まだ先になるだろう。

ORIGINAL.

『プレシャス』
サファイア著, 東江一紀訳(河出文庫 2010年) ¥760

MOVIE.

『プレシャス』
[原題]precious :BASED ON THE NOVEL PUSH BAY SAPPHIRE
[監督]リー・ダニエルズ
[公開]2010年/日本
[DVD]¥3,800(ファントム・フィルム 2010年)

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