MUSIC 2021.11.25

ROTH BART BARONとermhoiによる対話。音でコミュニケーションしながら、希望の音楽を奏でること

photography_Shiori Ikeno, text_Takuya Nakatani
EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部

日本の音楽シーンにおける稀有な存在である、ROTH BART BARON三船雅也ermhoi。2019年リリースのROTH BART BARONのアルバム『けものたちの名前』にermhoiが参加する以前より、プライベートで親交のあった間柄でもある。ともにニューアルバムの発表を控えるなか、お互いの視点から見たその音楽の輝きとは。リラックスした空気感をまといながら、二人の対話は進んだ。

ーお二人は、去る7月に行われたROTH BART BARONによる祭典「BEAR NIGHT 2」でも共演しました。ROTH BART BARONのニューアルバム『無限のHAKU』の初回限定盤には、この日のライブ映像を収めたBlu-rayが付属されますが、振り返ってみてどうでしたか。

三船:なかなか開催しづらい世の中でもあったんですけど、いろいろな人に協力してもらって実現できました。なかなかすごいライブをやったんじゃないかって、最近になってライブ映像を観ながら実感してきた。ひとつのファミリーみたいなものがつくれていて、これをひとつひとつ大事にやっていけば、この人たちと生きていれば大丈夫だなって思えた。メンバーはもちろんスタッフや(ROTH BART BARONのバンドコミュニティである)PALACEのみんなも、お客さんも。一緒に共有できてよかった。

ermhoi:私は、ROTH BART BARONのステージに立つときって100%感傷的になる。コーラスとして、歌詞を自分のなかで昇華してから参加するので、歌の世界観に入り込めるプラス、バンドのエネルギーをものすごく感じる。そうなってくるとどうしたって、ずっとウルウルした状態になる(笑)。すごくいい時間でした。一日じゃもったいないくらい。三日くらいやりたかった。

ー総勢16名が一堂に会した一夜でした。そのなかで、三船さんの立ち位置としてはコンダクター的な感覚なんですか?

三船:俯瞰して見ているところはありますけど、指揮者というかは……。ROTH BART BARONって、なんかよくわかんないんですけど、いろんな人が入っても、バンドが瓦解しないんですよね。みんな好きなことをやっているんだけど、壊れないというか。「すごい、まだ壊れないな」みたいな(笑)。

ermhoi:うん、わかる。

ROTH BART BARON “BEAR NIGHT 2” at Studio Coast Tokyo – 2021.7.23 digest vol.1〜GUEST〜

三船:その人を選んで、同じステージに立っている時点で、ある程度できているというか。「ここは駆け上がるように演奏したい」「ここは全体で気持ちをひとつにさせたい」といったビジョンの共有は事前にしますけど、リーダーシップを発揮しているかというと、違う。みんなで話し合いながら向かっていく。

ermhoi:曲はもちろん決まっているけど、そのなかでなにをやるかは、その人次第。セッション的というか、音でちゃんとコミュニケーションをとってやっている感覚を持てる。だからROTH BART BARONのステージって譜面に起こせないような“なにか”が生で起こっている。鮮度がある、“なまもの感”が楽しいですね。

ー『無限のHAKU』について。ermhoiさんから見て、どうでしたか。

ermhoi:(ノートを取り出しながら)メモもちゃんととってきた。言語化するのに時間がかかるから、書かなきゃと思って。

三船:おおー。ありがとう。

ermhoi:個人の感想になっちゃうんだけど……。全体的に、あったかさが増した感じがした。トーンが明るくなった。優しくなった(笑)?

三船:それはうれしいな(笑)。

ermhoi:コードに対するメロディーの乗せ方が、「それにこれが乗るんだ」って実験的だった。あと、この一、二年くらいの状況を三船さんはこうやって見ていたのかなとか、人生がこう変わったのかなとか、勝手ながらも想像できる曲が多かった。たとえば「Ubugoe」は、パンデミックに対する直接的なものなのかなあとか。

三船:あの曲は、あるMV撮影のときに、深夜の渋谷に集合したんだけど、当時、緊急事態宣言下で街の電気が消えて真っ暗で。そのなかで若い人たちが路上に座ってざわざわやっていた。それを見て、プリミティブだなこの世界、と思った。それがインスピレーションになっている。

ermhoi:改めて世界を見たときに、三船さんがそう感じたんだろうなというのが言葉の節々から感じた。「Ubugoe」の曲の入りの、サウンドから曲への急転換! みたいなのもおもしろくて。あれはいろいろ遊んでつくったの?

三船:あれは一発録りに近かった。“声にならない音”みたいなものを考えて、なんだか解釈できない音を一生懸命つくった。主に岡田(拓郎)と三船がそのパートを担ったんだけど。

ermhoi:あと、「BLUE SOULS」は、懐古的な感じにアレンジされていて。「あっ、もう夏超えて、いつだかの夏を思い出している曲に変わっている!」って。

A_oで発表した曲では今年の夏感があったけれど。

ermhoi:そうそう。アレンジでこんなに変えられるんだ、って。

三船:たしかに、ノスタルジー感は増しているかもしれない。

ermhoi:あと、「HAKU」を聴いたときに(歌詞の内容として)「魔女を。マジか、燃やしたか」と思った(笑)。この曲もそうだけど、絶対に聴いたことのない言葉のチョイスがROTH BART BARONの曲には詰まっている。これは使うのこわいだろう、ということを全然言えちゃう。だけど、体感としてこわさを感じるわけではなく、その曲のイメージを強く伝えるために必要なワードチョイスというか。へんにきれいっぽくする表現じゃないから信頼できる。その言葉を聞こうって気持ちになれる。その先を見たいなって思わせる。そのうえで、希望の歌でもある。

三船:歌詞は、ガラスのモザイクみたいに、言葉の欠片をきれいに貼っていったら最終的にきれいなパターンになっていくというか。最初は、そのピース集めからはじめることが多い。コロナ禍になる前はそれこそ、山手線を回りながらいろんなコーヒー屋さんに行くということをしていた。いまはそれもできないから、いかに自分のなかに潜っていって言葉を探せるかという作業だったかな。その結果、前向きになっていたのかも。

ermhoi:私は、アルバムを出すのが今回6年ぶりなので、コンセプトやテーマとかじゃなくて、いままでの人生が詰まっているというか。『無限のHAKU』はどうなの? 短いスパンでつくった?

三船:そうかも。去年、『極彩色の祝祭』をつくっている途中やその直後くらいからかな。いまのムードのなかでつくりたかったから。

『DREAM LAND』については、三船さんから見て、どうでしたか。

三船:風通しがめっちゃいい。すっきりした、サウンドに湿気がない。テクスチャーのひとつひとつがきれいで、かつ、いままでのermhoiの音楽にあったトライバルな要素もある。ermhoiのキャラクターって幾何学模様というか、ランダムだけどパターンや模様があるのをこれまで感じていたんだけど、それがさらに洗練されて、少ない線で表現されているのにすごく複雑に見えるというか。それがアルバム全体に感じた。いままでと違って声のレイヤーも重ねすぎずにシンプルになっていて、そこにドキッとした。すごくオーガニックに感じた。

ermhoi:オーガニックさはたしかに意識した。私はパソコンを使って音楽をつくるけれど、自分の身体で音楽をつくるほうに重心が変わっていったというか。その場で声が響く、楽器が響く、それに近い音像を意識した。より身体的になった気がする。というのも、この数年で、いろいろな人の演奏を見てきて、結局なにが響いて感動するんだろうということを考えたときに、響いているものがそこにあるから感動しているんだなって。それを、パソコンを使ってどう表現していくか。

三船:自然にぽろって出てきているような、ermhoiのコアなところに一番近いのかなと感じた。近くて素朴なのに、いままでよりスケールがある。それがなんか心地よかった。Black Boboiでバンドをはじめて、最近だとmillennium paradeも、映画『竜とそばかすの姫』の声優もやってきて、その戦場をくぐり抜けてきた感というか(笑)。

ermhoi:そうだね。今回6年ぶりのアルバムだけど、前にアルバムを出したときは、私はまだ学生だったから。学生から社会人を一度はさんで、ミュージシャンになった。自分の生活はずいぶん変わったし、世界も激変している。でも、一個一個の時代や思い出を大切に思っているし、それを全部込めたかった。自ずといままでの人生が詰まっている。

三船:でも「昔のermhoiだ」とは思わない。すごくいまのムード。

ermhoi:うれしい。自分のなかでは「昔の曲」と思っているものもあるから。経験や記憶って、睡眠によって脳内整理されて定着していくけど、そのなかで美化されたり、その逆だったり、いろいろ形を変えていく。今回のアルバムの曲たちって、自分のなかでは、そういうプロセスを経たあとの記憶のあり方というか。だから古い/新しい、いま/むかし、というのでもない。血肉になっているものが表れている気がする。

三船:日本だけじゃなくちゃんと世界への目線があって、いろんな人に目が向いている音楽/音像を、ここ最近あまり聴いていなかったなと気づいて、『DREAM LAND』を聴いたときにすごくヘルシーな気持ちになった。「そうだよね、やっぱり」と再確認できた。方向性は違うけど、オーガニックさ含めて『無限のHAKU』と近いなとシンパシーを感じたのは、そういったムードもあるのかもしれないね。

INFORMATION

ROTH BART BARON『無限のHAKU』

2021/11/24 Digital release
2021/12/01 CD release
2021/12/08 LP release
https://www.rothbartbaron.com/

ermhoi『DREAM LAND』

2021/12/15 release
http://ermhoi.com/


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