12月4日に新木場スタジオコーストで開催される『SWEET LOVE SHOWER ~Bay Area~』。本イベントは『SWEET LOVE SHOWER』のスピンオフ企画だが、DYGLとSTUTSが初共演を果たす。このイベント開催に際して、DYGLの秋山信樹とSTUTSの対談が実現。初対面ということも踏まえ、お互いの音楽表現の差や、どのような思考で制作を行なっているのかについてのフリートークセッションとなった。
互いの楽曲制作の仕方について
ー『SWEET LOVE SHOWER ~Bay Area~』は2度目の開催になります。山中湖で開催されている『SWEET LOVE SHOWER』と同様に、主催者が考える良質な音楽を奏でるアーティストが出演するわけですが、そもそも『SWEET LOVE SHOWER(以下、ラブシャ)』にはどのようなイメージがありますか?
秋山信樹(以下、秋山): 僕らは2017年にFOREST STAGEに出演させていただいたんですけど、1番印象に残っているのは、同じ日にWATERFRONT STAGEに出演していたゆるふわギャングのライブですね。湖畔での雰囲気と音楽的なインパクトがすごくて記憶に残っています。主催のスペースシャワーに対しては、日本で生まれている音楽や音楽家を本当に大事にされている印象がありますが、フェスにもそれが反映されているように思いました。
STUTS: 僕も秋山さんと同様のイメージがあります。出演しているアーティストのラインナップを見ると、日本の音楽シーンへの愛が伝わってきますね。本当でしたら今年のラブシャに出演させていただく予定だったんですけど、開催中止になって非常に残念だったので、今回の『SWEET LOVE SHOWER ~Bay Area~』が楽しみです。
ーそんな中で、『SWEET LOVE SHOWER ~Bay Area~』で共演される2人に、自由にトークセッションしていただきたいのですが、初対面なのだとか。
STUTS: そうですね。今回、対談させてもらうにあたって改めて聴きなおしたんですが、DYGLの音楽は素敵だなと思いました。
秋山: ありがとうございます。僕はSTUTSさんがハーレムでストリートライブをされた時の映像(※)を昔、拝見させていただいて、アツくなるものがありました。対談の話をいただいて観直したんですが、ライブを観ていた人が徐々に音楽に引き込まれて踊りだす様子とか、リアルなエネルギーが映像から感じられて、やはり素敵だな、と。あれは、完全にゲリラだったんですか?
※2013年にSTUTSがNYのハーレムでMPC路上ライブを行った映像。
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STUTS: そうです、ゲリラでした。長く滞在していたわけではなくて、大学の卒業旅行で1週間くらいNYに行って、NYはHIPHOPが生まれた街でもありますし、どこかで1回ライブでもやれたらいいなと思っていて。NYに住んでいる知り合いに相談したら「路上でやればいいんじゃない?」って話になったんですよ。
秋山: 当時は、僕もDYGLやYKIKI BEATを始めた時期でもあって、海外で音楽をやることについてはメンバーや音楽仲間とよく話をしていたんですよね。そんなときに観た動画だったので、すごく印象に残っています。ただストリートでライブをやって、観ている人もただ演奏を楽しんでいる。予定調和的なものではなくて本当に音楽を楽しんでいる様子が、とても自然で力強いと感じました。
STUTS: ありがとうございます。ただ、あのときは、そこまで深く考えていなくって、ただ楽しんでいただけというか(笑)。
秋山: その楽しんでいる感じが映像から伝わってきました。
STUTS: もう8年前になるので、自分的には当時の曲や演奏はちょっと恥ずかしく感じる部分もあるんです。でも、あの初期衝動感は、逆に今ではできないことなので、あれはあれで良いのかと思ったりしていて。
秋山: そうなんですね。あのライブは、事前に作っていった曲をやったんですか? それともサンプリングした音をその場で繋げながらやっていたんですか?
STUTS: なんとなくのルーティーン的なものはいくつか用意して持っていって、それを雰囲気などを感じながら、ちょこちょこ変えつつやっていった感じでした。
秋山: なるほど。
STUTS: あの頃、僕の制作していた音楽と言えば、主にラッパーへの楽曲提供で、自分名義の作品をたくさん作っているわけでもなかったんです。どっちかと言うと、MPCでパフォーマンスしていることが多かったですね。
秋山: 確かに。あの映像で演奏されていた音楽と、今、STUTSさんがラッパーや歌手に楽曲提供しているサウンドを比較すると、スタイルにも差があるような感じがしました。どういう風に考えが変わっていったのか教えていただけますか。
STUTS: 大きな変化があったわけではないんですよ。作っている音楽の根底にあるのはずっと変わりません。だけど、心構えとして、当時は人に提供するトラックとして音楽を作っていた感覚はありますね。そこが違うかもしれません。
秋山: あの映像ではMPC1000を使ってらっしゃいますよね。あの1台で制作をすべて行っていたんですか?
STUTS: はい、1stアルバム『Pushin’』(2016年リリース)まではそうでした。ただ、全部とはいっても、あれでベーシックなループを作って、Pro Toolsに流して、というやり方だったんですよ。秋山さんはバンドでどのように楽曲を作られているんですか?
秋山: 僕は曲作りが好きなので、自分で作った曲をバンドに持っていって、各メンバーに世界観を広げてもらう、というやり方がほとんどですね。自分の制作方法は何パターンかあるんですが、完全にギターと歌の弾き語りでメロディを探りながら出てきたものに肉付けしていくパターンと、思い付いた楽器のフレーズパターンから広げていく場合があるんです。ギターじゃなく、ドラムやベースのワンフレーズから作るのも結構好きですね。最初に始めた楽器がドラムだったのも多少影響があるかもしれません。
STUTS: なるほど、ドラムから。ビートから作る場合があるってことですよね?
秋山: そうですね。でも、DAW上ですべてをループさせるわけでもなく、そこから頭の中で広がって、展開が変わっていくことも多いし、という感じですね。だから曲が先になることが多いです。逆に歌詞から、というのもやってみたいし、今後のテーマとして考えていますね。どうしても手グセみたいなものが自分の曲作りにも出ちゃっている気がしますし、最近、そこに自分的に飽きて、違う作り方をしてみたいと思っているんですけど。
STUTS: わかります。やっぱり違いますよね、メロディが先か歌詞が先かってなると。前の作品から、自分が歌った楽曲を入れたりしているんですけど、やはりメロディを先に考えて作っていたので。歌詞が先にあってメロディを後から考えるってどういう感覚なんだろうなって、僕も気になります。
秋山: そうすることで、自分のクセに引っ張られないで曲を作れるのであれば、やってみる価値はあるなと考えていて。ただ、なんか難しそうですよね(笑)。
STUTS: ですよね(笑)。でも、作り方を変えてみるっていいことだと思います。僕も8年前と今じゃ作り方が随分と変わったので。以前は基本的にMPCで音素材から曲を作ってたんですけど、今は鍵盤とかギターを弾いて作ることの方が多くなったので。
ライブ表現における秋山信樹とSTUTSの考え方
秋山: 以前から気になっていたんですけど、ラッパーやR&B系のシンガーの方も規模が大きくなってくると、バックバンドを入れてライブをすることがあるじゃないですか。その生感みたいなものと、1人で宅録で作っている音楽表現の境目を、みんなはどう考えているんだろう? って。それを考えると自分的には面白いんですよね。
STUTS: そうですよね、バンドだったら最初から一体ですもんね。
秋山: そうなんです。これまで自分で作ってきた楽曲の中には、DYGLにも、どこにもハマらないまま世の中に出せていないストックがいっぱいあって、1人で表現してみても面白そうだなと。その時にやはり、この問題が出てくるんですよね。バンドで作り込んでいないものを演奏する、パフォーマンスする、そもそも曲として作り込む段階から完全に1人の脳みそで完結するものって、(バンドとトラックメイカーで)いざ向き合うとだいぶ感覚が違うんだなと。
STUTS: ああ、たしかに違うかもしれない。
秋山: しかも、僕は自分で音楽を作って自分で歌うのでシンプルなんですけど、STUTSさんの場合は自分で歌うものと、人に提供するものがあるんですもんね?
STUTS: そうですね。ただ、基本的にはラッパーさんやシンガーさんにフィーチャリングで入ってもらうことが多いので、前提としては人に歌ってもらうことを考えているかもしれませんね。けっこう自分は作っているときにライブのことはそこまで深く考えないんですよ。
秋山: あ、そうなんですか!
STUTS: はい、曲が出来てからどうやってライブで表現しようかなってことを考えるので。
秋山: それはお1人で考えるんですか? それとも一緒にライブ用アレンジを考えるチームはいますか?
STUTS: 基本的には自分だけなんですけど、ライブセットでメンバーがいるときは一緒にどうするかを考えますね。最初にバンドで合わせるとき、自分の考えを事前に伝えて、その後にメンバーと一緒に詰めていくって流れになるので、そこはバンドがやっていることに近いかもしれません。
秋山: なるほど、勉強になります。
一同: 笑
STUTS: 僕もライブのことを考えると、最初からバンドで曲を作っていたら、こんなにどういうステージにするかで悩まないんだろうなって思いますよ。
秋山: その辺りは、どっちもどっちなのかもしれないですね。僕なんか、中高生のころは他人との音楽的な意思疎通が難しすぎて、自分が4人いればいいのにと思っていた時期もありました(笑)そういう自信みたいなものが必ずしも悪いものだとは今でも思わないんですけど、色んな経験を経て、自分の脳みそだけでできるものには、ある種の限界もあるよな、と。1つの曲に対して、メンバー各々の視点があって、それがハマったときに本当にいいアイディアだけが残るというか。そういうマジックが起こるのは、バンドのロマンですよね。アイディアの喧嘩もあるかもしれないけど、それは結構重要なプロセスなのかもしれない。擦り合わせの大切さについては、以前よりも感じるようになりました。
STUTS: お伺いしていて、そこがバンドの良さだって感じます。僕はバンドの経験もまったくなかったので、自分のライブでバンドセットでやることになって、初めてバンドの人って毎回こうやって作っているんだなって感じたんですよね。しかも、メンバーがそれぞれで考えてアイディアを出し合っていると、そこでしか辿り着けない境地があるんだなって体感しました。まぁ、どっちもあるんでしょうけどね。1人で考えて作るからこそ出来るものもあれば、バンドのみんなで色んなことを考えるからできるものもあるでしょうし。
秋山: そうなんですよね。そして、どっちにも面白さがあるっていう。ある種、トラックメイカーやプロデューサーとしての感覚とライブでバンドもやっている感覚、その、両方の視点がSTUTSさんの中にあるのかもしれないですね。
STUTS: プロデューサーとしての感覚はずっと変わらずにありますが、最近バンドでやる感覚も少しずつ垣間見えてきたかもしれないです。曲をどういう風に構築するかにフォーカスして作って、バンドセットとなると、今まで考えていなかったことにも向き合うことになったし。知らなかった世界があったんだなぁって感じはしつつ、1人でずっとやってきたので、そこまで考えていなかったんだなってことを認識しています。
互いのクリエイションをクロスオーバーさせるとしたら?
秋山: 曲作りの段階から他の人とやるというのはないんですか?
STUTS: 2ndアルバム『Eutopia』(2018年リリース)制作辺りから、自分が作ったビートに合わせて、ミュージシャンに即興で15~20分セッションしていただいて、良いと思ったところを切り出して使ったり、ということをやったりもしていました。
秋山: ああ、それは楽しそうですね。僕らもずっとセッションしていて、結局どこがよかったんだっけ? って追うのが大変で。けっこう音源自体は残っていたりするんですけど、スタジオ音源はもう8年分くらい溜まっちゃっているんで、それを聴き直すとなると、もう8年経っちゃう(笑)。だから、もうどうしようもなくて。でも、いいですね、セッション。この間、『Jazz Loft ジャズ・ロフト』(※)って映画を観たんですけど、ご存知ですか?
※2015年製作のアメリカ映画。今年日本で公開。1950年代半ば、マンハッタンのとあるロフトで気鋭のジャズミュージシャンたちが繰り広げた伝説のセッションを、写真家ユージン・スミスが記録した録音テープと写真をもとに構成したドキュメンタリー
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STUTS: いえ、知らなかったです。
秋山: 一応映画のメインは写真家の方にフォーカスが当たっているのですが、映画内で描かれている音楽家たちのセッション三昧な生活が印象的で。音楽が大好きで、ひたすら演奏に明け暮れていたコミュニティの人々の話が、とても心に迫ってきました。ロックやポップスも歴史が積み重なってきた分、油断すると既存の形式にハマってしまい、しかもそれでそれなりの物ができてしまう時代になってきた気がするのですが、決まった枠組みを超えた生き方に、今まさに心が求めている自由を感じました。ワクワクしましたね。特に今はコロナ禍じゃないですか。映画館で僕らがみんな黙ってマスクをして見守る中で、スクリーンの中にはすごく生き生きとした時代の話が展開していて。その対比も何か印象的なものがありました。
STUTS: すごく面白そうですね。『Jazz Loft ジャズ・ロフト』、チェックしてみます!
ー横から口を出してしまうんですが、DYGLとSTUTSさん、2組で音楽を作るとしたら、どういうものになると思いますか?
秋山: なんだろうな。DYGLでってことになると想像するのは難しいんですけど、それこそハーレムの映像で聴ける2曲目ぐらいにやっていたエレクトロ・スウィング…的な曲……。
STUTS: はい、わかりますよ! あの曲ですね。
秋山: ああいうビート感のあるものが好きで入れてみたいと思うんですよね。あの雰囲気、なんて言うんだろう、独特な。明るいでも暗いでもなく、でも踊れるというか。ああいう中毒性が好きなんですよ。
STUTS: そうですか! あれは、けっこう自分の中でベーシックなビートの1つなんですよ。
秋山: あの感じ、DYGLも以前より実験的になりつつギターミュージックには拘っているのでトラックメイカーさんとのコラボはアイディア次第かなと思うのですが、自分個人としてはあのタイプのビートでSTUTSさんと曲作りできたら楽しそうだなと思いました。
STUTS: そういうところで、何か一緒にできそうな気がします。HIPHOPのビート感でやって。そこでいくと、最近ミツメと一緒に曲を作ったんですよ。「Basic (feat. STUTS)」という曲なんですけど。
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秋山: めっちゃいいですね。バンドと共作するとこういうサウンドになるの、面白いですね!曲の制作やレコーディングのプロセスはどんな感じだったんですか?
STUTS: 曲は川辺さん(ミツメのVo&Gt、川辺素)で、お互いのビートを混ぜてバンドが演奏したものを、半分自分がミックスをやって、もう半分を普段からミツメをやっているエンジニアさんが担当されたんですよ。バンドとの共作は初めてだったんですけど、そこでも感じましたね、バンドってこういうことなんだなって。メンバーの考えの集合体として音楽ができるんだなって。
秋山: すごい。面白いですね。それこそエンジニアやプロデューサーをロックとは違う畑の人と一緒にやろうと思って実際に探したことがあるんですよ。この楽曲を聴いて、何かこれまでと違う可能性を感じました。
ーありがとうございます。お2人のお話し、非常に面白くずっと聴いていたいのですが、そろそろ最後の質問になります。『SWEET LOVE SHOWER ~Bay Area~』ですが、どんな風に楽しみたいか教えてください。
STUTS: ライブ自体は普段通りですけど、今回のラインナップでは自分だけがHIPHOPよりの出演者だと思うので、その辺りのクロスオーバー感も意識しつつ、他アーティストのライブを観ながら楽しめればと思っています。
秋山: 同感です。DYGLとしてはツアー以外で演奏するのも久しぶりなので、そういう意味でも楽しみです。3rdアルバム『A Daze In A Haze』のツアーは、自分たち的にも何か1つの大きな区切りになった気がしていて。今回のライブで、次のスタイルをどれだけ提示できるのかはわからないですけど、新しい方向を向いてやっていきたいと思っています。ライブ自体は1本のライブとして、いつもと変わらず楽しくやりたいですね。