自分たちの今を作り出す音楽アーティストに注目する企画、FUTURISTIC SOUNDS 。中でも音楽シーンを騒がせているorこれから騒がせることになるであろうユースをEYESCREAMが独自の観点でピックアップ。インタビューを通して彼らのアイデンティティ、ルーツに迫る。ロックもHIPHOPも、今年から何かが変わり大きく動き出すはず。新たな音楽カルチャーを知り、サブカルチャーの未来がどんな姿なのかを知る1つの材料としたい。EYESCREAM選、注目の音楽アーティスト2017下半期。第2回目に登場するのは集団行動。
魔法を待ち続けて——。集団行動が語る
2012年に相対性理論を脱退以降、それぞれがプロデューサーやプレイヤーとして活動を続けていた真部脩一と西浦謙助が、音楽経験ゼロの齋藤里菜をボーカルに迎えて、新たに結成したバンド・集団行動。
今年4月の初ライブ以降、その動向が注目されるなか、真部ワークスらしい、ポップミュージックの悦びが抽出されたメロディーラインと、SF的(すこし・ふしぎ ©藤子・F・不二雄)な歌詞世界に、元・バレーボールプレイヤーという齋藤のヘルシーで伸びやかなボーカルが重なり合ったファーストアルバム『集団行動』が、先日リリースされた。
集団行動の結成から現在に至る経緯、そして彼らが見据えるバンドの未来について、3人に話を聞いた。
「何がやりたいの?」「朝ドラに出たい」「君、なんでいるの!?」
ー今年1月に結成された集団行動ですが、結成に至る経緯を教えてください。
真部脩一(Gt./以下、真部):相対性理論を脱退以降、フリーランスとして一人で活動していたなかで、バンドを組もうと思い立って。でも、自分は歌えないし、フロントマンとしての資質がない。だから、まずはフロントマンとしての役職に耐えうる、ロックスターを見つけようと。そこから3年くらいかけて探したのがボーカルの齋藤里菜です。
ー齋藤さんはまったく音楽経験がなかったそうですね。
真部:齋藤は10年以上バレーボールしかやっていなくて、これまでに買ったCDは2枚だし、数回しか行ったことがないカラオケでもタンバリンを持ってるだけ、という人で。何名か集めてオーディションをしたんですけど、音楽経験がある人ばかりのなか、意外にも自分が書くメロディーに一番フィットしたのが齋藤だったんです。
齋藤里菜(Vo./以下、齋藤):これまでの人生で歌で表現したいと思ったことが一度もなかったので、正直、自分にできるはずがないと最初は思ってました。
真部:オーディションのときも、「音楽好きなの?」「いえ」「興味はあるの?」「いえ」「何がやりたいの?」「朝ドラに出たい」。「君、なんでいるの!?」って感じでしたね(笑)。
齋藤:でも、体育会系だからなのか、すごく負けず嫌いなんです。私がここで断って、ほかの人がボーカルをやることを想像したら、本当に嫌で(笑)。絶対に後悔すると思って。
ーいまもメンバーを募集されていますよね。
真部:はい。まったく知らない方から身内まで、いろんな方に応募いただいています。なぜか結構著名な方もいたりして、戦慄してます(笑)。
集団行動メンバー募集CM〜走る編〜
ーちなみに集団行動というバンド名はどこからきているんですか。
真部:「まだバンドじゃない」っていう意識が強いんです。メンバーが揃っていないし、だから、それはただの集団行動だと。
ーでは、今後メンバーが揃ったら「集団行動」ではなくなるんですか(笑)?
真部:僕は新しいバンド名をつけたいんですけど、レーベルからは頼むからやめてくれと(笑)。
西浦謙助(Dr./以下、西浦):煩雑ですからね。
真部:なので、しばらくは集団行動です。でも、完成系じゃないながらも、走り出してよかったなと。いわばバンドという誇大妄想に自分たちが巻き込まれる形で始まったけれど、逆に僕らがいろんなものを巻き込んで、集団行動の状況をよくしようと頑張ってる感じが、ちょっといいなと思っています。
まっさらで無色透明な、可能性だけを感じる状態のメロディー
ーそんななか、今回ファーストアルバムが発売されたわけですが。
真部:オーディションのとき、最初に齋藤に歌ってもらったのが、アルバムのリード曲にもなっている「ホーミング・ユー」でした。実はその時点ではあまりピンとこなかったのですが、その後に、アルバムのラスト曲の「バックシート・フェアウェル」を、ほんの4小節くらいその場で覚えて歌ってもらったら、そこにすごく魔法みたいなものがあった。なので、まずは「ホーミング・ユー」を人が聴いて耐えうる形に仕上げ、「バックシート・フェアウェル」で感じた可能性を完成形に近づけようと。ですから今回のアルバムは、この2曲を中心に進んできた気がします。
集団行動「ホーミング・ユー」
ー齋藤さんは集団行動の楽曲についてどう思われていますか。
齋藤:いままでドラマの主題歌くらいしか音楽を聴いていなかったので、歌詞の言葉使いとかもすごく独特だなって。学校にも、相対性理論みたいな音楽を好きな子がときどきいたんですけど、言ったらあれですけど、サブカル寄りな感じ?
西浦:サブカル寄りなんだ(笑)。
齋藤:本当の音楽好きの人たちが聴く音楽だなって。
西浦:耳の肥えた人が。
齋藤:そうそう!
真部:それはちょっとなにも言えないよね(笑)。
ーただ、集団行動は齋藤さんがいうところの“サブカル”を志向しているバンドではないですよね?
真部:集団行動は、J-POPのスタンダードになりたいと思ってるんです。例えば、学校の文化祭に出演する全バンドがカバーしたくなるようなバンドをやりたい。ただ、齋藤にはサブカルと言われましたけど、僕は以前からずっと、ジャズスタンダードのようにまっさらで無色透明な、可能性だけを感じる状態のメロディーを試行錯誤してきたつもりだったので、気持ちとしてはまったく変わっていないんです。けれど、相対性理論の結成から10年以上経っているので、自分のほぼ変わらない芸風も、今だったら捉えられ方が変わるかも、という興味はあります。
ーそれはなぜでしょうか?
真部:例えば、フリーランスになってから、クライアントに「相対性理論っていうバンドが売れてるらしいから、それ風の曲を書いてくれないか」って言われたことがあって。
ーやばいですね(笑)。
真部:「僕です!」って(笑)。でも、僕が感じていた相対性理論らしさみたいなものが、僕の手を離れてちゃんと消費されるようになってきたのかなと。そんななかで、もし自分が同じようなフォーマットで音楽をやれば、それは王道のポップスとして受け入れられるんじゃないかという期待があって。
ーなるほど。
真部:一番大きかったのは、メジャーレーベルに声をかけてもらったことです。今の時代、メジャーレーベルからリリースするメリットって全然ないと思うんですよ。ただ、これまで自分がメジャーレーベルとタッグを組む機会がなかったので、メジャーレーベルだからできることを追求してみるのは、自分のモチベーションになりますし。そういった要素が積み重なってきて、よりわかりやすいもの、より王道に近いもの、より深みがあるものを目指して、曲もブラッシュアップされていきました。
JUDY AND MARYがひとつのロールモデル
ー結成以降、いくつかライブにも出演されてきましたが、手応えはいかがですか。
真部:ライブは大変ですね。プレイヤーへの憧れというのも、バンドを組む動機のひとつだったので。楽器ってこんなに難しいんだ、というもどかしさがあります。
西浦:楽しいんですけどね。昔はあまりなにも考えずにやっていたし、それがよかった面っていうのも少なからずあると思うんですけど、長年やっていると知識も増えて、自分の足りないところがわかってくるから、どんどん難しくなってくるんですよ。いわゆるメジャーの人が、管理されたスケジュールのもとで、コンスタントにレコーディングやライブをこなしているうちに身についてくるスキルってあると思うんです。でもこれまでインディペンデントで、自分の好きなようにやってきたから、そういう経験もあまりなかったし。
真部:あとはプロデューサーとプレイヤーでは楽曲への関わり方に大きな違いがあって。プロデューサーの場合は、基本的に自分ができることで組み立てていって、そのうえでできないことは、できる人にやってもらうという選択肢があるんです。でも今回は、メンバーが足りない分は全部自分で弾かなければいけない。
西浦:ライブはサポートのメンバーに入ってもらってるんですけど、レコーディングでは、ギターとベースとキーボードを真部さんが弾いています。
真部:2倍3倍業務があるので、ぜひ今後入ってくるメンバーに弾いてもらいたい(笑)。プロデューサー目線でもあるんですけど、ボスが楽するのが大事だって『金持ち父さん 貧乏父さん』にも書いてありました。
西浦:読んでるんだ(笑)。
ー斎藤さんはいかがですか。
斎藤:人前で歌うこと自体、初めてだったので、最初にステージに出たときはいっぱいいっぱいで。少しずつ、お客さんの表情を見たり、ここで乗ってくれてるなっていうのは感じられるようになってきました。
真部:さっきの話にもつながるんですけど、僕は楽をしたいから、自分で練習方法を見つけて勝手にうまくなってほしい。そうしてたら、ちゃんとうまくなってきたんですよ。やっぱりアスリート気質なんだなって。メンタルのコントロールも上手だし、効率のよい伸び方をしていると感じます。ボーカリストは身体を使う商売だから、元アスリートっていう僕のチョイスは間違ってなかったと思って。朝ドラに出たいと言ってた人を引っ張ってきてよかったです(笑)。
ー今後、集団行動はどんなところを目指していきたいですか。
斎藤:ワンフレーズ聴いただけでも、私が歌ってるってわかるような自分のブランドを、何年かけてでも作っていきたいです。
真部:日本の音楽シーンでてっぺんを目指したいです。JUDY AND MARYがひとつのロールモデルなんですけど。ジュディマリって、全員が好き勝手やっているように見えても、全国で受け入れられていましたよね。そんなバンドになりたい。いまは、ひとりではできないことを追求できているのが、すごく楽しくて。相対性理論やVampillia、進行方向別通行区分など、これまでのいろんな関わりのなかで、魔法を待ち続けて、それが実現してきた結果、いまの自分たちがあるんだと思います。これまでの出会いに感謝しつつ、いままでできなかったことにもっと挑戦していきたいです。
FUTURISTIC SOUNDS ARCHIVE
01. DATS
03. CHAI
04.MONO NO AWARE
05.PAELLAS
06.Aun beatz
07.NAHAVAND
08.JP THE WAVY
09.Weny Dacillo
INFORMATION
『集団行動』
2017年6月28日発売
¥2,000+税
1. ホーミング・ユー
2. ぐるぐる巻き
3. 東京ミシュラン24時
4. バイ・バイ・ブラックボード
5. 土星の環
6. AED
7. バックシート・フェアウェル
【LIVE】
「集団行動の単独公演」
2017年9月13日(水)@渋谷WWW
OPEN 18:15 START 19:00
All Standing ¥3,500(D代別)
チケット一般発売:2017年7月22日(土)〜
「リゾームライブラリーⅥ」
2017年8月14日(月)@岡崎市図書館交流プラザ Libra
OPEN 13:00 START 14:00
前売¥4,000 当日 未定
出演:集団行動 / YOUR SONG IS GOOD / トリプルファイヤー / The Wisely Brothers / コトリンゴ / 片想い / THE ACT WE ACT / Polaris / 柴田聡子
チケット発売中