Amazon Original HEAT Vol.06 連載HEATという音楽現象を追う:Jun Inagawa×Frog 3

『Amazon Original HEAT』(以下、HEAT)。各シーンで活躍する20人のキュレーターが、20組のアーティストをピックアップし、新たな楽曲とMVがAmazon Musicで公開されていくプロジェクトだ。
本連載では、キュレーターと選出されたアーティストとの対談を行い、HEATがどのような内容なのか、まだキュレーターがどのような思いでアーティストを選び、アーティストはそれにどう応じるのかをお届けする。
第6回目、最近アニメでも話題のクリエイターJun Inagawaが自らも所属するバンドFrog 3をキュレーション。Frog 3は今回の企画で本格的な活動が始動することになる。言わば、そのきっかけとなったHEATについてと、初めて曲として成立させたという「The Message」について、音楽的ルーツの話を交えながらインタビュー。

Curator_ Jun Inagawa

Artist_ Frog 3 (L to R_Jun Inagawa, Obabita, Iris Sakai)

HEATをきっかけに初めて1曲を作り上げた

 

ーJunさんがキュレーターで、自身が所属するFrog 3をあえてセレクトしたということになりますね。その辺りの流れを教えてもらえますか?

Jun Inagawa:HEATの企画ではキュレーターとして誘われたんですけど、色んなバンドの候補を考えていくうちに、Frog 3で参加したいと思ったんですよね。自分が所属するグループでもいいのかな? という気持ちはありつつ、他のアーティストリストと一緒にAmazonのチームへ提出してOKをもらった流れです。
 

ーJunさんは普段、イラストやデザインを手掛けているわけですけど、自分にとって音楽をやるというのは、どういう行為なんですか?

Jun Inagawa:最近ではアニメ業界にいて原案を考えたりしているわけですけど、どうしても100%自由に自分のやりたいことが実現できるわけではないんですよね。キャラクターデザインやストーリーにしても。そういう実現できないというモヤモヤをFrog 3で補完している部分がありますね。アニメで出来ないことを音楽でやる、逆に音楽で出来ないことをアニメでやる、といった形でバランスを保っています。今はどっちも各々の形で本気だし、自分にとって大切なことなんですよ。
 

ーFrog 3がHEATへ参加することが決まって、何かバンド的に変化はありましたか?

Jun Inagawa:むしろHEATのおかげでFrog 3が正式に始動するきっかけになったんですよね。だから、こんな僕らを受け入れてくれたHEATには本当に感謝しているんですよ。
 
Obabita:これまで、部分ごとに曲のネタはあったんですけど、きっちりと1曲にまとめる作業をしていなかったんですよ。Frog 3と名乗る前はDigital Sauna Kidsという名前で、その頃は曲ネタを繋げてDJをする感覚でやっていたんです。だからHEATに参加することになって、3人のモチベーションが一気に上がったと思います。
 
Iris Sakai:HEATに参加する他アーティストはちゃんと活動をしてきた人ばかりで経歴がきちんとあるじゃないですか。僕らだけですよね、本当に初リリースなんて。
 
Jun Inagawa:しかも、1stシングルとして今回の「The Message」をHEATからリリースするっていうのは、けっこう勝負しているなと思っていて。
 
Obabita:逆に第1弾じゃないと、あれだけピュアな曲は作れなかった側面もあるよね。何曲か作ってからじゃ、「The Message」みたいな曲は作れない気がする。
 
Frog 3一同:たしかに!


 
Jun Inagawa:初期衝動感があるからね。このまま活動を続けていって10年後に「なつかし~、モロの誰々の影響を受けてるよな~」とか言ってそう。にしても、本当にHEATのおかげで、随分と音楽のことを知れた気がします。なんか学びの場をもらったような気持ちでもありますね。
 
Obabita:そうだね。3人とも音楽の知識がなくて、音楽で遊んできたってだけなので、HEATは学びの場になりました。勉強させてもらいました。


 

ー実際、どんな感じでFrog 3は結成に至ったんですか?

Jun Inagawa:かいつまんで話すと、まず僕らはサウナ仲間だったんですよ。ある日、Obabitaが作っている音楽を3人で聴いたら、これがすごくカッコよくて冗談半分でサウナバンドをやろうってことになったんですね。それでDigital Sauna Kidsという名義で活動していたんです。活動とは言っても翠月でDJするくらいだったんですけど。それで、HEATに参加するときに改名してFrog 3にしたんです。
 

ーそこで改名したのはなぜですか?

Jun Inagawa:いや、だってイベントのフライヤーにバンド名が載っているのを想像したときに、Digital Sauna Kidsって……ってなるじゃないですか(笑)。あんまり自信持って言えないよなってメンバーと話して。
 

ーまぁ、たしかに(笑)。

Jun Inagawa:名前をどうしようかって考えているときに、僕が好きな佐藤大さんという『交響詩篇エウレカセブン』の脚本などを手掛けている人がいるんですけど、その人がフロッグマンレコーズというテクノレーベルをやっていて、フロッグっていいよなってなったんです。ヒキガエル・ハイなんてのもあるじゃないですか。幻覚作用を起こすカエルがいるとか。
 
Obabita:象を倒せる毒を持ったカエルもいたりするんで、こんなに小さいのにヤバいなって衝撃があって。カエル、やべぇと。
 
Jun Inagawa:カエルって気持ち悪がる人もいますけど可愛さもあるし、プラスとマイナスが合わさった感じが僕らの楽曲にも通じるものがあると思ったんですよね。それで3人だからFrog 3だ、と。
 
Iris Sakai:パッとノートにFrog 3って書いたときの見栄えというか、インパクトがしっくりきて、全員一致でこれにしようってなったんですよ。
 

人の感情の浮き沈みを物語性を持って表現した「The Message」

 

ーいいですね、そういう由来がバンド名にあるのって。今回の「The Message」が初楽曲ということですが、どんな風に制作していったんですか?

Jun Inagawa:曲のネタだけがあった状態だったので、まずは合宿ということでLAに行って約1ヶ月くらい篭って完成させました。基本的に話し合いから曲作りを始めるんですよ。
 
Iris Sakai:3人でアイディアを出し合って、実際に機材を鳴らしたりしながら雰囲気を固めていくんです。それをObabitaが持ち帰って整えてくれたり、ジャムりながらパーツごとに作っていくこともあります。
 
Obabita:イメージを3人の中で共有させていくことが制作の1歩という感じになりますね。
 

ーJunさんとIris Sakaiさんは絵を描く人なので、そういう曲の物語性やニュアンスを作っていくのが得意そうですね。一方でObabitaさんが曲を作れるということで、まとめ役的な感じになりますか?

Jun Inagawa:そうですね。3人のバランスがいいんですよ。それぞれ、違うところからインスピレーション持ってくるので、そこが強いなって。
 

ー音楽制作という意味ではObabitaさんがもともとやっていた音楽的要素が強く打ち出されていきそうですが、いかがでしょう?

Obabita:もともとケミカル・ブラザーズやアンダーワールドを聴いていて、四つ打ちだったりテクノをベースにした音楽をDTMで作っていたんですよね。そこからアナログ実機がほしくなり、みんなで集めるようになって。「The Message」もそうなんですけど、アナログテクノの音に近づいていった感覚があります。やっぱりアナログ機材の方が3人で作っていて楽しいですからね。
 

ーケミカル・ブラザーズやアンダーワールドからのインスパイアもあって完成した「The Message」。タイトルが意図するものは何ですか?

Jun Inagawa:この音を発すること自体がメッセージで、聴く人にメッセージを受け取った内容を考えてほしい、といった思いがありますね。開放的な曲ではあるんですけど、水平線や海中に潜ったときの情景を音で表現していて、爽やかなサウンドと不安な音を共存させながら構築している曲です。言わば、人間の感情の起伏を表しているような感じですね。だから尺もけっこう長いし、聴き終わったときに何かを感じりすると思うんですよ。考えごとや煮詰まってしまっているときに聴いてもらえると嬉しいですね。
 
Obabita:映画を観た感覚になれるような曲にしたいという思いが前提にあったので、Junが言うようにストーリー性を重視した作りになっていますね。1曲の中で感情の浮き沈みと開放的な描写を入れたイメージです。
 
Jun Inagawa:だから自分的には脚本を書いている感じに近かったですね。主人公がいてアクシデントがあって、という話の起承転結をつけていく感覚でした。映像を思い浮かべながらイメージを膨らませていったりとか。
 
Iris Sakai:音に1つ1つに名前をつけようなんて話もしましたね。音自体にキャラクター性を持たせてストーリーに変化させていくような。それが楽しいと思っていて。音楽として作るというよりは、空想の世界に登場人物がいて、物語が進行して最後には終結するというような流れで曲が構成されていると思います。


 

ー「The Message」には綺麗なボーカルも入っていますよね。あれは誰が歌っているんですか?

Jun Inagawa:Grace Aimiちゃんです。考え方や思想が似ていて仲が良いんですけど、オファーしたら快く引き受けてくれたんです。
 
Obabita:ボーカルと曲と一体化していて心地いいんですよね。思いが乗っている感じがあって。
 
Iris Sakai:レコーディングの現場でも近況報告したり、他愛ない話をしたりして一緒に作った感じがすごく楽しかったです。
 

ケミカル・ブラザーズやアンダーワールドをルーツに

 

ーHEATではどんどん楽曲がリリースされている最中ですが、他に何か気になるアーティストは?

Obabita:友達が何組かいるんですよね。鋭児、JUMADIBA、Gliiico、VMOとか。
 
Jun Inagawa:個人的には鋭児が楽しみですね。響一くん(鋭児のVo 御厨響一)と仲良くて鋭児の主催するイベントにも出たりしますし、鋭児も今後の音楽シーンについて真剣に考えているバンドなんで好きですね。
 

ーFrog 3は今後どんどんリリースもしていくと思うんですけど、音楽的なルーツと言えば、さっき名前が挙がった2組になりますね。

Jun Inagawa:どうしてもそうなりますね。ケミカル・ブラザーズとアンダーワールドになると思います。王道ではあるんですけど、どんなにコアな音楽を聴いても結局ここに戻ってきちゃうんですよ。だからこそ胸を張って、オレたちはケミカル・ブラザーズが好きだって言えるんですよ。
 
Obabita:僕らの中で先生って呼んでますから。
 
Iris Sakai:もう、ここまで大好きなら明確にルーツだと自覚しようって感じでもあるんです。最初は真似をしていて、だんだんと自分たちのオリジナリティが出てきて生まれたのが「The Message」でもあるので。
 
Obabita:ケミカル・ブラザーズの「Star Guitar」をずっと聴いていて、最初はこういう感じでいこうと思っていたんですけど、ケミカル・ブラザーズを追究していくと、この音も使えるかも、ここも真似できそうって感じで色々ミックスされてオリジナリティが出て形になっていったんですよね。
 

ー今後、Frog 3の活動としては何か決まっていることはありますか?

Jun Inagawa:1月に南青山のライブハウス、月見ル君想フでライブをすることが決まっていますけど、まずはライブが出来るようになりたいですね。できるだけ実機を使ってやりたいんで相当練習しなくちゃいけないです。あとはアルバムも作っていきたいですね。
 
Iris Sakai:アルバムではテクノに限った曲だけではなくて、作品1つ通してストーリー性があるコンセプトアルバムを作ろうと思っています。まだ具体的な内容は全然決めていないので、話し合いながら、今はないものを考えていく感じですね。
 
Obabita:最終的にジャンルを作りたい気持ちなんですよ。Frog 3というビートというか、自分たちのスタイルを完成させていくことができたらと考えています。
 
Jun Inagawa:それこそ、自分がやっているDJイベント『MAD MAGIC ORCHESTRA』のファンもいて、彼らがFrog 3を認識してくれているのは、今後活動していくうえで非常に大きいと思いますね。あの場に来る人はちゃんと音楽が好きでアツい人が多いし、世代も幅広いのでクラブキッズも大切にしながら、まずは彼らにFrog 3を好きになってもらうところが最初のステップかなと思います。

 

ARCHIVES

Amazon Original HEAT Vol.05 連載HEATという音楽現象を追う:GUCCIMAZE×Miku The Dude

Amazon Original HEAT Vol.04 連載HEATという音楽現象を追う:吉岡賢人×VMO

Amazon Original HEAT Vol.03 連載HEATという音楽現象を追う:大野俊也×JIJI

Amazon Original HEAT Vol.02 連載HEATという音楽現象を追う:Yosuke Kubozuka×Ken Francis

Amazon Original HEAT Vol.01 連載HEATという音楽現象を追う:Katoman×ego apartment

Amazon Original HEAT Vol.00 -連載HEATという音楽現象を追う 番外編- : Interview_Koji Yahagi(Amazon Music Content Production Director)