ART 2020.08.28

From the Every Outside Vol. 4 : LURK by Maruro Yamashita

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部

ストリートから生まれたアートや、ストリートからの影響を感じさせる表現の数々を広義のアウトサイダーアートとして紹介するこの企画。今回は、福岡を拠点に活動するグラフィティアーティストのLURKをご紹介。グラフィティという言葉から連想される、ハードなイメージとは異なり、グラフィティマナーに乗っ取りながらもポップなピースを得意とするアーティストであり、昨年の夏にはSQUASH DAIMYOで初となる個展も開催し、この8月にはリニューアルオープンしたCarhartt WIP Store Fukuokaのリニューアル記念Tシャツのグラフィックも手掛けるなど、活動の幅を広げている。そんな彼に、これまでのことや、グラフィティに対する現在のスタンスなどの話を聞いた。

ーLURK君は地元はどのあたりなんですか?

LURK:地元は福岡の南の方なんですよ。何もないところですね。

ーどういうきっかけでグラフィティに興味を持ち始めたんですか? 子供の頃から絵が好きだったりしたんですか?

LURK:小学校の時にビートルズの音楽を聴くようになって、そこからなんか英語が格好良いなって思うようになり、英語に興味を持って、アメリカの文化に興味を持つようになって、そこからグラフィティという流れだったと思いますね。

ー最初に見たグラフィティだったり、グラフィティカルチャー的なものはなんですか?

LURK:街のボムとかから入る人が多いと思うんですけど、僕全然違う入り方してて。僕はピース、絵の方から入ってるんですよね。小さい頃から絵は好きで。福岡に昔DOARATっていうブランドのお店があって、中学生くらいの頃に買い物に行ってたんですよ。格好良いなって思って。

ー懐かしいですね!

LURK:DOARATのグラフィックを担当してた、ロート(LOOT)って人がいたんですよ。その人のインタビューを読むと、グラフィティからデザインを始めたって人だったんですよね。グラフィティっぽい絵も描いてて。それが好きで、グラフィティを認識していったのかな。当時って、もう既にインターネットが普及してきてる頃だったので、「グラフィティ LOOT」とかで検索したら、イメージがいっぱい出てくるような感じで。便利でしたね。それで、真似して描き始めたのも、中学生くらいですね。

ー真似して描き始めるってのは、ノートにとかですか?

LURK:最初はタグとかを描こうという気持ちもなかったので、いわゆるピースみたいなものから描き始めたんですよね。中学2年の頃に初めて外で描いたんですけど、LOOTさんのキャラクターを市営の壁打ちとかが出来るテニスコートに真似して描いたんですよね。初めてにしては結構でっかく描いて。ママチャリの荷台に乗って描くくらいの大きさで。親には塾行ってくるわって言って、塾の鞄にスプレーとか詰めて。夜の10時くらいに描いてたから、よくバレなかったなと思います。2日くらいかけて完成して、よっしゃ! みたいな。それが初めてでしたね。

ー絵として惹かれたというのが強いですか?

LURK:そうですね。ボムから入る人が多いし、僕はそっちの方が格好良いと思うんですけど(笑)。自分は絵として惹かれていきました。

ーグラフィティと親和性の高い周辺のカルチャー、Hip HopだったりHardcoreだったりには興味はありましたか?

LURK:ありましたね。中学生くらいの時には友達と一緒にブレイクダンスを練習してました。そこまでガッツリハマっていた訳ではないので、DJの機材を揃えたりとかそういうのは無かったですけど。アメリカのHip Hopも聞いてました。Eminemが流行っていた頃ですね。

ー地元は何もないところと先ほどおっしゃっていましたが、そういう情報自体は入って来ていたんですね。それとも、天神だったり街に出かけていたって感じですか?

LURK:自分は街に出ることはほとんどなくて。Hip Hopとかもラジオから情報を得ていて。あとは、高校の先輩に一人詳しい人がいて、その先輩に教えてもらったりとか。グラフィティーに関しての情報は中々入ってこなかったので、最初にみんながぶち当たるスプレーの塗料が丸く出ない! って悩みに自分もぶち当たってましたね。これはどうやったら出るんかな?ってずっと思っていて。そうやって悩んでるタイミングで、福岡のグラフィティーチームM2Dのボス、ZEROSY氏とWISE氏がたまたま自分の地元の居酒屋の壁一面にペイントをしてるところに、偶然チャリで通り掛かったんですよ。

ーそれはリーガルで描いてるタイミングだったんですか?

LURK:そうですね。仕事として描いてたと思います。自分が高校3年の時ですね。グラフィティーは好きだけど、実用的な情報が余り無いって感じだったので、たまたま通りかかっただけなのに、わー!って思って声かけたんですよ。好きなんです、みたいな感じで。そしたら、WISE氏がSQUASHってお店があるから行ってみなよって言ってくれて、SQUASHで色々教えてもらったんですよね。そこで教えて貰って無かったら、もしかしたら続いてないかもしれないし、結構ドラマチックな出会いでしたね。そこから本格的に始めました。

当時ZEROSY氏とWISE氏が描いてたという壁。

LURK:高校を卒業して、県外に一人暮らしをするようになったんですけど、そうすると好きなことを出来る時間が増えたので、夜に描きに行くことが増えていきました。ピースを廃墟とか橋桁に夜中に描きに行ったりしてましたね。

ーピースを描くっていうのは当時から一貫してるんですね。

LURK:そうですね。当時もペンタグ(注:マーカーやペンなどで街中にタグを描くこと)くらいはしてたんですけど、スプレーを持って描きに行くっていうのは余りなかったですね。

ーちなみに、県外というのはどちらだったんですか?

LURK:神戸でした。

ーそれでSITO(注:神戸、大阪を主に拠点とする、個性的なスタイルを持つライターが集まるクルー)に。

LURK:そうですね。神戸で知り合ったライターの人が、元々SITOのKABISと知り合いで、その人に今度ペイント行くからって呼ばれた時にKABISと知り合って。で、KABISを通じて、SITOのリーダーのFISHだったり、GOSと知り合って。そこからSITOに繋がるって感じですね。昔はよく皆でピース描きに行ってたんですよ。時間決めて集合して皆で山奥描き行くとか。よくやってましたけどね。今そういうことをあんまりしなくなっちゃったから寂しいですけど、楽しかったですね。あの人たちは元々ボムもしてたから、ボムに一緒に行くようになって。

ーボムもしてたんですね。

LURK:グラフィティって陰と陽的な部分があると個人的には思っていて。ピースは陽の部分で、ボミングが陰の部分かなと。今回僕が言っている『グラフィティー』はピースの部分を主に指していると捉えてもらいたいんですが、元々、ボム自体も好きなんです。見るのも、描くのも。ボミングを中心にやってるライターの人たちも滅茶苦茶格好良いと思いますし。2000年代当時って、ボミングだったらクロームとブラックで描くってのが、まだ主流だったと思うんですよね。自分はピースが好きでよく描いていたけど、ピースって結局誰も見ない場所に描くから、どうせだったら街でボムをする時もそのノリで描きたいなと思って、色を使って描いてましたね。

ー最初からLURKって名前で描いてたんですか?

LURK:最初は何も分からず適当に付けた別の名前でやってたんですが、色々グラフィティについて知っていく過程で名前をちゃんと考えないとなと思って、LURKって描き始めましたね。LとUは似てるし、RとKも似てるし、Rを崩した後にKを崩そうとすると同じ感じになっちゃうから、よくよく考えてみたら難しかったんですけど、(笑)。今は気にいってます。

ー勿論、グラフィティとの出会いも関係していると思いますが、ピースにそこまで惹かれたっていうのはなんでだったんですかね?

LURK:文字の崩し方、組み方を考える作業が好きだったんですよね。複雑に崩す、WILD STYLEみたいなスタイルで描こうとしていた頃もあったんですけど、全然読めるなみたいな(笑)。で、今のスタイルに行き着きました。元々文字というより絵から入ったところもあるので、ピースにはキャラクターも入れることが多いです。

ーそれは何かしらの影響があったんですか?

LURK:そこは確実にZEROSYの影響なんです。10何年以上前からZEROSYもスローアップとレターの中間ぐらいのピースをよく描いてたんですけど、そこにキャラクターも入れて描いてたんですよ。それに完全に影響を受けて、ピースにキャラクターを入れて描くようになって。ZEROSYから受ける影響が本当に大きくて。当時は本当に真似ばかりしていました。でも初期の段階で誰かの模倣をするっていうのはすごく大事なプロセスだと思います。

左:ZEROSY 右:LURK

ーLURKくんにとってのグラフィティライフの中で、最初のターニングポイントっていうのは、ZEROSY氏達との出会いだったのかなと思うんですけど、その次のターニングポイントって、ご自身的にはなんだったと思いますか?

LURK:外国に行き始めたことが大きいかもしれないですね。初めて行ったのが韓国で、2010年だったんですけど。グラフィティを初めて3年目とかの頃で。その時は自分の描いてるものに対して、100%の自信は無くて。グラフィティ歴の浅い自分が、外国に行って描いたりして良いものか、とか変に考えてしまっていたんですけど、外国に行きたいなっていう気持ちはあったから、とりあえず近場の韓国から行ってみました。そこで韓国のライターと一緒に描きに行ったりもしました。

ーそれはたまたま出会ったんですか? 今だったらInstagramで簡単にコンタクトが取れると思いますけど。

LURK:flickrだったと思いますね、今でいうInstagram的な感じで、flickrをやってるライターって結構いて。それで、韓国にいたBARNESって描いてるアメリカ人とflickrを通じて連絡取り合って一緒に描いて。そこから別の街に移動するときはまた紹介してもらって、次の街でも描くみたいな感じでしたね。グラフィティって、そういうところが多分あると思うんですよ。知り合いを紹介しあって、転々とするみたいな。自分にとってはそういうことを経験したのがその時初めてだったので、凄い楽しくて。何も考えずに、ずっとペイントだけしてたら良いっていうのが。そっからほぼ毎年のように海外に行くようになって。その経験が結構大きかったかもしれないですね。自分が見たことがないようなグラフィティのスタイルを見れたし。僕のスタイルは外国のスタイルっぽいって言われることもあるんですが、そういうところから来てるのかもなって思います。

ーライターのなかには作品を作ることに全く興味ないっていう人もいるじゃないですか。作品を作る暇があるならボムに行きます、みたいな。けど、自分が知ってるヨーロッパのライターの人たちは、作品を作ることと外で描くっていうところを等しく捉えているような感じがするんです。

LURK:アーティストみたいなところがある人が多いですよね。

ー作品は作品、グラフィティはグラフィティみたいな感じで、それぞれと上手く向き合ってるなって感じます。LURKくんからもそういう印象を受けるんですよね。

LURK:作品を作るんだったらボム行くってのはグラフィティライターとしては自然な事だと思います。結局、グラフィティの本質って突き詰めていくと街遊びというか、ゲームみたいなものだと僕は考えていて。街にどんだけ良いものを描けるかっていうゲームだと思うから、ボムに比重を置くっていうのは正解だと思うんです。グラフィティーの本質がそういうところだと思ってるから、外にしか描かないとか、外に沢山描いてる人のことは格好良いと思うし、自分には出来ないことだから尊敬しています。でも逆に、街にたくさん描いてる人の作品とかを見れると、かなり嬉しいです。普段外でしか見ない人が、こういう感じのものを作るんだ、こんな感じの事を考えてるんだ、って新しい側面が見えてくるので。福岡で言うとBNZの作品とかとてもカッコ良いですよ。自分にとっての作品製作は、元々絵が好きだったからなのか、自然な流れなんですよね。自分は今バルセロナのHDAっていうクルーに入ってるんですけど、スペインのライターとかはさっきも話していたようにアーティスト性が強いというか、グラフィティライターとグラフィティアーティストをそこまで分けていないんですよね。そういうスタンスを身近に見てきているから、自分にとって作品を作るっていうのが普通のことなのかもしれないです。グラフィティに対するスタンス自体も、HDAの皆と出会って変わったところがあります。彼らは人生の楽しみ方の1つとしてグラフィティを持っているんですよね。ピースを描いて遊ぼうよ、という感じで。ハードにやって常にSNSでもアップして有名になろうとかって気持ちは多分無くて。週末だし天気も良いし皆で酒飲みながら描いて、終わったら食事して。そういう事が普通にできるくらいピースを描けるスポットが街中にたくさんあることが羨ましくもあるのですが。それはグラフィティの持っているゲーム性からは少し離れてるかもしれないですけど、そういうスタイルが自分にも合っていると感じています。

バルセロナにてHDAの面々と。

ー現在所属してるクルーは、M2D、SITO、HDAですか?

LURK:そうですね。M2Dは大所帯なので、自分はあまり遊んだことのない人とかもいるんですけど、誰かがどっかでアップしてくれてるみたいな感じなんで、凄く居心地は良いですね。ZEROSY氏から沢山影響を受けてますし。後、BNZ。あの人のボミングは凄いですね。あの人のボミングは、グラフィティを分かって無い人でも分かると思うんですよね。パワーがあるというか。M2Dは街の先輩達という感じです。

SITOの面々と。

ーSITOはまた少し特殊なクルーですよね。一般的なグラフィティのイメージに留まらないというか。

LURK:あの人たちもやっぱり常に進化してるんですよね。描くものもどんどん変わっているし。KABISももっと悪魔的な絵を描いてたけど、最近ちょっとポップになっているところもあるし。ODENも本当に昔からの付き合いで、僕が神戸に行ったその年くらいから一緒に遊んでて。あいつも変わった奴なんですけど、凄いセンスもあるし、色んなところを見てるし、面白い動きをしてますよね。たまたまスペインで一緒になったこともあったし。

ーへー!

LURK:それぞれ別のタイミングで行ってて、バルセロナで合流して、MONTANA COLORS(バルセロナ発祥のスプレーメーカー)のアーティストハウスみたいなところに皆で泊まったりして。それで、APESとLAMBOとRESTOっていうベルギーのHDAのメンバーと、RINGO、あとBITCHって描いてる今サンフランシスコに住んでるやつ。BITCHは滅茶苦茶ボマーで、バルセロナでも滅茶苦茶描いてて。そのメンツと、僕とODENで新年を祝ったことがあって。夜皆で出かけたり、海沿いの景色が良いスポットでペイントしたり、いい思い出です。

バルセロナにてHDAの面々と。真ん中はODEN。

ー作品を描くとき、他の人たちがどういうものを描いてるっていうところを意識しながら、自分はこういうアプローチをしようとか考えますか? それとも、そういう外部は気にせずに描くっていう感じですか?

LURK:他の人が描いているものは気にする方だと思います。良いインプットが出来て初めて良いアウトプットが出来るんじゃないかと考えているので、昔から人の作品は見てきているつもりです。でも、他の人がこうだから自分も同じ、あるいは別のアプローチをしようとまでは考えていないです。特定のスタイルやモチーフなんかが流行っているなというのを感じたらそれを取り入れたるすることもありますが、基本的には自分の生活やバックボーンに根ざしたものが作品にも表れているんじゃないかなと思います。

ー普段の生活がLURKとしての活動に影響を与えるようなことってあるんですか?

LURK:いや、それは多分ないですね。相当バシッと線引きしてると思いますね、グラフィティと生活。もちろん普段の生活が自分の描くものに無意識に滲み出る事はあると思いますが、影響って意味ではあまり無いと思います。

ーグラフィティ以外に趣味みたいなものってありますか?

LURK:自転車は好きですね。昔からメッセンジャーのカルチャーに憧れてて、自分でも競輪用の自転車に乗ったりしてます。けど、本当に自信を持って好きって言えるのって、グラフィティくらいかもしれないです。あと、ここ数年ハマっているのは、ドレイン(排水路)に描けるスポットを探しに行くことで。懐中電灯を持って、長靴履いて探検みたいな感じで。

ーアーバンエクスプローリングですね!

LURK:遊びとしても面白いですね。大きいスポットとか見つけたら相当テンション上がります。

ー今後、いわゆるアートのフィールドで展示などをやってみたいというような気持ちってありますか?

LURK:自分のスタンス的には、グラフィティは生活の一部として楽しくやれたら良いなって感じなんですが、そういう展示も機会があればやりたいです。去年の夏にSQUASHで初めての個展をさせてもらったんですが、やっぱり何か作ってる時って、準備の期間も含めて滅茶苦茶楽しくて。だから、個展自体はいつかまた絶対にやりたいですね。

昨年の夏に開催された、SQUASH DAIMYOでの個展の様子。

ーでは、今後LURKとしてはどのように歩んでいきたいですか?

LURK:色んな人に自分の作品を良いと思われたら良いなっていう気持ちも勿論あるんですけど、やっぱりさっき言ったように、グラフィティを楽しんでやっていけたら良いなって思いますね。ボムも行く時は行きたいし、ピースも本当なら毎週描きに行きたいなって思ってます。

REPORTER PROFILE
From the Every Outside
From the Every Outside Vol. 3 : LAMBO by Maruro Yamashita
From the Every Outside Vol. 2:REMIO by Maruro Yamashita
From the Every Outside Vol. 1:SECT UNO by Maruro Yamashita
Interview&Text_Maruro Yamashita

INFORMATION

LURK

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