BEHIND CULTURE|VOL.04
映画監督・今泉力哉の映画づくりの中で残してきた余白

Text_Daniel Takeda , Photography&Edit_Rio Osugi

BEHIND CULTURE|VOL.04
映画監督・今泉力哉の映画づくりの中で残してきた余白

Text_Daniel Takeda , Photography&Edit_Rio Osugi

作品が生まれ、シーンとして広がっていくまでの裏側には無数の判断と選択、そしてそれを担う人たちの仕事がある。「BEHIND CULTURE」は、KDDI「au Short」サポートのもと、音楽・映像・ファッション・アートといったカルチャーの現場で、その“裏側”を支えてきた担い手たちに光を当てる連載企画だ。職業や肩書きの紹介ではなく、思考や判断の基準、そして次の時代のカルチャーをどう見ているのか。執筆は、カルチャーのさまざまな側面に光を当てるジャーナリスト/研究者の竹田ダニエル

BEHIND CULTURE第4回は、『愛がなんだ』、『街の上で』、『ちひろさん』、『1122 いいふうふ』、『冬のなんかさ、春のなんかね』などを手がけてきた映画監督の今泉力哉。
人と人のあいだにある、説明しきれない感情。今泉力哉の映画は、そうした曖昧な距離や小さな揺れを、会話や沈黙、街の風景の中に映し出してきた。
映画に向かうことになった原点、NSCでの経験、俳優に委ねる現場での判断、そして人の弱さをどう映画にしているのかを聞いた。

ーまずはじめに、今泉監督はもともとどのような経緯で映画を撮り始めたのでしょうか。会話の温度みたいなものを大切にする作品につながった原点みたいなものがあればお聞きしたいです。

今泉:原点がどこかと言われると難しいんですけど。高校卒業まで、福島県郡山市にある実家で暮らしていました。じいちゃん、ばあちゃんとも一緒に住んでいて、小学生の時にじいちゃんによく映画館に連れて行ってもらっていて。それで映画を好きになったんです。
ちょうどその頃、近所にレンタルビデオ屋さんもできたんですよ。今はサブスクも普及して減ってきましたけど、当時はビデオ(VHS)を5本借りると1週間1000円とか、たくさん借りるとセットで安くなるみたいなサービスがあって。見たらまた返して、また5本借りる、というのを小中学校の頃に繰り返していました。
当時はまだ、自分でもつくってみたいなんて気持ちは一切なくて、ただただたくさんの映画に触れていただけ。高校は進学校に通っていたんですけど、大学に行ってまで国語、数学、理科、社会みたいな勉強をする気がまったく湧かなくて。それで芸術系の学校に行きたいと思って、映画を志したのが最初ですね。
でも、最初から今のような作風だったわけではなくて。そういうものは、いろいろつくっていくうちに見つけていった感じです。最初から今のような恋愛ものや会話中心の作品を志していたわけではありません。学生の時はもうちょっとアクション的なものもつくっていました。

ー大学時代だったり、その後にNSCへ行かれる流れもかなり印象的でした。他のインタビューでも、大学の卒業制作で一度挫折した、というお話をされていたと思うんですけど、その時の“挫折”みたいなものって、どういった感覚だったのでしょうか。

今泉:卒業制作でつくった作品を先輩や後輩の映画と一緒に上映する機会があったんです。その時に自分の映画だけがホームビデオみたいな仕上がりになっていて。あ、俺もう映画監督になれないんだな、と思って1回映画から離れようと思いました。
卒業と同時にシナリオ学校に行く方法もあったんですけど、シナリオ学校ってすごく真面目そうに思えて。だったら自分はテレビっ子だったし、出たがりでもあったので、吉本のNSCという芸人学校に通おうと思ったんです。ちょうどM-1がすごく盛り上がっていた時期で、笑い飯がワーッとなっていた頃で。当時は作家コースとか裏方を志すコースもなかったので、芸人志望のコースに入学したんですけど、ネタをつくって講師に見てもらって意見をもらうという点では、シナリオを書いてフィードバックをもらうのとやることは一緒だなと思って。
地元が福島県で、地理的にも東京はいつか住むだろうと思っていて。だから、東京じゃなくて大阪の方がいいなと思って大阪のNSCに行きました。1年間の学校なんですけど、在学中にある程度評価を受けたら続ける。でも、1年間のうちに評価を一切受けなかったら就職する、という感覚で通っていました。
で、在学中にネタ見せをしていたら、先生の何人かから「あなたはお笑いじゃなくて、物語がやりたいんでしょ」と言われたんです。ネタを見てもらって、「吉本じゃない」とか「お笑いじゃない」とか言われて。笑いどころもめちゃくちゃ少なかったし、しかもそこも別に笑えないし。それで、「自分はやっぱり物語がやりたいんだな」と思って、東京の映画学校に通い直した、という経緯ですね。
今だから分かるんですけど、大学の卒業制作時の挫折って、技術面での挫折でしかなくて。先輩や後輩は機材にもすごくこだわっていたし、大学は名古屋市立大学という公立校だったんですけど、名大の映研とか、ビジュアルアーツとか、映画づくりに慣れている人たちと一緒に集まってつくっていて。撮影や照明、録音機材もちゃんとしていて、俳優も名古屋の事務所の俳優をきちんとキャスティングして撮っていた。
一方、私は同じカメラで撮らないとルックが変わる、みたいなことも分かっていませんでした。「今日、借りられるカメラを借りよう」みたいな感じで大学から機材を借りて、照明も、照明なんてあったかなというぐらいのレベルで、録音もその日に空いている友達がやる、という感じでした。
最近も自主映画の審査員をすることがあったんですけど、”いい作品”とか”いい映画”っていうのは、どれだけ技術が拙くても伝えたいことがあると思えたり、その人にしかつくれないな、って感じる作品なんです。その熱量や想いに対して、技術面はあとからどうにでもできる。その道のプロフェッショナルな人たちと仕事すれば補える部分だったところで諦めようとしていたので、そこで諦めなくてよかったなと思います。
遠回りしたかもしれないですけど、NSCに通った時間も決して無駄にはなっていません。あの1年間に芸人学校で見聞きしたことも、その瞬間は笑いのつくり方とか分かっていなかったけど、今、映画をつくる時にすごく生かされています。

ー映画の畑で学んでいて、そこでNSCに行くって、多分一般的ではないですよね。

今泉:ではないですね。

ーそれって、なんで思いついたんですか。

今泉:今泉:本当になんででしょうね(笑)。まあ、M-1の存在は大きかったですね。でも、大学4年の12月、1月に親に言うのはめちゃくちゃ怖かったです。親は理解がありましたけど。今でこそ学生お笑いとかありますけど、学生時代にお笑いをやっていたわけでもないので。でも、やってみたかったんでしょうね。
当時、彫刻家の先生のゼミにいたんですが、その先生が「今泉、就職の口持ってきたぞ」と卒業間近の2月ごろに言ってきて。就活が全然うまくいかなかったのに、先生のコネで名古屋のまあまあ大手のCM制作会社の口が急に現れて、内定が出たんです。NSCの合格通知と、名古屋のCM会社の内定で二択になってしまいました。
それで、いろんな人に「どっちがいいと思う?」と相談しました。その時はGEOというレンタルビデオ屋でバイトしていたので、バイト先の社員さんとか、いろんな人に相談して。そしたら9割ぐらいの人が「そんなの就職だろ」と言うんですよ。
でも、3年後とか5年後とかに自分がどうなっているかを想像した時に、絶対にNSCの方が想像できないと思ったんです。「あ、そうですよね」といろんな人の意見を聞きながらも、自分の心は決まっていました。お笑いは今でもずっと好きですね。携われるなら、今でも携わりたいです。

ー作品の中に出てくる古本屋だったり、服や音楽、街の風景みたいなカルチャーのディティールもかなり印象的だなと思っていて。『街の上で』の下北沢もそうですけど、普段どういったものからインスピレーションを受けているのかお伺いしたいです。映画以外のカルチャーから影響を受けることがあれば、そのエピソードも含めて教えてください。

今泉:大学生の時に魚喃キリコさんの漫画に触れたのは大きかったですね。自分は本当に恋愛経験が少なかったですし、初めて恋人ができた前後くらいのタイミングで魚喃さんの漫画に触れて、そこにまったく知らない女性側の感情が描かれていた。それはすごく大きかったです。大学時代に触れた映画や漫画から受けた影響はかなり大きいと思います。ジョン・カサヴェテスという監督を知ったのも大学時代でした。
一方で、自分は本当に小説を読んでこなかったんです。ガチガチの理系で国語が一番苦手だったし、小説も大学時代に何冊読んだだろうというくらいで。NSCに行っていた時に、「小説って面白いんだ」と思って読み始めたんです。22歳の時でした。
音楽も自分から積極的に聴くタイプではなくて、人に紹介されて知ることが多いですね。洋楽はいまだにほとんど知らないですし、好きなのはダニエル・ジョンストンとアイスランドのSlowblowってバンドくらい。どちらも映画きっかけで知りました。
邦楽だと、いとこに教わって知ったthee michelle gun elephantが好きでした。ミッシェルは高校生くらいの時にCDを全部買うみたいな感じになった唯一のバンド。あと、その頃はthe brilliant greenが英語詞で歌っていてかっこよかった。
東京に出てきて映画をつくるようになってからも、自分から積極的にいろんなカルチャーを知りにいくみたいなことは一切してなくて。人から紹介されて知ることの方が多かったです。大森靖子さんのライブに行った時にトリプルファイヤーと出会って、『サッドティー』の音楽をお願いしたり。GEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーさんとカネコアヤノさんとも2016年の作品でご一緒したり。『愛がなんだ』でご一緒したHomecomingsも知人から紹介されて知りました。
だから、常にアンテナを張ってる、みたいなタイプでは全然ないですね。その時出会った人のことを、今どういうポジションにいるとか関係なく、面白いと思った人にダメもとで声をかけて、ご一緒しているという感覚です。あとからその人が売れたり、活躍したり、みたいなことが多いので、なんか詳しいと思われてるところはあるけど、全然そんなことはないんですよ。

あと、なにから影響を受けて作品をつくっているかってことで言うと、ここ数年は驚くほど何にも触れてなくて。映画も全然見れていない。こんなにインプットせずにどうやってものをつくれるのだろうっていうくらい。ただ、人と酒を飲むことだけはめちゃくちゃしていて。本当にいろんな人と酒を飲んでいます。そこから得られるものは大きいですね。
他人の恋愛相談にもずっと乗っていますね。XのDMでもそうですし、直接会って話を聞くこともあります。もちろん、その人の悩みをそのまま作品にすることはないですけど、自分の中にある悩みと混ざり合って、こういう形でなら描きたい、と思えた時に作品になるとかはありますね。だから、何から影響を受けてつくっているかと言われたら、「人の悩みから」っていうのが一番大きい。実在する人の話や自分の中に生まれた悩みからつくっている、という感覚はずっと変わっていないです。

ー『街の上で』の下北沢や、『窓辺にて』のコインランドリーみたいに、場所の使い方もすごく印象的です。「この場所を撮りたい」というより、「この人がここにいたら合う」という感覚なんでしょうか。

今泉:そうですね。そういう面もあります。
場所については子供もいるので安全面からあまり公にはしていないのですが、神奈川県に家族と住んでいる一軒家があって。それとは別に、仕事が忙しくなってから東京にも一人用の作業部屋を借りてるんです。ただ、東京の生活環境を整えすぎると帰れなくなっちゃうから、洗濯機とか冷蔵庫とか置いてなくて。それで本当にコインランドリーを使うようになったりして『冬のなんかさ、春のなんかね』の脚本を書きました。自分の場合、どうしても自分の生活圏と作品ってリンクしていく。
喫茶店もそうで、自分は家でまったく作業ができないので、基本的に喫茶店で仕事していて。どこに住んでいても、自然と何ヶ所かよく行く店ができていく。だから、喫茶店は身近な存在として作品に出てきますね。
映画『街の上で』の時も、自分が行ったことのある居酒屋とか、すでに通っていたお店を中心に撮影しているんです。「すみません、普段、映画を撮ってるんですけど、撮影でお店って貸してもらえたりしますか?」って自らお願いして。最初の声かけも、常連客としてお願いする感じだったので、まるで学生の自主映画のような声のかけ方で(笑)。撮影始まったら、え、プロなの?みたいな(笑)。もともと知っている場所だと、人物の配置とかも想像しやすいし、その場所への愛情も違ってきますし。作品にとってプラスに働くことは多いですね。

「“他の作品でも使ってる場所”がすごい嫌だった」

ー最近の作品でも、ロケハンや場所探しは自らされているんですか。

今泉:商業作品になってからは、基本的には制作部に候補を出してもらっています。でも、もちろんどこでもいいわけじゃなくて、きちんとこだわっています。
例えば『冬のなんかさ、春のなんかね』の時もそうですけど、テレビドラマって映画より尺が長いじゃないですか。50分×10話だと500分、つまり映画5本分くらいあるので準備が間に合わなそうな時もある。それでも喫茶店とかはかなりこだわりました。「ここはイメージと違いますね。ここでは撮れないですね」って言ったりして。
もちろんギリギリで提示されたわけではなくて、ちゃんと余裕を持って話し合いながら進めてもらっていたので、自分もこだわれたんですけど。結果的に「ここじゃない」と思った場所は全部はずせて、自分が気に入った場所だけで撮れました。
ひとつ、反省なんですけど……。場所探しについては、プロになりたての頃は全然分かってなくて、結構イラついたりしていました。制作部が見つけてくる家や場所がこれまでの作品で使用した”ストック”の中から探しているように感じたんです。マンションの部屋とか、この作品のために探してないじゃん、っていうのがすごく嫌で。
自主映画をつくっていた時は、常にその作品のためにすべてのロケ場所を探していた感覚があったので、なんで他の作品でも使ってる場所を使わせるんだよって思ってすごく悲しかった。作品に対して愛情がないと思ったし、作品に興味のない人が自分の作品に関わっていることが本当に嫌で。勝手に苦しかったんです。
でも、たくさん作品をつくっていくうちに分かったのは、単純に予算とかスケジュールの問題だったってこと。制作部が1〜2ヶ月前からちゃんと雇われていて、給与が発生して、拘束されていたら探せるけど、予算もなくて、極端な話、2週間前とかに呼ばれたら、当たり前ですけど探す時間もない。全部そういう事情だったのに最初は何もわからず、若いからなめられてる、と思って勝手にムカついていたんです。やっていくうちに「そりゃそうですよね」って思うようになりました。
制作部が半年前から準備できれば、やっぱりいい場所にも出会えるし。初期は本当に分かってないことがいっぱいあって、自分が間違っていた、みたいなことはめちゃくちゃありますね。恥ずかしいです、ほんと。

ーインディペンデント作品から商業作品まで幅広く撮られてきていると思うんですけど、規模が変わっても「これは絶対に守りたい」と思っている感覚ってありますか。

今泉:すごく当たり前のことかもしれないですけど、自分が面白がれるかどうか、ってことは大切にしています。そこって意外と忘れがちになるんですよね。商業になればなるほど、規模が大きくなればなるほど、見る人も増えるし、もちろん興行的な部分はすごく大事なんですけど、「誰かのためにつくる」とか、「見る人が面白がれるものをつくる」みたいなことだけになっちゃうとよくないなと。極端な話、10億とか100億とかヒットしても自分が「この作品はあんまりだな」って思ってたら結構苦しいと思うんです。
だから、まずは自分が面白いと思えるものを、っていうのは絶対おろそかにしちゃいけない。オリジナル作品の場合は、自分で脚本も書いているから撮りたいものである場合が多いので問題ないのですが、原作ものを依頼された時にどうするか、ですよね。
自分の場合、原作ものを引き受けるかどうかの基準が明確に2つあって。まず1つは、その原作自体を面白いと思えるかどうか。もう1つは、その作品を自分が面白くできるかどうか。
他の監督やつくり手の方が面白くできると思ったら、自分はやらないです。要は、実写化された作品が面白くなるかどうかが大切なのであって、自分がやることが大切なわけではないので。だから、自分が面白くできないならやらないっていうのは意識しています。

ーどんな瞬間に、「映画を撮りたい」と感じますか。

今泉:うーん。あんまり「撮りたい!」ってならないんですよ。基本的に、自分は“撮りたくてしょうがない人”ではなくて、“基本寝てたい人”なので(笑)。撮らずにいられないタイプではないし、現場もそこまで得意じゃない。大勢で集まるのも苦手だし、朝早いのも苦手ですし。だから今は、どういう時に撮りたくなるんだろう、ってまあまあ本気で悩んでます。初期衝動みたいなものはもうないですし。
最近、『海が走るエンドロール』っていう漫画を読んだんですけど。65歳の女性が旦那さんを亡くした後に映画学校に通って映画をつくり始める、という漫画なんですけど、その漫画を読みながら、ちょっと泣いちゃったんですよ。「俺も本気で映画撮りたかった時あったじゃないか!」って思いながら泣いちゃうくらい、やっぱり自分の中でいろんなものが濁ってたんだなと思ったりして。
だから、本当に好き勝手に撮らせてもらえる機会がある時に、「自分が一番撮りたいものって何なんだろう」とか、「熱を持って撮れるものって何なんだろう」っていうのはすごく考えています。それは新しい俳優との出会いかもしれないし、大きな悩みとの出会いかもしれない。そういうものが見つかったら、またすごく映画を撮りたいと思うんだろうな、とは思います。だから結構、今の自分にとっては大きな悩みかもしれないですね。あ、大きな悩みがここにあった。またつくれるかも(笑)。

ー冒頭のお話に少し戻るんですけど、最初につくった脚本やイメージと、完成したものがいい意味で大きく変わる、というお話をされていたと思います。特に俳優さんに対して、「任せて正解だったな」と思ったエピソードがあれば教えてください。

今泉:私は、現場で俳優が初めて演じる際に、「ここはこういう気持ちで」とか「こういうふうに動いてほしくて」とか、そういうことは一切言わないんです。座る位置くらいは伝えるけど、まずは好きに演じてもらう。俳優もそれぞれどう演じるか考えてきてると思うんです。それで自分のイメージと一致したらそのままでいいし、全然想像してなかった芝居が出てきた時も、間違ってるわけじゃなかったら、「すいません、自分ちょっと分かってないかもしれないんですけど、今ってどういう気持ちでやりましたか?」って聞く。そうすると、「あ、なるほど」ってなることがある。
私は自分の頭の中にある芝居をそのままやってほしいわけじゃないんですよね。オリジナルで書いていても、俳優の方が自分より役の理解度、解像度が高いことって全然あるんですよ。だったら、それを採用する。もちろん、前後とのつながりが壊れてしまう時は、「めちゃくちゃ迷うんですけど、そうすると次のセリフが成立しなくなっちゃうので、今回はこっちで」って相談することもあります。でも、俳優さんってそのさらに2つ3つ先まで考えた上で提案してきてる場合が多いんです。それはとても嬉しいことですね。
ベタな表現って、多分俳優も分かってるんですよ。一番わかりやすいひとつの正解がなにかは分かってる。そこから1個進んだアイデアくらいはみんな持ってきてくれます。例えば、いじめられてる時に「痛い」「苦しい」っていう顔をするのが一番わかりやすい感情表現だとしたら、逆に「笑っちゃう」とか。笑っちゃう、くらいまでは自分も考えているとして、さらにその先で、自分が想像もしていなかった芝居を提示された時に嬉しくなる。わあ、そっちの方がリアルかもって思う時があるんです。
そういう意味では、一番ベタな芝居から“一個ずらす”くらいまでは、もう全員当たり前に考えているレベルでやりたい、という感覚はありますね。

ー具体的に印象に残っている俳優さんとのエピソードってありますか。

今泉:例えば『冬のなんかさ〜』だったら、最後の別れ話のシーンですね。杉咲さんが自分が浮気していたことや自分の恋愛について、淡々と正直に話していく時の、成田さんのリアクションは本当に素晴らしかった。
「つらいけど別れる」と決めている人の、“耐えているけど、話はちゃんと聞いている”みたいな表情はちょっとすごかったですね。
多分、他の俳優だったら、苦しさとか余裕のなさをもっと表現しようとすると思うんですけど、成田さんは“ただ受けている”。でも、その中に悲しさとか苦しさとか、「好きだけど別れる」が全部入っていて。
あと、『ちひろさん』の時の若葉さんも素晴らしかった。原作だと、ちょっと怖もてな土木作業員みたいなキャラクターなんですよ。スキンヘッドで、眉間にしわ寄せているような。でも若葉さんはその人物をキョドキョドしながら演じていて。他者に怯えてるというか、強い側じゃない感じで持ってきたんです。
それを見た時、自分もちょっと困惑して。「若葉、そっちでやる?」って(笑)。原作どおりにいくか、若葉さんのアイデアを採用するか、すごく迷ったんですけど、結果的には若葉さんが持ってきた演じ方、キャラクターの方が人物をより深く捉えていると思ったので、そちらを採用しました。
若葉さんとやる時はそういうことがすごく多いですね。人物をこちらの想像の一個二個上で考えて提示してくれる。若葉さんもそうだし、杉咲花さんもそういうことが多い俳優ですね。

「人のダメな部分を、魅力として捉えられる人」

ー最後の質問なんですけど、若葉さんだったり成田さんだったり、今泉監督作品でよくご一緒されている方々には、何か共通点があるのでしょうか。

今泉:まず大前提として、芝居をすることに対して自分なりの想いがきちんとある人たちだと思います。演じるということに真摯に向き合っている人たちですね。演じることに対して、きちんと違和があり、畏怖がある。
若葉さんが『A-Studio』に出た時に、「今泉さんってどんな監督ですか?」って聞かれて、「監督に向いてない人です」って言ってたんですよ(笑)。若葉さんもご自身で「自分は俳優に向いてない」って言ってるし、そういう感覚をちゃんと持ってる人なんですよね。
あと、人のダメな部分とか、だらしなさ、情けなさを“魅力”として捉えられる俳優が好きです。もちろん、真面目で、そういうことを許せない人の魅力もあるんですけど、自分はどうしても、弱さとか、意図せずに人を傷つけてしまうところとか、優柔不断さとか、そういう「生きるのがうまくない人」を描きたい。
そういう部分がある人を単に、ダメな人だね、で終わらせるんじゃなくて、「人間ってそういうところもあるよね」って思える人とやると、すごくやりやすいです。
あと、自分が好きな俳優は”技術がおもてに出る人”ではないんですよね。もちろんみんな技術は高いんですけど、それよりも”人間としての魅力”とか”その人が纏う空気”が前に出る人が好きです。
その人の芝居を見た時に「うまい」っていう感想になる人って、何よりも技術が前面に出てしまっている気がして。それはあまり魅力的ではないですね。それよりも”その人そのものがそこにいる。そこでただ生きている”っていう感じの俳優が好きです。

インタビューの様子はau Shortで映像でも楽しめるのでチェックしておこう。

【動画埋め込み】

INFORMATION

BEHIND CULTURE VOL.04 今泉力哉

◼︎今泉力哉
https://x.com/_necoze_?lang=ja

◼︎au Shortについて
話題のドラマ・アニメ紹介/ヒット曲MV/動物など、10,000本以上の様々な動画コンテンツを視聴できるサービス。累計DL数は660万人を突破している。
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