“あなたに逢いたくて”〜EYESCREAM的人物図鑑〜 Page.06 Yaaaz

photography_Ryuichi Taniura Edit_Maho Takahashi

“あなたに逢いたくて”〜EYESCREAM的人物図鑑〜 Page.06 Yaaaz

photography_Ryuichi Taniura Edit_Maho Takahashi

例えばちょっと昼過ぎの、なんかモラトリアムな時間に、交差点やなんかを渡っていると『今、すれ違ったあの人、何をやっている人なんだろうな』とか気になる人が稀にいる。これだけ聞くと、どんだけ危ない思考で街を歩いているんだよ、と突っ込まれそうだが、何気なく気になる人というのは、人間の本能的な細胞的な何かが、こんがらがって脳に指令を出しているという、いわゆる1つの繋がりがある人物なのだとか(そうでないとか)。ならば話しかけてみましょう、相手は人間なんだもの。言葉通じるでしょ。そして教えてもらいましょう、あなたのこと。そう、あなたに逢いたくて、ここにカメラマン連れてテレコ片手に歩いて来てるんだよ。という連載“あなたに逢いたくて”〜EYESCREAM的人物図鑑〜
魅力のあるクリエイターやアーティストをEYESCREAM目線で勝手に紹介させていただく。6ページ目は期間限定ギャラリーYaaaz

神泉町にある廃ビルに期間限定のギャラリー「Yaaaz(ヤーツ)」は佇む。一見どこにでもあるごく普通のビルだが、最上階にあるその部屋を訪れると、外装からは想像のつかないサイケデリックな空間が広がっている。ギャラリーとシアターが共存するこの場所は、カオスでありながらどこか幻想的だ。秘密基地のようなわくわく感は、一体どのようにして作られたのだろうか。この場所を主宰するトラックメイカー/DJの蜻蛉と、クリエイティブユニットMESで活動するKANAEの二人に話を聞いた。

名前とかじゃなくて、どれだけ僕たちが走りきれるか

ーまずYaaazをオープンした経緯とコンセプトを教えてください。

蜻蛉:僕がやってるCURITOというオーディオビジュアルのセットを、(空間プロデュース会社の)ANCRの一周年パーティーでやってほしいとオファーを受けて。そのギャランティとして、去年9月くらいにこの場所を物々交換でいただきました。それで、僕の信頼するMESの二人にも協力をお願いしたんです。ギャラリーやシアター、音が共存する非日常的なスペースに、いろんな人がきてくれたらいいなって思って。夢の国みたいな飛ばし方が僕の中での目標ですかね。

KANAE:蜻蛉さんと一緒にビルの内覧会的なパーティーに行って、どこの部屋にしようかって話から。エレベーターはないけど、せっかくなら最上階がいいねって。

蜻蛉:二人とも地下が嫌いということもあったし、やっぱ上の方が気持ちいいよね、というところで、6階にしました。

ーそこからオープンするまではどういった流れだったのですか。

蜻蛉:Yaaazは僕らのほかに、髙橋洋平くんというペインターと、在音東京の細野晃太朗とで一緒にやってるんですが、各々の活動もあったので、正直全然すぐに動けなくて。ビルの停電とかもあったりして、9月に入居したけどオープンは年を跨いじゃいましたね。結構のんびりと作った場所です。

ーNAZEさんが手がけた入り口が印象的ですが、何かコンセプトなどは共有したのでしょうか。

蜻蛉:ぬるって入っていく、みたいなイメージはあった。妖気さが漂って、そこにぬっと飲み込まれてくみたいな感じは伝えました。

KANAE:NAZEくんもすごくフィーリングでキャッチしてくれて、CUTEちゃんのお口の中に入っていくというのを提案してくれました。最近は廃ビルに絵を描くこと自体が浸透してきていると思うんですけど、そこは奇を衒わずにガンガンやっていこうと。私たちの場所の顔にもなるし、インパクトを求めて描いてもらいました。

ーちなみに「Yaaaz」という名前の由来は何ですか。

蜻蛉:ここを主宰するメンバーのスレッドがあって、そこで「神泉のやつどうする?」「神泉のやつ名前決めないと」ってやりとりをしてたら、晃太朗から「神泉のやつ、神泉のヤーツ、Yaaazでよくね?」って来て。うん、これだ! みたいな感じでソッコーで決めました(笑)。名前とかじゃなくて、どれだけ僕たちが走りきれるかってところだと思うから、一気に行っちゃおうと。

KANAE:私は逆に、思い入れのある名前にしたいと思ってたので悩みました。でも、早くオープンさせたい思いもあったし、そこは乗っかっちゃおうと。あと、今は神泉のYaaazだけど、場所が変わっても使える名前だなって。

蜻蛉:どこでもいける。渋谷のヤツ(Yaaaz)もいけるし。なんか、ご期待に添えられるようなかっこいい由来じゃなくてすみません(笑)。

即興で形に変えていくことが、私たちのやってることの面白さ

ーお二人の出会いは?

KANAE:2016年にあった「寺と寺アートフェスティバル」にお互い出演していて、その中のライブスペースになってた柔道場で会いました。別のアーティストの演出を頼まれていたんですけど、会った瞬間に「俺のもやってよ」って言ってくれて(笑)。それから仲良くなって、青山蜂で一緒にMV撮ろうって誘ってくれたのをきっかけに、クラブでもVJを始めるようになって、音楽の人たちとの出会いも増えていきました。今は公私ともにというか、MESにとってはお兄ちゃんみたいな存在です。

蜻蛉:ありがとうございます(笑)!

ー公私ともに仲が良いようですが、一緒に制作する際にイメージの共有などはあるのでしょうか。

蜻蛉:「Aiueo」という曲のMVを作ってもらったときは、ほとんど任せちゃいましたね。僕のトラックからイメージしたMVを作りたいと言ってくれたので、そのマインドをそのまま受け取ろうと。

KANAE:アイウエオという原始的でわかりやすい音を視覚化したいと思いました。レーザーで文字を作るという手法は、私たちの作品でも多くを占めているので、それを蜻蛉さんの音楽に乗せてやってみたいというのもあったし。最初は森の中で木にレーザーを当てるってアイデアもあったんですけど、車でリサーチしているうちにいい出会いに導かれ、洞窟で撮ったんです。

ー洞窟ですか?

蜻蛉:もともと僕が葉山に住んでいるレゲエシンガーのAilieの家に居候していたこともあって、その近くの森で撮るのいいんじゃない?ってなってたんですけど、ロケハンしてたらちょっと違うねってなって。Ailieのところに行っていいところがないか聞いたら、「この先にめちゃくちゃいい洞窟があるよ」って教えてくれて。さすがAilieでした、すごくいい思い出になりましたね。

ー蜻蛉さんはビートメイカーとしての活動に加えて、CURITOというセットもやられていますが、音楽、映像、ペイントという3つのジャンルを合わせたパフォーマンスの面白さや難しさを聞かせてください。

蜻蛉:CURITOを一緒にやっている洋平くんとVJのKIMは同い年で10年来の仲なんですけど、基本的には、全員ぶっつけでドカンとやるんですよね。3つのセットで高めていくというよりも、各々の爆発がケミストリーする感じが面白いです。個々で磨いてきたものをバシッとぶつけた化学反応みたいなものがどんどん進化していると思うので、もっと新しいものを追求して行きたいですね。だから難しさとかはなくて、みんなとやれるのがすごく楽しいですね。

ーMESも即興での演出が印象的です。

KANAE:今回のYaaazでの展示は即興ではないんですけど、壁に塗った蝋燭にレーザーを当ててリアルタイムで彫刻するという作品になっています。即興での演出活動のときは音に合わせて形を作ったり、それがブランドとのコラボレーションの場合は、その世界観に合う形で表現しています。そういう一つの縛りに対してのアンサーを即興で形に変えていくことが、私たちのやってることの面白さなのかなと思います。

Report: “CO:LABS LIVE” 気鋭クリエイターによる音楽×アートの空間

ーこのビル自体の取り壊しはいつ頃の予定なのでしょうか。

蜻蛉:当初は3月末って話だったんですけど、少し早まるかもしれない。壁を抜くのに立ち会ったり、自分たちで色も塗ったから、めっちゃ寂しいですね。

KANAE:けど実はもう、ANCRの方々が新しい場所での話を進めてくれていて。この場所は無くなってしまっても、Yaaazは続いていく可能性が高いです。

ーでは、神泉の次にも、また新たなYaaazができると?

蜻蛉:その予定です。みんながいろんな楽しみ方ができたらいいですね。今は週末にウィークエンドバーもやってるので、いろんな人に遊びに来てほしい。アートや音楽、それぞれ異なるシーンに精通している人たちが交わって、いい人間交差点になりつつあると思います。

KANAE:今はお客さんが倍々ゲームみたいな感じで、人が絶えないよね。しかも最上階だから、みんな一回入ったら降りるのがめんどくて絶対ゆっくりしていくし(笑)。

蜻蛉:もう蟻地獄スタイルだからね(笑)。

KANAE:あと、ここは少人数で会えるというのも強みだと思います。知らない人はもちろん、知ってる人ともゆっくり話していろんなものを見せられるので。なんだかんだ友達や同じフィールドで活動してる人にいいねって言われるのって、何十倍も還りが大きいんですよね。もちろんいろんな人に伝わって欲しいけど、身近な人に理解してもらえる安心感って得難いものだと思うので。

蜻蛉:…得難い(笑)! 得難いなんて最近使ってないから、これ使っていこう! なんか口を開くとすぐふざけちゃうな(笑)。

KANAE:そのバランスがいいじゃん。でもこう見えて蜻蛉さんは超マメですね。ここを運営するにあたって細かいことまで準備してくれて、それが場所のクオリティに繋がっていると思います。ただ若い人がアングラでやってるんじゃなくて、締まるところ締まるというか、本気も見せられるのかなと。一緒に活動してて学ぶところです。

蜻蛉:やっぱりこんな場所なので、恐怖感も与えたくないし、みんなが居やすいような場所にしたいですね。その辺はここのオーナー的な立場として、ホスピタリティを持ってやっていきたいですね。

ー新たなYaaazにも期待しつつ、個人としての今後の展望を教えてください。

蜻蛉:Yaaazとしては、形が変わるにしろ同じようなマインドでやっていきたいですね。友達の家に来たらちょっとやばかった、みたいな秘密基地感を大切にしつつ。個人としては、ビートメイカーとして3月末に新しいEPを出すんですけど、それとは別でYaaazを取り壊すときの音をサンプリングした曲もリリースしようと考えています。

KANAE:Yaaazの今後の展望としては、ジャングルのようになっていくといいなって個人的には思っています。

蜻蛉:…ジャングル。蟻地獄ジャングルバーYaaaz(笑)!

KANAE:パッと見て作品がわかる、アーカイブショールームを展開していきたいのと、MESでキュレーションをしてグループ展もやりたい。MESはもともとアーティスト集団だったので、グループ展も得意なんですけど、今はその影を潜めているので。MESとしての展望としては、今回展示した彫刻をもっと大きいギャラリーや美術館でも発表できる形態にしたい。ここ2、3年は、クラブでのVJやクライアントワークに取り組んで来たんですけど、新しいことも並行してやっていきたいと思っているので。

ー最後に、次の展示について教えてください。
(※3月1日まで開催中の展覧会「Unique ideograph / あなたの手段」のこと)

蜻蛉:次は洋平くんとAitone、Tatsuya Hirayamaというペインター三人によるコラボ展です。キャンバスを置いた状態から制作過程も見せていこうと思っています。

KANAE:蜻蛉さんがここに関わっている人の作品は、常に見れる状態にしたいって提案して。普通ギャラリーだと、一回まっさらにしてから次の展示をするのが常識だったので、いい発想だなと。なのでMESの作品も一部残しつつ、そこに加えていく形で第二弾へ展開していこうと思っています。

蜻蛉:それ常識だったんだ、めっちゃ恥ずかしいじゃないですか(笑)。

KANAE:そんなことはないです。今回は特に期間も短いし、こういう場所でやるにあたって、いいやり方だと思いました。

蜻蛉:僕はカオス好きなんでしょうね。確かにその人の作品を見るには、余計なものはない方がいいんでしょうけど、整然とされてるとコミュニティとしての多様性みたいなのが失われちゃうと思って。夢の国だけどコミュニティでありたいんですよね。映画「ファンタジア」みたいなサイケデリックな世界観もありつつ、コミュニティでもある、みたいなのが理想です。以上、マメ吉マメ蔵でした!

ギャラリーという枠組みにとらわれず、新たな表現を探求し続けるYaaaz。その場所でさまざまなカルチャーが交差していくのは、彼らのクリエイティビティが根底にあるからこそだろう。場所や形を変えながら、進化していく過程をこれからも追っていきたいところだ。次はどこのYaaazで会えるだろうか。

[追記](2020年2月27日更新)
急遽の退去勧告により、神泉町でのYaaazは2月27日をもって営業終了となった。予定していた展示のクロージングと公開収録は、「超突貫工事の一夜城スタイルで2/28、2/29、3/1の3日間だけ神宮前にYaaazをオープンさせます!」となっている。詳しくは以下より確認を。

https://www.instagram.com/p/B9Day6aDcpY/?igshid=13lyjyvrtsmfj


“あなたに逢いたくて”
〜EYESCREAM的人物図鑑〜

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