MUSIC 2020.10.07

Interview:ソロメジャーデビューを果たすRyohu シングル「The Moment」とアルバム『DEBUT』について

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Photograph_Hidetoshi Narita, Edit&Text_Ryo Tajima[DMRT]

これまでも度々フォーカスしてきたラッパー、トラックメーカーのRyohu。KANDYTOWNとしての活躍はもちろんだが、これまでもソロ作をリリースし、数々のアーティストの作品に客演として参加してきた。これまでDIYでトラックも制作してきたRyohuが満を持してのメジャーデビューだ。その1stアルバムのタイトルは『DEBUT』。本日、10月7日に先行配信シングルとして「The Moment」がMVと同時に発表されたわけだ。楽曲は冨田恵一氏(冨田ラボ)プロデュース、MVはPERIMETRONが担当。アルバムには冨田恵一氏の他、TENDRE、AAAMYYY、starRo、Giorgio Blaise Givvn、荒田洸(WONK)と多くの仲間が参加しており、とんでもない内容となっている。Ryohuにとってソロメジャーデビューとはどういう意味合いを持つのか。そして「The Moment」とこの後に続くアルバム『DEBUT』について、どのような内容になっているのかを聞いてみたい。

ポジティブであることと
自分自身について歌うことがコンセプト

ーソロメジャーデビューと1stアルバム『DEBUT』のリリースが発表されましたがメジャーという舞台はRyohuさんにとっても感慨深いものがありますか?

Ryohu:割と冷静ですね。今までもメジャーからリリースされる作品に客演として参加してきたし、それこそKANDYTOWNもメジャーですから。メジャーからのリリースということに関しての感動があったというよりも、フィールドをメジャーに移すことで、より多くの人が自分の作品に関わるようになり、そこで自分の音楽がどう広がっていくのかっていうことに対してのワクワクがありましたね。作品がより多くの人に届くだろう、という楽しみがある。それが自分の中でのソロメジャーデビューの意味かもしれません。

ーこれまでRyohuさんは1人で制作されてきたわけですよね。そこに多くの人が介入させて作品を作るというのは何か考えが変化した部分があったんですか?

Ryohu:2017年にEP『Blur』、2018年にMixtape『Ten Twenty』を出しましたけど、自分の考えうるインディーズ的な活動にある意味ひと段落ついたような気持ちがあったんです。『Ten Twenty』の制作後には、もう少し違う展開や作り方をしてもいんじゃないかって考えがあったんですよね。

ソロEP『Blur』について。Ryohuが創造の源泉に持つ思考

ーあ、そうだったんですか?

Ryohu:うん。これまでの作品は1つのパッケージを作ろうとして制作してきたのではなく、過去曲も含めて作品集的な意味合いが強かったので、アルバムというフォーマットにしっかり向き合って制作を行っていきたいという気持ちがあって。それと、今年で僕、30歳になったんですよ。

ー30歳って男にとっては何か心にくるものがあるもんですよね。

Ryohu:20代の頃からずっと考えていたことなんですけど、30代になったら音楽家としても、1人の大人としても、ちゃんと社会の一部としてしっかりしなくてはいけないなって昔から考えていたんです。それに同世代のヤツらも結婚したり子供ができたり、人生の大きなターニングポイントを迎えていて。そんな現状も相まって、自分のソロアルバムをメジャーからリリースすることが自分の気持ちの面でも1番カッコいいことだと思ったんですよ。30代の大人としてのRyohuを見せられるんじゃないかって気持ちの変化があったんです。

ーなるほど。アルバムから先行配信シングル「The Moment」が本日配信となったわけですが、これまでにない明るい曲調とリリックに驚きました。

Ryohu:明るいですよね。「The Moment」もそうなんですが、アルバム全編を通して考えていたコンセプトがポジティブであることと、自分のことについて歌うの2つだったんです。これまでの作品では、より曖昧で叙情的な内容を歌ってきたんですけど、1stアルバムでは明確に自分自身のことを描こうと思って。そこで、シンプルに明るい曲が1つあると良いという話をプロデューサーの冨田恵一さんとも話しながら作っていったんです。自分の意見ややりたいことを冨田さんが吸い上げて解釈しビートを作ってくれました。

聖書からもインスパイアを受け
“今をつかむ”というテーマを描いた

ーリリックにおいては”今”という言葉がたくさん出てきますよね。これも印象的でしたが「The Moment」のリリックをどのように書き上げていったんですか?

Ryohu:上がってきたビートがすごく元気な印象だったので、最初はどうしたらいいんだろうって戸惑ったんですよ。というのも、これまでこういう楽曲に対するリリックを書いたことがなかったので。そこで少し悩みつつ、自分の根本的な部分にある”今に生きる”というキーワードを歌詞にしていこうと考えました。それが究極的にポジティブなことだと思ったので。それと「The Moment」にはクワイアが入っていたこともあって聖書からのインスパイアもありましたね。”今をつかめ”というような意味合いのワードがあるんですけど、そこにだんだんと意識的に引っ張られていく中で、過去、現在、未来を通して瞬間の連続が自分のポジティブに繋がっていけばいいってリリックを書いていったんです。読んでもらえればわかると思うんですけど、とにかく進み続けることが今の僕を形成しているし、みんなもそう生きてくれるといいんじゃないかって内容になっています。あまり悩みすぎずに自分1人の殻に閉じこもりすぎずに、すべてをひっくるめて良い方向に流れていくように、と。

ー先ほど仰っていた自分以外の多くの人が作品に携わるという意味で冨田恵一さん(冨田ラボ)がプロデュースに参加しているというのは大きな意味があると思うのですが、どんな流れで一緒に制作することになったんですか?

Ryohu:2018年に冨田さんが発表した作品『M-P-C “Mentality, Physicality, Computer”』に参加しているんですけど、その制作が自分としてもすごく刺激的だったんですよね。メジャーでアルバムを作ろうとなったときに、1つ自分の背中を押してもらうって意味合いも込めて、アルバムの全体像が見えてくる要素として、冨田さんと一緒にやれたらいいし、楽しそうだなって考えたのがスタートでした。これまで1人でビートを作ってきたし、提供してもらうにしても日頃から近くにいるHIPHOPシーンのアーティストが参加してくれたりしていたんですけど、冨田さんはまた違ったフィールドで活躍されてらっしゃる音楽家じゃないですか。「The Moment」に限らずアルバム全体の制作に言えることですが、自分では出せないカラーが曲に投影され、そこに自分自身についての言葉が乗っかっていくっていうことに新鮮さを感じました。

ーアルバムの制作はどれくらいの期間行われていたんですか?

Ryohu:最終的にレコーディングが終わったのは今年の7月末くらい。「The Moment」に関しては昨年中に完成していて、それ以外にも2、3曲レコーディングしていたんですよ。制作途中の楽曲の作業を進めている中でコロナ禍の状況になったので、スタジオに行けなくなったりとか。同時に自分自身が壁にぶち当たっているタイミングでもあったので思い返せばけっこう長い期間をかけましたね。

ーアルバムの制作途中で緊急事態宣言を受け、現在のwith コロナの時代を迎えたわけですが、現状がアルバムに影響を与えた部分はありましたか?

Ryohu:いえ、そもそもアルバムでは自分自身を書こうと思っていたので内容がコロナに引っ張られるということはありませんでしたね。ただ、単純に自分自身のことをポジティブに描こうとしているのに、世の中が不安や閉塞感でいっぱいになっていたわけなので、そっちに引っ張られないように自分をコントロールしなくちゃいけない点が大変だったかもしれません。実際にコロナについて歌っていると捉えられる楽曲も1曲あるんですけど、それ以外の曲に関しては、コロナ禍に対しての曲は一切入れないようにしました。

ー一方で、PERIMETRONが制作を担当した「The Moment」のMVでは、それぞれ分断された生活風景が描かれていたり、狭い空間における人間の生活が映し出されていたりと、コロナ禍を彷彿させる描写もあるように感じました。

Ryohu:そうですね。MVも制作途中で緊急事態宣言が出たりと時間がかかったんですが、この現状をふまえて、MVにはコロナから影響を受けている部分を少しは入れてもいいんじゃないかと思ったんです。「The Moment」はコロナに関することを歌ったものではないんですけど、今読むと歌詞の内容が捉えようによっては現代にリンクする部分もあるかと。自分には想像も出来ないほどのことがコロナ禍で起きている中で、MVを見てくれた人が少しでも何かを感じて考えてくれることがあればいいと思うんです。

Ryohuはこういう存在なんだってことを
うまく表現できたアルバム『DEBUT』

ー今回の配信シングル「The Moment」を踏まえ、11月25日には1stアルバム『DEBUT』がリリースされるわけですが、今作はRyohuさんが自分自身について表現されている作品となります。ソロメジャーデビューアルバムで自身のことを表現したいと考えたのは、まだRyohuさんのことを知らない幅広い層へ自分をプレゼンしたいという思いがあったからですか?

Ryohu:もちろんメジャーというフィールドからのリリースは意識していた部分は少なからずあるし、多くの人に届けられるだろうという考えはあるんですけど、だからと言って、大勢に届けることだけを考えて制作してしまったら本末転倒というか。というよりも、それを踏まえたうえで今、自分が作りたい音楽を表現したという感じです。1stアルバムだからこそできることもありましたしね。大人としてしっかりとやろうって気概はありつつ、Ryohuというアーティストはこういう存在だってことを、自分の足元を見失わないようにうまく表現できたのが今回のアルバムだと思っています。本当にメジャーだからってことはそんなに意識せず作ったんですよ。「メジャーシーンの中でRyohuっていう存在があってもいいよね」って具合に。

ーなるほど。アルバム、非常に楽しみです。今後Ryohuさんはどのようなことを行なっていくかについて、最後に教えてください。

Ryohu:まずはアルバム『DEBUT』に寄り添いつつ、この作品を多くの人に聴いてもらうのが次のミッションだと思っています。そこに向けて、僕も今一度楽しもうって気持ちを持ってやっていこうと思っています。先のことはわからないけど、変わらず色んな人と曲を作るってことはやり続けることだろうし、また何か作りたい音楽が自分の中で思い浮かべば、新たな制作活動に向かっていくでしょうし。あとはプライベートも楽しみつつ、落ち込まないようにしたいと思います。ま、落ち込むことなんてそんなにないんですけどね(笑)。

INFORMATION

Ryohu 「The Moment」

https://www.ryohu.com/
https://www.instagram.com/ryohu_tokyo/
https://twitter.com/ryohu_tokyo
https://www.youtube.com/c/ryohu

1stアルバム『DEBUT』11月25日リリース

「The Moment」

『DEBUT』初回盤

『DEBUT』通常盤

POPULAR