ライブハウスやクラブにお客さんを動員した“生(ライブ)”が体感しにくい時代を迎えた2020年——それは2021年に入ってもなお続いている。そのなかで音楽アーティストたちは各々、様々な形で自らを表現している。時代を踏まえた作品のリリースも多く、そんな作品を“コロナ禍における”という共通認識のもとで体験できるのも今だけのことだ。
たしかに従来通りのライブやフェス、イベントに遊びに行けないのは寂しさもあろうが、普段、ライブやツアーを行い続けているミュージシャンが、趣向を凝らしたイベントを展開し、これまでになかった面白さを伝えてくれるというのは、今だからこそだろうし、その新たな表現を存分に楽しむことが必要ではないだろうか。
特集“PROG.ACT”では、この時代に自分たちらしく躍進を続け、新たな表現を提示する音楽アーティストの行動や作品に注目する。
第2回はROTH BART BARON。全国ツアー全公演を有観客+有料配信をするためのクラウドファンディングやポップアップ&エキシビジョン、美術館でのワークショップ、そしてMV公募企画まで。7月にはドラム・中原鉄也の脱退があり三船雅也単体となったものの、10月には5thアルバム『極彩色の祝祭』を発表、これが傑作。といったようにコロナ禍においてもポジティブに活動を前進させている、その思いのうちを三船に聞く。
ー2020年を振り返って、いかがでしたか。
コロナ禍が起きた直後は、恐怖心に巻き込まれないように冷静になって自分の心を落ち着かせたり、周りの人を安心させたりすることが多かったですね。最初は起こっていること自体がどういうものかわからないから、ウイルスのこと、それに振り回される人々について積極的に知ろうとしていました。一方で手触り感のある身近な視点では、なるべく根拠のない噂にとらわれることのないよう、自分の見たものを、感じたことを信用するようとしていました。これから先1年か2年かはわからないけど、自分が戦うべきものに向き合っていた気がします。
ー戦うべきものとは。
単純にウイルスと向き合うのもそうだし、ライフスタイルを変えていかなければいけない。ライブ公演をすることが生きがいだったり商いだったりするけれど、それができなくなった。密集した状態で、忘れられない体験を生み出すのが僕たちのしてきたことだったから、それが一旦解散となっちゃって次はどうしようと。いろいろみんな変わったと思うんですけど、僕らって大きく変わらないといけない仕事だったんですよ。まずそこに向き合っていました。
ー今、「商い」という言葉も出てきましたが、7月に新代田FEVERで行った公演では、「限定30名/チケット10,000円+無料生配信」という試みを行っていて、その瞬発力と挑戦には感嘆しました。「カスタムオーダーバンドTシャツとライブ音源、配信ライブ映像のダウンロードコード付き」という特典を付けたとはいえ、収容人数を減らした分、チケット代を上げるという行為は、できそうでなかなかできない。
大きな循環をつくらないといけない、ということはイメージとしてありました。そのチケット代を払うだけの体験価値をつくるために、シルクスクリーンで手作りしたTシャツだったり、その日だけしか手に入らないものを用意して、心に傷を柔らかく残すことができれば、値段を超越したところにいけるんじゃないかと思った。ライブという体験価値が3,500円である必要があるのか、CDが3,000円である必要があるのかというのはずっと疑問に思っていたことだったし。
そのアイデアをリスナーのみんなが共有してくれるかまではわからなかったけれど、いまの世界で挑戦しないでどうするんだって気持ちになったんですよね。結果、すぐにソールドアウトできた。バンドとしても、ずっとパートナーだった中原がそこで辞めちゃって、新しい編成を見せるタイミングでもあったんですけど、ネガティブな世界のなかでも僕たちが提示する新しい未来を見せたかった。
ー行政のガイドラインを遵守した公演が続きますが、ライブをする際に気をつけていることはどういったことですか?
向こう見ずなライブにならないようにというのは気をつけていますね。人によって距離感も違うので、お客さんにストレスを感じさせないように、密集をあえてコントロールできるようにというか。それが結果、その人たちを守ることになる。最近では、配信のカメラを通してパソコン越しに見ている人たちの空気感もなんとなく意識しながら演奏できている。その経験値はかなり上がっている気がします。
ー全国ツアーに向けたクラウドファウンディングでは、目標額500万円に対して450万円以上が集まりました。これまでにもROTH BART BARONとしてクラウドファウンディングは行ってきましたが、その可能性とは。
僕たちの実現したいビジョンがしっかり見えていて、それを共有した結果、参加した人も参加していない人も未来がよくなる、ということを見出せたときにはじめてクラウドファウンディングを考える。今回の場合だと、全国ツアー14公演すべてを配信するというバンドは現状いなかったけれど、単発公演だけ配信しても意味がないというか。このウイルスの問題は、歴史から見ると3年はかかるだろうってことだから、そう考えると3年向き合うなかで単発配信だけしても結局は先がない。テクノロジーの限界で、配信だとその場の空気感とか匂いまではわからないといったマイナス点はあるんですけど、いま僕たちが持っている技術と能力で、安全なところからストレスなく配信ライブが見られる環境をちゃんと提供することが大事。この先、コロナが収束しても、フィジカルなギグと配信のハイブリットは可能性が開いていくと思っていて。いままでは会場にいる人のために演奏していたけど、インターネットでつながる先のすべての人たちのことを考えてギグを構築できれば、音楽で新しい体験を作ることができるんじゃないかって。そういった未来をお客さんと一緒に共有してつくるというビジョンがあれば結構大丈夫な気がしています。こういうときこそ音楽が必要だから。
ー10月には秋川渓谷自然人村キャンプ場でファン20名がプロデュースするライブ企画『The CAMPFIRE』を開催したり、11月には金沢21世紀美術館で高校生を対象にしたワークショップを行ったりと、さまざまな試みをしてきましたが、特に印象的だった現場は?
2020年は毎回、命がけ感があった(笑)。もう今日で最後かもしれないと思いながら演奏していた実感があって、どの公演も、すごく特別なものに感じていました。金沢でのワークショップは、参加した高校生と一緒に一曲を作曲するというものだったんですけど、自分としてもそういったことは初めてだったので、特別な時間でしたね。音楽とともにキラキラとしている彼らを見ると、希望がそこにあるなって感じられた。2020年は悲しいこともたくさんあったけど、そういった小さい希望にはたくさん出会えた気がします。
金沢21世紀美術館での作曲ワークショップに参加した高校生たちとの一枚。
ー「もう今日で最後かも」という状況が続くのは、ストレスフルな気もしますが……。
そうですね。ないと言えば嘘ですけど、ストレスのマネジメントは意識的にしていました。対処できない自然に対して、それを受け入れてどう生きていくのか。自分にできないことはなるべく考えないで、自分がちょっと背伸びして限界を超えた先にできることを考えていた。最悪のケースは起きないのを前提に生きるのは得意だけど、それでも起きることは起きるから。元々、楽観的なところがあるからか、どちらかというとへこんでいる人を励ますことが多かったですね。
ー11月には初となるポップアップ&エキシビジョンも開催しました。
バンドの世界観とじっくりコミュニケーションできる空間を作りたかった。その空間を共有できるのもひとつの音楽体験というか、デジタルでつながれるレイヤーもある世界で、フィジカルでしか感じられない空間があるというのは、対極だけど同じところに帰結するというか。同じ空間を共有すること、それこそが根幹でそれを増幅させるためのデジタルツールだと思うので。
ーこのポップアップでは、ご自身が手がけたアートワークの展示のほか、自らブリーチ&ペイントした、すべて一点もののグッズも販売していました。
ロックダウンがあってライブできなくなったときに、そこに少なからずストレスを感じて、そういったアウトプットが出てきちゃったのかもしれないけど、今後ライブに来る人って少なくなるだろうし、その特別な瞬間を自分だけの特別な記憶として持ち帰られるのは何だろうって考えたときに、僕がひとつひとつハンドメイドでつくったもので伝えられないかなと思って。シルクプリントしたりブリーチしたり、PALACE(バンド・コミュニティ)のグッズ制作を手伝ってくれている子たちと制作をしていました。なんか衝動的に生産のエンジンが回っちゃったんでしょうね(笑)。取り繕って、誰が着ても同じような雰囲気になる流行りの服より、その人自身が選んだものを着てほしいなって。
ー現在、MV公募企画『LOUD COLOR(S) FESTIVAL』が行われています。
いまって、映像もタダ同然で消費されている世界だと思うんですね。タイムラインで流れてくる面白い映像に何千いいねとかついていても翌日誰も覚えてない世界じゃないですか。だったらちゃんと作品として残るような、祝祭というかフェスティバルがつくれないだろうかと思ったんです。それを、さっき話したフィジカルとは違うデジタルのレイヤーでできたら楽しいなと思って始めちゃいました。うまくいくかは、いま一番ドキドキしています(笑)。
ーいまの時代における、自分らしい音楽表現とは。
その人の人生観が変わる音楽体験を、一緒になって生み出していくことですね。『極彩色の祝祭』のテーマは“祝祭”ですけど、人が集まって何かを讃えたり祝ったりして、ひとつの物語をつくっていくというか、忘れられない瞬間をつくっていく。グレイトリセットが起きた後、ニューノーマルと言われる時代に何が新しい祝祭なのかというのをバンドとしては常に志向していきたい。人が集まれない時代、祝祭なき時代に何を祝祭とするのか。過去を尊敬しつつも新しいテクノロジーも取り入れて、突然変異を生み出していく。それに尽きるのかなって。いままで誰も気づかなかった需要なき需要、みんなが心に持っていたけど認識してなかった扉を再定義して開けていくということをしていきたいですね。
ーそれを踏まえて、2021年の展望を聞かせてください。
言っても長期戦なので……
ー長期戦だと構えている人は意外に少ないと感じています。「早く終わってくれ」みたいな。
そうですよね(笑)。明けないくらいの気持ちでいたほうがいいと思います。ずっと向き合っていく世界を考えつつ、そんななかで新しいことをどう増幅して生み出していくか、ミュージシャンとして音楽体験をどうリスナーにつくっていくか。でも幸い、いまはテクノロジーが進化していて、10年前にみんながこんなにスマホ見ているなんて思ってなかったのに、こんなに価値観が変わってCDだって買わない世界になったじゃないですか。それくらい人間の進化のスピードは速いし、それが可能性だと思う。そのスピード感と長期的に構える長い目線を両方持ちえながら、ミュージシャンとしてクリエイティブを絶やさずに。自分一人だけじゃ絶対にできないことだから、日本も海外も、みんなを少しずつゆるくつないでいって、いろんなことがグーーッて変わっていくことをひとつひとつ、つくっていきたい。大きすぎる夢なんですけど、その大志は心にずっと持ちながら表現していきたいですね。
ーゆるくつながる、くらいがいいですね。
そう、気負わずに。自分の大切なものを生かしながらバランスよくつながっていける世界みたいなものを音楽でつくれないかなって。それが音楽の強みだし、飛び越えていけるから。新しい扉はいっぱい開いている気がしていて、その扉を開けていくことを絶やさずにいたいなって思います。誤解を恐れずに言えば、子供の頃に台風で学校が休みになるときにワクワクするみたいな感覚をどこか持っていたほうがいいというか。大人は慌てふためいているけど俺の時間だ! みたいなワクワク感って大切だと思っていて。そのワクワクはこういう世界でもタフに生きていける心構えだと思うし、それを大事にしていたいですね。
INFORMATION
『LOUD COLOR(S) FESTIVAL』
ROTH BART BARON〜Music Video Award〜
[応募内容]
『極彩色の祝祭』より全編に映像をつけミュージックビデオを完成させてください。対象の楽曲は特設サイトのSoundCloudよりダウンロードいただくことができます。
[応募対象]
プロ・アマ問わず自作かつ応募前に公開していない映像作品。海外在住の方もご応募いただけます。
[募集期限]
2020年1月18日(月)23:59まで。
■スペースシャワーTV YouTubeチャンネルにて品評会『LOUD COLOR(S) FESTIVAL』開催
2021年1月26日(火)20:00より生配信
https://youtu.be/htuDuzcl8QI
司会:三原勇希
出席者:三船雅也(ROTH BART BARON) / 菱川勢一(DRAWING AND MANUAL) / 丸山雄大 / 大平彩華 / 冠木佐和子(オンライン出演予定)
ROTH BART BARON Tour 2020-2021『極彩色の祝祭』
〜延期公演〜 振替公演日は決定次第発表
2021年1月16日(土)愛知・名古屋 The Bottom Line
2021年1月21日(木)福岡・百年蔵
2021年1月22日(金)福岡・the Voodoo Lounge
2021年1月23日(土)熊本・早川倉庫
2021年2月06日(土)石川・金沢 ARTGUMMI – Guest Act:noid –
2021年2月07日(日)富山・高岡市生涯学習センター1F リトルウィング
〜チケット発売中〜
2021年2月13日(土)大阪・梅田 Shangri-La
2021年2月20日(土)北海道・札幌 モエレ沼公園 ガラスのピラミッド
2021年2月21日(日)北海道・札幌 Sound Lab mole
2021年2月23日(火)宮城・仙台 Rensa
2021年2月27日(土)東京・恵比寿 LIQUIDROOM
rothbartbaron.com