CULTURE 2021.01.22

橙 [dai-dai]as photographed by TAIGA NAKANO
vol.05 朝井リョウ

Styling― RIKU OSHIMA Hair&Make—Yuki Omori Edit─Shu Nissen
EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部

vol.05 朝井リョウ / 小説家

平成という時代は、どんな色をしていただろう。
俳優 仲野太賀がカメラを構え、平成に生まれた表現者たちの素顔と向き合う。

橙[dai-dai] vol.00 太賀
橙[dai-dai] vol.01 池松壮亮
橙 [dai-dai] vol.02 菅原小春
橙 [dai-dai] vol.EX KID FRESINO
橙 [dai-dai] vol.03 折坂悠太
橙 [dai-dai] vol.04 シム・ウンギョン
橙 [dai-dai] vol.08 若葉竜也

世の中の出来事や感情に
足りない言葉を当てはめていく

仲野太賀:僕らの出会いは、映画『桐島、部活やめるってよ』ですね。

朝井リョウ:公開した日にみんなで映画館に観に行きましたよね。太賀さんはその時たしか左隣にいらっしゃいました。みんな5、6歳くらい年下だったので、私は引率の先生みたいな気持ちでしたね。

仲野太賀:あれはエモかったですね〜。後にも先にも原作者の方と一緒に上映初日に見ることってないですよ。

朝井リョウ:映画が終わった後に太賀さんが感極まった状態で握手してくれたことをすごく覚えています。ひと懐っこくて、距離感を詰めるのが上手な方だなと感じました。私はそういうのが上手くできないので、羨ましく思いましたよ。とにかく、8年越しに会えて嬉しいです。

仲野太賀:僕もめちゃくちゃ嬉しいです。あの当時って朝井さん何歳だったんですか。

朝井リョウ:会社員一年目だったので22歳くらいですね。もう8年以上前って恐ろしいね。

仲野太賀:撮影の時は僕まだ未成年でしたし、本当にあの頃は何者でもなかったというか、今でも大したことはないですけど。あの作品が完成して一緒に映画を見たときに、すごく報われた気がしたんですよね。学園モノで、これまでの日本映画にない新しい切り口ながら、ちゃんと一般のお客さんにも届いたなという実感があの瞬間すごくありました。

朝井リョウ:そう言っていただけて、今でも新鮮に嬉しいです。

仲野太賀:みんなであれやったの覚えてます?

朝井リョウ:私携帯を変えてないから当時の写真もあるんですよ、覚えてます。

仲野太賀:みんなで腕に”桐島最高”って書いて街を闊歩するっていう(笑)

朝井リョウ:若い! 恥ずかしい! 日テレで企画をしてくれた枝見さんという女性も確か当時25、6歳で、初めてちゃんと担当した作品が公開されたって感じで、全員気持ちが高まっていましたよね。

仲野太賀:今思うと、とんでもなく若いチームでしたね。

朝井リョウ:ほんとに。私の当時の担当編集者が枝見さんと大学の同級生だったんですよ。だからその人も20代半ば。枝見さんとは学生時代に、「いつか私が担当した本で枝見が映画を作るなんてことがあったらいいね」って話していたそうですよ。

仲野太賀:え!それ全く知らなかったです。

朝井リョウ:びっくりですよね。原作者として何より嬉しいのは、キャストのみなさんが今でも大活躍されていること。太賀さんもずっと活躍されてて、こうしてまた巡り会えて嬉しいです。

仲野太賀:朝井さんのその後の大活躍も知ってますよ。

朝井リョウ:私はラッキー続きなので怖いですけど、人生で初めての映像化があんなに良い経験で大丈夫かな、とは思い続けています。吉田大八監督とも連絡を取っていますよ。二人で会って何時間も話せる数少ない人だと思っています、監督のこと。ハロプロのコンサートに行ったら隣の席が松岡茉優さんだったりするし、この前は浅香航大さんとも再会しました。太賀さんは、私が作家の友人と飲んでいて、その二次会にいらっしゃいまいたよね。私は一次会で帰ったので入れ替わりだったんですけど、本当に縁を感じています。

仲野太賀:よかったです。たぐり寄せるように縁があって(笑)。送っていただいた『どうしても生きてる』も読ませていただきました。感動しました!

朝井リョウ:まさか読んでいただけてるとは思ってなかったので、すごくびっくりしました。

仲野太賀:『桐島、部活やめるってよ』のように人間関係を鋭い感度で描く人が、今の日本の空気感として”生きづらさ”にフォーカスを当てなければいけなかった。そんな時代であることを実感して、とても胸が痛かったです。でも最後は救われましたし、同じ気持ちの人がたくさんいると思います。

朝井リョウ:ありがとうございます。俳優さんは与えられた言葉を表現する職業で、自分の言葉を外に出すことが難しかったり、望まれていなかったりするじゃないですか。私の小説を受け取って感想をしっかり伝えてくれるような方が、自分の言葉をあまり出せない場所にいるのは、時に大変なことなんじゃないかな?なんて思います。

仲野太賀:人の言葉を借りてセリフで表現する仕事をしているからこそ、一緒に組む作家が”何を言ってくれるか”、”そこに乗れるか”、みたいな選び方になってきています。近年は特にそうしていますね。なんでもやる訳ではなくて、”社会に対してこういう作品を出したい”って想いのある作家や監督と組みたいと思いますし、それができれば、自分なりに言いたいことを言えている形になるというか。

朝井リョウ:なるほど。そこの巡り合わせはすごく大事ですよね。

仲野太賀:『どうしても生きてる』に書かれていたような生きることの苦しみは、日々感じ続けてきたものなんですか。

朝井リョウ:小説と実人生の関係を説明するのはなかなか難しいのですが、私の場合、日々の中で考えていることが小説の種になっているんです。だから、私を主語として感じ続けてきたものが小説になっているというよりは、日々暮らす中で触れてきたものすべてが手を繋ぎ合って何かしらの感情を生み出していて、それに当てはまる言葉を探すみたいな感覚なんですね。私は常日頃、世の中の感情や現象に対して言葉の方が圧倒的に少ないと思っていて、選択肢が足りないから色んな組み合わせを試している、みたいな感じです。その連なりで文章が生まれていくというか。

仲野太賀:好きって気持ち一つにしても、この言葉では伝わらない、伝わりきらないことってありますもんね。

朝井リョウ:そうそう。だからどの作品を書いても、結局「この言葉に無理やり収めてしまったな」という取りこぼしがあって、その取りこぼしを掬いとるためにまた新しい作品を書くんです。今は、あまり”物語を考えるぞ”って感じでパソコンに向かうことはないかもしれません。それこそ「桐島~」を書いていたころは“面白いストーリーを作るぞ!”という気持ちがあったんですけど、10年くらい経って、そのエンジンでは走れなくなってきたというか。宮崎駿監督の『風立ちぬ』の中に「創造的人生の持ち時間は10年だ」というセリフがあったんですけど、それが頭の中にすごく残っていて。あ、太賀さんはもっと長く活動されてるか。

仲野太賀:15年目とかなんですけど、僕は全く評価されなかった時代が長かったので、どんなに熱量を持ってやっても誰にも見てもらえなくて、もうだめだって思った時が10年目でした。自分の為だけにやっていた頃はすごく難しかったですね。でもこの仕事って、100人とかで一つのものを作っていく作業なので、誰かの横顔からガソリンをもらうというか。自分より辛い顔してるやつがいる、頑張ろうとしてるやつがいる環境だったので、なんとかそれでやっていけました。

朝井リョウ:すごく視野が広い! さっきおっしゃっていた評価されていない時期って無音じゃないですか? 紙の本って今、本当に反響が少なくて。

仲野太賀:無音ですね(笑)

朝井リョウ:何かを世に放ったとて、音が…しない!みたいな。それが辛い時が結構あるんですけど、西加奈子さんが直木賞を受賞された時のスピーチで、「小説家というのは無音です。無音の中で全員が自分のトンネルを掘り続けている。だから、耳をすませば、誰かが自分のトンネルを掘っている音は聞こえる気がする。その音を頼りに書いていくと思います」と話されていたんです。チームでものを作るわけではない作業なので、私も誰かがトンネルを掘る音を頼りにしようと思いました。

仲野太賀:すげえ〜!!

朝井リョウ:素敵なスピーチですよねえ。

仲野太賀:そういう同志みたいな人が居ると心強いですよね。

朝井リョウ:そうそう。でもそう思えるようになったのも、本当にここ最近なんですよね。同業者の人たちが同志と思うには忍びないくらい先輩で、かつ年上すぎて。

仲野太賀:圧倒的に若かったですもんね。

朝井リョウ:私の場合、なんていうか、仕事の悩みがあったとしても本当に恵まれた悩みなんですよね、特に同業者からすると。「もう直木賞とってるんだからいいじゃん」みたいなね。30歳でキャリア10年、みたいな人となかなか出会えてなかったんですけど、最近、他のジャンルにはそういう人がいっぱいいることにやっと気づきまして。写真家の奥山由之さんや劇作家の根本宗子さんと話すようになって、すごく楽になったんです。それこそ太賀さんとこうしてまた出会えたこともそう。同じような悩みを持っている人はいっぱい居るんだと思えて、心が軽くなりました。

仲野太賀:嬉しい。こうやって8年越しに会えて良かったです。

朝井リョウ:1回目のターンみたいな感じですよね。みんな頑張り続けてたら、30歳前後でまた巡り合えたというか。これから先も巡り合い続けたいです。そういうときに堂々と顔を合わせられる人でいたいですね。「朝井さん最近コメンテーターばっかりやってるな」って思われないようにしよう。

仲野太賀:僕たちって仕事の状況がどんなことになってるかどうしても分かっちゃいますもんね。そんな未来にならないためにも頑張ってやっていきたいですね(笑)。

朝井リョウ:本当に。自分は、自分で思っていたよりももっと仲間が欲しかったんだなと急に思いました。今日はエネルギーをいただけました!

仲野太賀:僕もすごく力をもらえました。ありがとうございました。

セットアップ¥130,000、中に着たニット¥49,000/ともにCOMOLI(WAG inc Tel_03-5791-1501) シャツ¥24,000/BAGUTTA MAIN ネクタイ¥22,000/JUPE 1 ローファー¥36,000/IL MOCASSINO(すべてTOMORROWLAND Tel_03-5456-1063)

朝井リョウ

平成元年、岐阜県生まれ。2010年『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2013年『何者』で第148回直木賞を、2014年『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞を受賞。近年の作品に『どうしても生きてる』(幻冬舎)、作家生活10周年記念作品『スター』(朝日新聞出版)などがある。


仲野太賀

平成5年生まれ、東京都出身。13歳で俳優デビュー。カメラに魅了されたのは小学生の頃。主演映画『泣く子はいねぇが』が公開中。
https://www.stardust.co.jp/section1/profile/nakanotaiga.html

橙 [dai-dai]as photographed by TAIGA vol.00 太賀

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