『Amazon Original HEAT』(以下、HEAT)。各シーンで活躍する20人のキュレーターが、20組のアーティストをピックアップし、新たな楽曲とMVがAmazon Musicで公開されていくプロジェクトだ。
本連載では、キュレーターと選出されたアーティストとの対談を行い、HEATがどのような内容なのか、まだキュレーターがどのような思いでアーティストを選び、アーティストはそれにどう応じるのかをお届けする。
第13回目はHIPHOPイベント『BEATCHILD』をオーガナイズする19歳、Hyoriと、同イベントにも出演するラッパー、AOTO。ユースの現場で最先端のシーンを構築する両者の繋がりと考え方について。
Curator_Hyori, Artist_AOTO (L to R)
理解と共感を感じる音楽を広めていきたい
ーAOTOさんは2回目の『BEATCHILD』に出演されているんですよね。出会いというと、その辺りになりますか?
Hyori:いえ、もっと前なんですよ。
AOTO:そうだよね。多分だけど、オレが誰にも知られていないくらいの頃に「midrunner」って曲をストーリーだかに上げてくれてフォローしてくれたんだよね。そのときは直接的なやりとりがあったわけじゃないんだけど。その後に初回の『BEATCHILD』でHyoriのDJタイムにショートライブをして、2回目でガッツリ呼んでくれてっていう、それが最初だったよね?
ー当時からHyoriさんがAOTOさんをチェックしていたということですか?
Hyori:そうですね。そのときに付き合っていた子とAOTOくんの曲がいいって話になったんです(笑)。
AOTO:それ、めっちゃいいね(笑)。
Hyori:1回目の『BEATCHILD』は招待したのかなんだったのか……。流れでライブやってもらうことになったんですよね。でも、初回の1発目のDJタイムで入場の時間だったから『BEATCHILD』の世界観がまったく確立されていないところでいきなりライブしてもらってっていう。僕がオープニングDJをしていたんですけど、自分も駆け出しで下手だし、お客さんも何が何だかわかっていない雰囲気があって面白かったんですよ。もう1年9ヶ月くらい前ですね。
AOTO:そうだったね。あのときのことはめっちゃ覚えてて。当時の自分はライブにそんなに呼んでもらえていなかったし聴いてくれる人もいない状況だったんだけど、それがいきなりハーレムの舞台で意味がわからなかったですね。(ハーレムが)でかっ! ってなりました。何なら初めてラッパーを観るっていう人も多かっただろうし、どう盛り上げていいのかわからないというか。けっこう緊張した記憶があります。
ー当時、AOTOさんはあまりライブ経験がない状態だったんですか?
AOTO:学校で友達がイベントをやっていてそれに出たりっていうのはあったんですけど、ハーレムのような大きなハコで自分のことを知らないお客さんの前でやるのは初めてでした。
ーそもそもなんですが、AOTOさんが音楽を始めたのはどういうきっかけがあったんですか?
AOTO:2016~2018年頃はダンスをやっていて、ミーゴスとか21サヴェージやコダック・ブラックだとか、そこら辺のトラップ全盛期に踊ってたんですよ。そんなときに今、日本語ラップシーンの先頭を歩いている人たちが出てきて、その表現方法に衝撃を受けてHIPHOPを始めた気がしますね。だから、遊びの延長線上にある感覚ですよ。友達は映像に興味を持ってビジュアル制作を始めたりだとか。いわゆるギャングスタ然とした人生は歩んでいないですし、ローカリズムを重視して地元をレペゼンしながら活動をしているってわけではなくて、友達がいるところに遊びに行くみたいな感じなので、本当に好きな音でやるだけというか。明日にはトラップをやっているかもしれないし、あまりこだわりがないのがこだわりって感じです。
ーHyoriさんは、どういうスタイルの音楽に魅力を感じますか?
Hyori:僕はいかにもギャングスタって感じのHIPHOPではなくて、どこか知的な要素が込められた音楽が好きなんですよ。それに、やっぱり日本で生きている以上、日本語のリリックで、ちゃんと理解できて、しっかり共感できることが大事だと思っているんですよね。そういう音楽にこそ輝いてほしいし広めたいと思うんです。
自分らしいスタイルが反映された曲“ロミジュリ”
ーそれがAOTOさんに当てはまったから、今回のHEATでもピックアップしたんですね。
Hyori:そうですね。あと、AOTOくんのことを知ったのは2年前くらいでしたけど、当時からサブスクを使って全方位的に発信していたし、アートワークの世界観もしっかりとしていて、そこがいいと思ったんです。ちゃんと自分から広めようとしている姿勢が伝わってくる気がして、そういう意志を持って活動しているラッパーが好きなんです。僕は話し慣れていない人にしゃべりかけるのがあまりできないタイプなんですけど、AOTOくんはどこか引き寄せられるというか、無意識的にみんなに注目してほしいと感じる人なんですよ。
AOTO:そう感じてくれたのは本当に嬉しいな。僕はHIPHOPという土俵の中では色物に見えるかもしれないんですけど、でも、きっと自分みたいなヤツばかりなんじゃないかと思うんですよ。つまり、バックボーンもなくて悪いこともしていなくて、だけど自分の生活スタイルだけでお金を稼ぎたいと考えていたりするっていう。自分が嘘偽りなく思ったことを描いた歌詞の中にあるのと同じ生活をしている人は多いんじゃないか? って気持ちがあったから、より大きなプラットフォームを使って、わかりやすく発信していこうっていうのは意識していました。
ーそういったわかりやすさは、今回の楽曲にも表れていると感じます。タイトルは何て読むんですか?
AOTO:「ROMEJULI」でロミジュリですね。『ロミオとジュリエット』から取って、訳したらチャラくね? みたいな。もともと原曲は出来ていて自分らしいスタイルの曲です。HEATに参加している他のメンツもザ・HIPHOPというより自分のスタイルを貫いている人が多かったので、この曲を選びました。
ー『ロミオとジュリエット』から来ているってことは、そういう恋愛を歌った曲なんですか?
AOTO:僕はあまりタイトルに興味がないので、今までの曲もそうなんですけど、周りの人に「どういう曲だと思う?」って聞いて、そこで決めちゃうことが多いんですよ。かなりキャッチーな曲なのでロミジュリでいいんじゃねって。
Hyori:この曲はすでにライブで観て聴いていて、すごく好きな曲だったんですよ。だけど、今回リリースされる曲だとは知らなくて。まさに、僕が聴きたいAOTOくんの曲がHEATで発表されるとは思ってもみなかったんでビックリしました。すごく好きです、この曲。
魂を削って生み出したものをカルチャーに還元させるのは楽しいこと
ー2人で今後一緒になることとして、やはりHyoriさんのイベントにAOTOさんが出演し続けるということが考えられると思います。3月3日には2周年記念としてZepp Yokohamaで『BEATCHILD』が開催されますけど、そこに対して思うことはありますか?
Hyori:個人的にはZeppで、やっとスタートだなとは思っているんです。HIPHOPシーンに特化して考えればZeppって場所は驚かれるかもしれないですけど、世間ではやっと認められるくらいの規模感だと思うんですよね。そう考えると、ここからどう進めるかっていうスタート地点はここなんだと思います。ここに至るまで、徐々に規模が大きくなるにつれて、ただのHIPHOPイベントってだけではなくて、『BEATCHILD』自体が表現の一部なんだって気づき始めてきたんです。HIPHOPイベントはたくさんありますけど、僕は音楽だけではなくアートなど他カルチャーのこともインプットをしながら『BEATCHILD』をオーガナイズしているので、自分がイベントで成功するのとそうでない場合を想像すると、どっちの方が業界にとってメリットがあるのか、そこを考えると譲れないですね。当然、続けていく中では楽しいことだけではなくて難しさも多々あるんですけど、自分自身の体力や魂を削って何かを生み出し、それをカルチャーに還元していくっていうのは楽しいことだし、そういうことをやっている人を見ると気分が上がるので、是非Zepp以降も注目しててほしいと思いますね。
AOTO:僕としても『BEATCHILD』はすごく思い入れがあるんですよ。Hyoriの色が出続けているイベントだし、スタートして2年でZepp開催に到達して、そこに自分の好きな人たちを呼んでイベントが出来るっていうのは、すごくHIPHOPだと思いますね。フライヤーやグッズ、その販売方法まで見ても、本当にクリエイターとしての面を感じます。細かいところまできっちりと考えながらやっているので、こっちも気が引き締まるというか。Hyoriが見てきたものをこだわりとしてイベントに反映させている部分は理解しているつもりなので、頑張ってほしいと思います。
ーちなみに、HEATの他ラインナップで気になった組み合わせはいますか?
AOTO:僕は知り合いっていうのもあるんですけど、JUMADIBAくんですね。しかもMEGUMIさんがキュレーターっていうのが驚いて。この連載での対談記事もめっちゃ楽しみにしていますよ!
Hyori:僕もJUMADIBAくんが好きで楽しみです。めちゃくちゃカッコいいですよね。そう言えば、AOTOくんもフットボールネタ好きですよね?
AOTO:そうだね。僕らの周りにはサッカーをやっていたりとか、好きな人が多いんですよ。
Hyori:僕、今後やりたいことがあるんですよ。BEATCHILD企画でフットサル大会。アーティスト10人集めて5対5とか面白そうじゃないですか?
AOTO:面白そう……だけど、アーティスト同士だと対峙したときにめちゃくちゃ気を使うよ(笑)。
一同:(笑)。
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Amazon Original HEAT連載 ARCHIVES
Amazon Original HEAT Vol.12 連載HEATという音楽現象を追う:山田岳彦×村松遼(BOARD)
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