MUSIC 2022.12.09

Amazon Original HEAT Vol.09 連載HEATという音楽現象を追う:YATT

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Photograph_Matsushima Toyohiro, Edit&Text_Ryo Tajima[DMRT]

『Amazon Original HEAT』(以下、HEAT)。各シーンで活躍する20人のキュレーターが、20組のアーティストをピックアップし、新たな楽曲とMVがAmazon Musicで公開されていくプロジェクトだ。
本連載では、キュレーターと選出されたアーティストとの対談を行い、HEATがどのような内容なのか、まだキュレーターがどのような思いでアーティストを選び、アーティストはそれにどう応じるのかをお届けする。
連載第9回目。
YOSHIROTTENがキュレーションしたのは、自らとTAKAKAHNによる音楽ユニット、YATT。現在、初となるアルバムの制作段階にあり、HEATでの楽曲は本作の導入を示す楽曲とも考えることができる。YATTが、これまでどんな活動を行ない、HEATを経て2023年にどのようなアクションを取ろうと考えているのかを聞いた。

Curator_ YOSHIROTTEN, Artist_YATT(TAKAKAHN, YOSHIROTTEN)

1番聴きたいものはTAKAKAHNがYATTで表現する音楽だった

ーYOSHIROTTENさんがキュレーションしたアーティストは、自身がメンバーでもあるYATTになります。この理由について教えていただけますか?

YOSHIROTTEN:キュレーターのお話をいただいたときに、HEATについて『インディーズで活動しているアーティストの新曲とMVをリリースしていくプロジェクト』という内容を説明してもらいました。これを自分なりに咀嚼して考えて、誰が作った音楽を1番聴きたいのかを突き詰めていくと、TAKAKAHNがYATTとして発信する音楽を聴きたい、という思いに辿りついたんです。自分が参加しているユニットをキュレーションするという意味ではちょっと特殊なケースかもしれませんが、Amazonチームに相談したら快諾してくれて、このような形になりました。

ーYATTという音楽ユニットについて改めて教えてください。各々の役割は何ですか?

YOSHIROTTEN:僕がビジュアルとストーリーを考えて、それに対する音作りをTAKAKAHNが担当しています。各々の表現を突き合わせて音楽を作っています。

ーYATTがスタートしてから約18年ほどが経ちます。ここに至るまでの活動について振り返っていただけますか?

YOSHIROTTEN:YATTとしての活動をスタートさせた頃はDJとしての活動がメインで、新宿の風林会館のキャバレー跡地などで『LINDA』というイベントを主宰していました。活動の中で、2枚のMIX CDをリリースし、全国ツアーを回ったり大型音楽フェスにも出演して。そんな風に大きく活動をしていたのが、僕らが20代中頃から後半にかけてのことです。その後、TAKAKAHNは本格的に音楽制作の道へ進み、僕はデザインの世界へ進んで活動をペースを一気に減らしていったんです。

ーでは、約10年ほど活動が沈着化していたことになりますか?

YOSHIROTTEN:そのように見えると思うんですが、僕の個展や仕事などで、音が必要になる機会があったときには、いつもTAKAKAHNが音楽を制作してくれていたんですよ。YATTと謳ってはいなくとも、形を変えて一緒に音とビジュアルを表現する、ということをやり続けてきたんです。それで、そろそろアルバムを作ろうよって話し合いをしたのが2018年くらいですね。今もアルバム制作中の状態です。

TAKAKAHN:そうだね。育むように制作しています。

ー直近のリリースを振り返ると、2020年にP.A.Mの特設サイトで楽曲「POSITIVE AFTER IMAGE」を公開した経緯が記憶に残っています。そういった意味では、HEATという企画を介しての楽曲リリースはYATTにとって稀なケースだと思うのですが、いかがでしょう?

TAKAKAHN:ちょうど良いかったんですよね。と言うのも、僕としてはYATTのアルバムを試行錯誤しているところだったので、HEATのお話をいただいたのはすごくタイミングが良かったんです。自然に制作へ進む良いきっかけになったと思っています。

ーアルバム制作が軸にあったから、今回の楽曲が生まれたという側面もあると考えられますか?

YOSHIROTTEN:そうですね。まず、前提としてアルバム全体のストーリーがあって今回の曲は、その入り口的な音楽になっていると思います。アルバムのストーリーの概要としては“とある惑星に不時着して様々なものや光景に出会っていく”という物語がテーマになっています。出会うとは言っても説明的に表すというのはでなく、音で情景描写を行ったり、気分的にそういうものになっていけばいいと考えているんです。

ーそういったアルバムにおけるストーリーは、すでにYOSHIROTTENさんの方でビジュアル化しているものもあるんですか?

YOSHIROTTEN:はい。銀色の海やパープルの雲だとか、アルバム全体を意識したビジュアルイメージを作ってTAKAKAHNに渡しているんです。彼はそれをスタジオに貼って制作を進めているんですよ。

※TAKAKAHNのスタジオに貼られたアルバムのビジュアルイメージ例。

TAKAKAHN:YOSHIROTTENが言うように、各々が作るもの(音とビジュアル)をリンクさせながらYATTとしての音楽を作っているので、スタジオにあるイメージが曲に投影されているんです。

視る人の環境によった楽しみ方ができる映像

ーそう考えると、ビジュアルと音が同時に表現されているMVこそがYATTとしての表現を帰結させているものになると思うので、MVを視聴させていただきます。

TAKAKAHN:このタイトル「in aeternum」の部分、かわいくないですか? 個人的に好きな部分です。ラテン語なんですけど、無垢な子供のような人が絵日記で書いた筆跡などをイメージしている部分なんですよ。全体を通して映画みたいなMVにしたいと思ってこんな感じにしたんです。

YOSHIROTTEN:この映像は画面の解像度にもこだわっていて、走査線のようなデジタルノイズを部分的に入れることで、スクリーンのサイズによって映像の見え方が変わるんです。大きいスクリーンの上では波打っている見えるし、地面の砂が動いているようにも感じられる。逆に小さい画面では見えなくなったりする。そんな風に視聴する環境に応じた楽しみ方を提示できるように、という思いがあります。ここに描かれているのは、どこか別の惑星の世界で、銀色の火山灰が降り積もった煌めく大地があって、そこを掘ると得体の知れない緑色の変なものが出てきたりする。そんな僕のイメージや構想を踏まえて、YARの一員でもあるTatsunori Kasaiが映像制作を担当してくれました。


ーこの映像にリンクする音楽も引き込まれていくような印象があります。どんな曲になったと思いますか?

TAKAKAHN:ダンスミュージックの音を使ったアンビエント的な曲にしたいと思って作りました。ビートが一定のリズムで鳴り続けているんですが、ゆったりとした音像でシンプルな曲なので、聴く人の気分によって聴こえ方に変化が出るようなものにしたいと思ったんです。

ーダンスミュージックとアンビエントと聞くと、どこか相反する要素があると思うのですが、1曲の中で表現するのは難しいことではないですか?

TAKAKAHN:いや、それもテクニックがあれば充分に可能なことだと思います。例えば、木魚のリズムは一定で心地よいものじゃないですか。それを音楽で再現しているようなものなので。ただ、そういった気持ちよさをしっかり表現できるためにも、もっと自分がやりたいことを突き詰めていきたいと思っていますね。

ーこの曲はYATTのアルバムの一部の音でもあります。アルバムの制作状況はいかがでしょう?

TAKAKAHN:ようやく最近になってダンスミュージックが作れるようになってきたと自覚していて、それが今回の曲に反映されているんです。これまで、積極的にオリジナルのダンスミュージックを作ってこなくてーー。

YOSHIROTTEN:そうだね。アンビエント的なアプローチが多かった。でも、僕らはもともとダンスミュージックが好きでパーティをやってきた背景があるので、そういった方向を向くのは自然な流れなんです。それに、YATTの音楽で多くの人に、その場所を楽しんでほしいという気持ちがありますからね。

TAKAKAHN:ね。だから、クラブで鳴らすことを想定した音楽を意識して作ろうと思って、3年くらい実験を繰り返し続けてきたんですよ。他のアーティストの音楽を研究しながら自分と照らし合わせて、といった作業を続けてきて、最近になって少しは大丈夫だと思えるレベルになってきたと感じているんです。あとはアルバム完成に向けて集中して制作を進めていきたいなと、そんな状況です。

YOSHIROTTEN:このシングルをきっかけに制作を進めて、できれば2023年中にアルバムとしてレコードをリリースしたいですね。それに、このインタビューが公開される12月9日には『MUTEK.JP』に出演予定です。YATTとしてオリジナル音源で行う初ライブですし、全編映像も使う形で展開します。アンビエントからノイズ、ダンスミュージックと、これまでのYATTが表現してきた音楽を一挙に提示する場所になると思うので、来てくれる人はその点にも注目していただければ。

TAKAKAHN:そのライブも踏まえ、2023年はアルバム発表に伴ってYATTとしての活動を活発化させることができたらいいな、という気持ちでいます。なので、今後もアルバム完成に向けて頑張っていきます。


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