MUSIC 2023.02.10

Amazon Original HEAT Vol.16 連載HEATという音楽現象を追う:Kohei Morita×Gliiico

EYESCREAM編集部
EYESCREAM編集部
Photograph_Masashi Ura, Text_Keisuke Honda, Edit_Ryo Tajima[DMRT]

『Amazon Original HEAT』(以下、HEAT)。各シーンで活躍する20人のキュレーターが、20組のアーティストをピックアップし、新たな楽曲とMVがAmazon Musicで公開されていくプロジェクトだ。
本連載では、キュレーターと選出されたアーティストとの対談を行い、HEATがどのような内容なのか、まだキュレーターがどのような思いでアーティストを選び、アーティストはそれにどう応じるのかをお届けする。
第16回目のキュレーターは渋谷区鶯谷町のサロンTETROのスタイリストであり、数多くのミュージシャンやクリエイター、モデルのヘアを担当する森田康平。そしてアーティストはカナダ・バンクーバー出身で現在は東京を拠点に活動するニコ、カイ、キオの3兄弟からなるバンド、Gliiico(グリコ)。音楽以外でも共通の趣味で日頃から笑い合う仲間が、互いを尊重しながら血と心を通わせる。

Curator_森田康平

Artist_Gliiico

音楽性・ルックス・人間性まですべてがツボ

ーまずは森田さんとGliiicoのメンバーとの関係性についてお聞きします。出会いのきっかけは?

森田康平(以下:森田):テトロのディレクター舞人くんがグリコのヘアメイクを担当しているので紹介してくれたことがきっかけです。舞人くんから「絶対に合うと思うよ」と言われたのを覚えています。その話をしたのがちょうど「Around」のMVがYoutubeに上がっているくらいの時期だったので、3年前くらいですね。初めてGliiicoの曲を聴いて、『めちゃくちゃいいじゃん!』と思いました。なんでもっと早く教えてくれなかったんだと思ったくらい(笑)。
 
Gliiico:ははっ(笑)。嬉しいね。ありがとう。
 
森田:実際に会ったのは恵比寿リキッドルーム「Song For A Future Generation」が初めてだよね。
 
Gliiico:そう。2021年だね。
 
森田:当時のアップカミングなアーティストを呼ぶイベントだったんですが、僕はイベントのブッキングのお手伝いをさせてもらっていました。そこにグリコを推薦して、ライブに出演してもらって。それがグリコの日本初ライブです。
 

 

ー出会う前からGliiicoの魅力にハマったとのことですが、具体的にどう言った部分に惹かれたのでしょうか?

森田:楽曲のよさやルックスなどいろいろな魅力がありますが、1番は全体のバランス感ですね。世の中にあまりいないタイプのように感じます。カナダで長く生活していたことが関係しているのかな? 日本の要素はありつつ、海外アーティストならではのエッセンスも散りばめられているような感性に新しさを感じました。それと交じり合う、3兄弟の人柄のよさもまた最高なんですよ。ライブで実際に会って話したことでさらに彼らを好きになって、普段から遊ぶような間柄になっていきました。サッカーゲームを一緒にやったり。まぁ、ゲームは僕が1番強いんですけど(笑)。
 
Gliiico:サッカーゲームの森田さんは本当にヤバいからね(笑)。森田さんもサッカーが好きで、オレたち兄弟も子供の頃からずっとサッカーをやっていたから共通の趣味だね。
 
森田:以前グリコが出演するフェスに行った際、会場で彼らと合流したんですが、サッカーボールを持参してましたからね。もう、本当にどこでもサッカー。サッカー以外だと、共通の友人であるtokyovitaminのスタジオへ一緒に遊びに行ったり、グリコの新曲を聴かせてもらうこともあります。そういえば、この前も夜中におかしな出来事があって。シカゴ在住の日系アーティストで友人のセン・モリモトがちょうど来日していて、うちで一緒にご飯を食べることになったんですが、グリコも参加することになって。たしか0時を回ったくらいの時間帯でしたが、家に10人以上の団体が急に来たんです。僕はせいぜい3~4人くらいだと思っていたのでびっくりして。舞人くんのファミリーやグリコの両親までいて、大勢すぎてとにかくわちゃわちゃでした(笑)。


 
Gliiico:たしかにそんなこともあったね(笑)。オレたちも森田さんのことが好きだから、一緒にいるとつい楽しくなっちゃうんだよ。今回のHEATのオファーにしても森田さんから声をかけてもらえて嬉しかったし、自由に振る舞うオレたちに対して一緒に何かを作ろうと言ってくれたAmazon側の存在も本当にありがたいと思った。
 

ーGliiicoがこれまでに参加した日本国内での取り組みやプロジェクトは?

Gliiico:リキッドルームでの初ライブを行うより前に楽天ファッションウィークでモデルとキャンペーンの音楽をやったよ。
 
森田:そうか、リキッドルームのイベントは楽天ファッションウィークの後だったっけ。なんだかずいぶんと遠い昔のように思えてきた(笑)。
 

オレたちにとって3人であることがちょうどいい

 

ー今回制作した楽曲についてお聞かせください。

Gliiico:今回の楽曲はHEATに書き下ろしたわけではないんだ。楽曲の制作自体は「Around」と同じフェーズくらいだったんだけど、これから出そうとしているEPにも違和感が少しあったから入れなかった。この曲が好きとか嫌いとかではなくて、バイブス的な意味でね。でもとても気に入っている曲だしずっとリリースしたい気持ちがあったから、ちょうど今回のオファーがあって、いい機会だと思って出すことに決めたんだ。
 
森田:先に聴かせてもらって、ひと言で言うととてもグリコらしい。僕が「Around」からグリコにのめり込んだこともありますけど、それと通じるような肩の力が抜けているセンスフルな楽曲だと思います。最近撮ったという僕たちの共通の友達が出演しているMVも観たんですが、それもまた妙にハマっていてストーリー性を感じました。MVは自分たちで撮ってるんだよね?
 
Gliiico:そうだね。
 
森田:映像の質感もいいよね。気張らなさというか、自然体でいるグリコの魅力みたいなものが滲み出ている気がする。でもバランス感覚に優れているから、しっかりとオシャレに仕上がってるし。僕の中ではすでにお気に入りの楽曲ですね。
 
Gliiico:楽曲のタイトルは「She’s got you」で、これを作ったときはアメリカの南のほうの曲に特にインスパイアされた時期だったんだ。カントリーミュージックになる前のフォークミュージックとかね。だから、あえて古く聴こえる曲を作った。俺たち兄弟全員、古い曲が好きだからね。森田さんが「Around」に通じるって言っていたけど、まさに「Around」もそこから生まれた曲なんだ。
 
森田:この曲も実体験から生まれたんだよね?
 
Gliiico:Yeah!!(笑)。その当時、新しい女の子に出会ってさ。それで、彼女はどんな曲を聴くんだろうと、インタビューみたいに質問しながら会話していったんだ。その答えで、その子がクールな女性かどうか大体わかるから。そうしたら60年代とか70年代くらいの古いカントリーを聴いていたんだよ。めちゃくちゃカッコいいじゃんと思った。それで彼女が聴いていた曲を1週間くらいずっと聴き続けて、できたのがこの『She’s got you』。
 

ーリアルですね(笑)。ちなみに映像は最近撮ったものとお聞きしましたが、曲を作ったときから少し時間が経過したことで感情に変化もあったのでは?

 
Gliiico:そうだね。時間が空いたことでこの曲の意味やテーマを自分なりにより深く理解できるようになったし、映像のアイディアにしても当時に比べてかなり広がったものになったから、いい方向に作用したんだと思う。レコーディングもMVの撮影も東京でやっていて、MVは歌詞に委ねたストーリーや感情をリアルに表現したかったんだ。例えばMV内に男性が髪を切るシーンがあるんだけど、そのシーンに関しては髪を切っているバージョンと切っていないバージョン、どちらの映像も用意することで時間そのものと感情の経過を重ね合わせてみたりね。
 
森田:今どきの音楽はBPMが早かったり、タイパ(タイムパフォーマンス)という言葉の台頭もあってなのか、倍速再生で音楽を聴いたりすることが時間対効果をよくするみたいな流れもあるんですが、逆に僕はそれを窮屈に感じてしまうんです。ある程度の余白を感じないと情緒や考えは生まれないから、そういう面でもグリコの楽曲を聴いているととても安まる。たぶんそれは音楽の幅の広さやグリコのピュアさが関係しているのかもしれないね。
 
Gliiico:たしかにオレたちが嫌いな音楽ってあまりないかも。本当にいろんなジャンルが好きだし、兄弟の誰かが好きならきっとおれも好きだろうってなる。全員が基本オープンマインドだから大体のことはOKだし、食べ物の好き嫌いだって特にないよ(笑)。今は兄弟別々に暮らすようになったけど、結局毎日会ってるしね。やっぱり一緒にいると楽しいんだ。
 

ー楽曲やMV制作の際、兄弟間ではどういった話をするんですか?

 
Gliiico:ケースバイケースだけど、基本的はそのときにやりたいことをやりたいようにやるし、それに対してノーはあまり言わないかな。誰かがアイディアを口にして採用することもあれば、そもそも言葉にしなくても頭の中で考えることが似ているから流れの中で進んでいくこともある。俺たちにとって3人であることがちょうどいいんだよ。1人目、2人目が「これはちょっとないかも」と思っていても、3人目が「ここはこうしたほうが……」って感じで自然とバランスが取れていく、みたいなさ(笑)。
 

ーカナダでの生活から日本での生活に変わることで、自分たちの音楽制作になにか違いを感じたり、新しい発見があったり、今後やってみたいことなどはありましたか?

 
Gliiico:根本的な考えに変化があるわけではないけど、日本とカナダでは文化はもちろん、あらゆるものに違いがある。やっぱり新鮮に映るし、インスピレーションを受けることはすごく多いよ。ずっとカナダで育ってきたけど、オレたちのお母さんは日本人だから、子どもの頃から頭の中で日本がどんな国なのか考えたりしていてさ。でも実際に日本に住んでみたら、小さい頃から想像していたイメージとは良くも悪くも全然違っていて面白い。日本で活動しているアーティストも日本ならではの魅力を持っているし、一緒にやってみたいと思う人がいるからすごく楽しいよ。特に理由はないんだけど、カナダでも日本でもオレたちが友達になるのはバンドをやってるヤツよりラッパーのほうが多くてさ。ジャンルの違いとかは気にならないし一緒に音楽を楽しめればそれでOK。オレたち3人とも、音楽が仕事って感覚がそもそもないんだよ。

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