『Amazon Original HEAT』(以下、HEAT)。各シーンで活躍する20人のキュレーターが、20組のアーティスト をピックアップし、新たな楽曲とMVがAmazon Musicで公開されていくプロジェクトだ。 本連載では、キュレーターと選出されたアーティストとの対談を行い、HEATがどのような内容なのか、まだ キュレーターがどのような思いでアーティストを選び、アーティストはそれにどう応じるのかをお届けする。
17組目はハードコアバンドSANDのボーカリストであり、ストリートブランドafterbase®のディレクターを務めるMAKOTOがキュレーター。ピックアップしたのは地元大阪の後輩にあたるハードコアバンドWRONG STATE。インタビューに参加してくれたのはボーカルのタットとギターのタカサゴの2人。HEATで発表された楽曲を介して、お互いのハードコアに対する思いについて語ってもらった。
Curator_MAKOTO Artist_タット(Vo)、タカサゴ(Gt) [WRONG STATE]
地元・大阪への愛憎をリリックに落とし込んだ
ーまずはHEATにキュレーターとして参加しようと思った理由を教えてください。
MAKOTO:単純に面白そうだったからですね。インディーズで活動しているアーティストをキュレーションする というテーマも良いと思いました。特にハードコアやハードコアパンクの人ってカッコいいけど、内に籠る人が多いから外に引っ張り出す役目として適任なのがオレかなと。
ー改めてWRONG STATEをピックアップした理由を教えていただけますか?
MAKOTO:純粋に彼らのセンスが良いと思ったからです。今回のHEAT用の楽曲もそうですね。映像も想像していた以上に良い印象でした。なかなか国内のハードコアのMVで、ああいう構成やトーン、予算使いのものは少ないよね。斬新でいいと思う。
タカサゴ:海外のハードコアパンクバンドのMVはストーリー仕立てで短編映画みたいな構成になっているものもあるじゃないですか。アメリカのバンドがやっているような、言うたらちゃんと予算をかけた映像を作りたいっていうのもありましたし、それも今回のHEATが費用を捻出してくれたから実現できたことだと思います。
ー今回の楽曲「CURSED CITY」はどういう内容なのか教えていただけますか?
タット:この曲は街のことを歌っているんですよ。僕らは大阪出身なんですけど、地元の街に対してドロドロした欲望の渦巻いているイメージがあって、愛してはいるけど好きになれない街というか、どこか相反する感情を持っているんですね。オレ、根暗なんで人の暗部を見たり感じたりすると逃げたくなるときがあって、でも逃げても仕方がないから抗って大阪で生きていこうっていう、そういう歌です。リリックでは権力やお金だとか、そういった体制に流されず自分たちで自分たちの遊び場を守ってライブをしていこうってことを描いていますね。
ーありがとうございます。ちなみに、MAKOTOさんとWRONG STATEは先輩・後輩の間柄になりますよね?
タット:そうですね。僕らからしたらMAKOTOさんは雲の上の存在というか。関西ハードコアシーンを象徴する方なので。
タカサゴ:だから、今だにちょっと怖いです。
MAKOTO: いや、やめてよ……(苦笑)。 まぁあと、WRONG STATEはメンバーのバランスも面白いんですよ。タットみたいに自分で「根暗なんで」って言っちゃうヤツもいれば、ドロくさいやさぐれた酒の飲み方するやつもいるし。オレからしてみたら、なんだこの変なバンドっていう。メンバー各々、カラーがバラバラなのが面白くて、そこも興味を惹かれたポイントですかね。趣味もバラバラなのにライブだとカチッとするので見ていて面白い。自然体というか、メンバーの意見も一致しないだろうなーって思うし、好きな音楽も全然違うんじゃない?
タット:そうですね。最初の頃は個々の意見が強すぎて険悪な時期もありました。
タカサゴ:今ではひとつ乗り越えてUNITYって感じなんですけどね。
MAKOTO:いいんだよ。バンドなんてそんなもん。どうせ他人やから。
地下30階で終わりそうだったからもう少し見やすいところで見てもらったら? って
ーそんな先輩でもあるMAKOTOさんからオファーされたときはどんな気持ちでしたか?
タカサゴ:恐縮すぎました(笑)。なんで僕らなんですか? っていう。めっちゃ嬉しかったんですけど、オレらもキャッチーではないし、大丈夫なのかなって思ったんですよ。
MAKOTO:そりゃキャッチーではないよ。オレらもキャッチーじゃないし、ハードコア自体もキャッチーじゃないじゃん。
タット:なんていうんですかね、広められるような存在じゃないというか。
MAKOTO:そこは難しいよねー。
タット:そんな感じに最初はビビりました。他ラインナップを見てもラッパーやシンガーソングライターが多くてバンド自体が少ないし、そのうえにハードコアバンドで、やっていることがニッチもニッチなんで。
MAKOTO:だからこそかもしれないね、オレからしたらセンスもいいし、このままいくと地下30階で終わりそうな感じだったから、もう少し一般の人も見やすいところで見てもらったら? っていう。なにこれおもしろそうって 思ってくれるいけてる若い子がいるかもよって感じで。
ー実際にHEATに参加してみてどうでしたか?
タット:未体験のことばっかりだったんで刺激的でした。このラインナップに入れてもらったことも嬉しいですし、MAKOTOさんにフックアップしてもらったのは自信に繋がるので。
タカサゴ:音楽シーンを見渡すと、やっぱりHIPHOPなどの音楽がメインストリームになっていて、普段から触れやすい音楽の中にパンクやハードコアはないのかなと思っていたんですけど、こんなローカルバンドが取り上げてもらって。他のバンド、例えば鋭児の楽曲もカッコよかったし、ラインナップの中にバンドが少なかった分、気合が入りましたね。
ーそもそもですが、WRONG STATEのメンバーはどんな風に集まったんですか?
タカサゴ:前任のボーカルとオレが始めたプロジェクトなんですけど、そのボーカルが仕事の都合で抜けちゃったんですよ。そのときに別バンドのボーカルだったタットに声をかけて今の編成になった形です。
タット:元を辿るとWRONG STATEはサイドプロジェクト的な感じでスタートしたよね。
タカサゴ:そうだね。オレも別でBRAVE OUTをやっているし、ベースのサカイもNUMBERNINEをやっているし、遊びのバンドではないけど、何か違うことをしようぜって考え方からスタートしたバンドです。
ーWRONG STATEのサウンドはNYHCの流れも汲みつつパワーバイオレンス的なアプローチやユースクルー感が感じられます。MAKOTOさんがWRONG STATEに感じる音の特徴は何ですか?
MAKOTO:具体的に説明するのは難しいんですけど、まさにその通りなんじゃないですかね。色々な要素を取り入れたとしても、センス良くミックスできるかどうかっていうのはまた別の問題じゃないですか。そこのところどうなの?
タカサゴ:パワーバイオレンスにもNYHCにも、それぞれに好きな部分があって、そういう自分の好みをピックアップしてミックスさせているような感覚ですね。自分たちが好きな曲展開や尺の感覚だとかを曲の中に落とし込んでいるような感じです。
ハードコアの好きな要素を集約させたかった
ーなるほど。今回の楽曲にしても展開が特徴的ですよね。一気にビートダウンするところとブルータルなリフで突っ走るパートのバランスがカッコいいです。
タカサゴ:この曲はHEATへの参加が決まってから制作したんですけど、厳密に言うと2つのトラックを1曲にまとめたような構成になっているんです。今回、この企画に参加できるということは、ハードコアバンドとしてアピールできる絶好の場でもあったので、自分が好きなハードコアの要素を1曲に集約させたいという思いが あったんです。それで、ファストなパートとすごく短いブレイクダウンのパートから、ブラストビートやかハードコ アパンクっぽい踊れるパートを入れつつ、最後には激しくモッシュできるようなビートダウンへ持っていく流れ にしていますね。ハードコアっていうサブジャンルの中でも自分が好きな要素が凝縮されている曲です。
タット:歌詞も含めてけっこう実験的な曲になったというか。今までにやらなかったことを出してみたので、自分たち的にはハードコアの中にあるキャッチーさを表現できたんじゃないかと思っています。聴かれ方というか、フロアやオーディエンスのことを意識しながらの制作は初めてのことでした。
ーそういったハードコアのキャッチーさ、人に受け入れられる魅力はどういう点にあると思いますか?
MAKOTO:やっぱりライブじゃないですかね。初めてそういう系のライブに行ったのはStraight Savage Styleだったかな。そこでピットを体験して顔を踏まれたり蹴られたりして、忘れられなかったね、腹が立ちすぎて。「なんやねん、こいつら」って。でも、同時に楽しかったなっていう。あとからモッシュの仕掛け合いの文化を知って「NYHCって、何それ?」ってなったんですよ。
タット:それって何年頃だったんですか?
MAKOTO:1998、1999年頃かな。遅かったよ、オレは。神戸のART HOUSE(ライブハウス)に行って血まみれになって帰ったもん。めっちゃ喧嘩になった(笑)。でも、カッコよかったね。そんなの見たことなかったからさ。見たことないもんはカッコいいじゃん。
タット:SANDって海外でも積極的に活動しているじゃないですか。バンド活動を始めた頃から海外でのライブを目標にしたりしていましたか?
MAKOTO:いや、全然ない。とりあえずStraight Savage StyleやDYINGRACE、edge of spiritのデモをゲットして、今のギターの石ちゃんと聴いて「何これ?」って。で、ライブに行って、これよりカッコいいライブをやりたいよねって。それが楽しかった。全然勝てなかったけど(笑)。それだけは思っていたかな。近所にこんなカッコいいバンドがいるんじゃ無理じゃんみたいな。石ちゃんと、アレよりもっとカッコいい曲をやってかましたいねーって。ずっとそればっかりだった。
タット:じゃあ、どういうきっかけで海外のバンドと繋がっていったんですか?
MAKOTO:誰だったかな……。MADBALL以降かな。フレディ(MADBALLのVo、Freddy Cricien)が『BLACK N BLUE BOWL』(NYHCバンドがこぞって出演するイベント)をやってるから出ろよって言うからNYにライブしに行って。そこからかな。ローカルショーにも出たけど必死だったしあんまり覚えてないね。本格的に海外でやるようになったのは、それぐらいからがターニングポイントだと思う。
カッコいいと思ってきた文化を現代に伝えればいい
ータカサゴさん、何かMAKOTOさんに聞いてみたいことはありますか?
タカサゴ:よく考えるんですけど、どうやったら若い子にハードコアのカッコよさを継承というか、伝えていけると思いますか? 自分らが経験してきたことを押し付けても響かないだろうし。今後どうなっていくんだろうって思うんですよ。オレらはどうすればいいんだろうって。
タット:めっちゃ真面目やん。
MAKOTO:いやわかるよ、オレも普段からそいういうこと考えてるし。
タカサゴ:やっぱり本質が残らなかったら安っぽいものしか生まれないと思うんで。
MAKOTO:今ってめっちゃ便利やん。海外のオンタイムのハードコアのライブをYouTubeで見ることもできるし。楽しみ方とかは時代で変わってくると思うね。オレたちはデモテープとか7インチレコードのジャケとか何百時間も見てきたんだ。他にやることねぇから。YouTubeもインスタもないし。サンクスリストや歌詞カードに掲載されてる住所を調べたりして。レコードを聴きながら、そういうのを見てるのが楽しかった。ジャケットにあるメンバー写真や写りの悪いライブ写真を見てずっと想像するの。どんなライブするんだろうとか、どんな人たちなんだろうとか。あの楽しみ方は今の人たちは、あんまないのかなー、サブスクとかだと。
タカサゴ:そうなんすよ。レコードをディグったり、ライブハウスに行ったり。サンクスリストで新しいバンドを知ったりとか楽しかったんで。
MAKOTO: シンプルにそういうのが楽しかったんだよって伝えればいいんじゃない。だから今オレはジャパニーズハードコアのドキュメンタリームービーの制作に取り組んでいるし。
先輩が体験したことを映像や文章で伝えていけたら
ーそのドキュメンタリームービーについて少し教えてもらえますか?
MAKOTO:『アメリカン・ハードコア』って映画(2006年公開、80年代のUSハードコアパンクシーンのドキュメ ント作品)が面白かったんですよね。それで、これ(USハードコア)を最初に日本へ持ち込んだのは誰なんだろうなーって考えるようになって。1990年代とかの話なんで、初めに好きなハードコアアーティストに手紙を送ったり、それこそアメリカに見に行ったりした人がいるはずで、それが誰だったんだろう? って話を先輩方に聞きに行っているんです。そしたら、もっと1980年代とかから? USのシーンにコンタクトをとっていた人が数珠繋ぎ的に出てきて。
ー当時は連絡手段が手紙になるわけですよね。
MAKOTO:そう、オレらの先輩方は好きなアメリカのバンドを音楽雑誌で見つけて、レコードを送ってくださいとかって手紙で伝えて、3ヶ月後にようやくレコードとステッカーが届いて、中開けたらレコードバッキバキだったりとか(笑)。最初の返信が3ヶ月とかっていうのを聞いて素敵だと思うし、カッコいい時代だなと思うんだけど、オレのときにはもうないわけですよ、それは。そういうカッコよかったこと、素敵だったことを伝えていく。オレもそうですけどハードコアの人は伝え下手ですからね。黙って背中見とけ、カスって態度で。でも、誰かストーリーテラー的な人が横にいたらいいと思うし、自分らの先輩が体験したことを映像や文章で伝えていけたらと。あとは受け取り手の判断に任せたいね、カッコいいと思うかどうかっていうのは。
タット:すごく面白そうですね。最初にUSのハードコアを日本に持ち込んだ人は、もう判明したんですか?
MAKOTO:ちょっとずつわかってきたところ。バンドの先輩たちに聞ける範囲のみだけど。
タカサゴ:誰なのか楽しみです。そういうドキュメンタリー制作もMAKOTOさんが先陣をきってやってくれるお陰で、もっと広く世間に周知できますよね、映像とかを出せば、初めて知る人にもリーチできそう。
MAKOTO:それでカルチャーも込みで遊び方を伝えることができたら、あとはライブで体感してもらって。せっかくだったら自分の内に抱えているだけじゃなくて、「そっちじゃなくてこっちの方がヤバいんだぜー」って伝えるのもいいかもしれないね。昔の服屋とかレコ屋の兄ちゃんは「お前、そんな感じの音好きだったら、これ聴いてみなー、ドン!」って感じだったし、強引だったけど、オレらも「ウッス!」みたいな(笑)。そんなやり取りが楽しかったもんね。カッコいい音楽やカルチャーをたくさん教えてくれた人たちは、オレにとっては田舎のダサいヤンキーの年上より全然カッコよかった。
タット&タカサゴ:そうですね!
INFORMATION
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Amazon Original HEAT連載 ARCHIVES
Amazon Original HEAT Vol.16 連載HEATという音楽現象を追う:Kohei Morita×Gliiico
Amazon Original HEAT Vol.12 連載HEATという音楽現象を追う:山田岳彦×村松遼(BOARD)
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